「部下の様子がおかしい」メンタル不調の部下を持った時マネージャーがすべきこと

近年、職場でのハラスメントや従業員のメンタルヘルスの問題に注目が集まり、社会全体で意識が高まっています。ただ、その一方で気になるのは、「こころの病気は誰でもかかりうる」という前提が置き去りになっていること。ハラスメントがなくても、適切なマネジメントをしていても、自分の部下がメンタルヘルスに不調を抱える可能性は、誰にでもあるのです。本記事では、部下の様子がおかしいとき、マネジャー(上司)として冷静に対処するためのヒントをお届けします。

自分の部下にメンタル問題が生じたときやってはいけない3つのこと

遅刻が増える、急な欠勤が重なる、明らかに元気がない——。部下の様子に違和感を覚えつつ過ごしていたある日。部下から個室へ呼び出され、こんな告白を受けるかもしれません。「最近、不安で仕事が手につかないんです」「心療内科に通院していて、薬を飲んでいます」「夜眠れず、仕事に集中できなくて」そんなとき、マネジャーとしてやってはいけないことが3つあります。

(1)隠す

1つめのやってはいけないことは「隠す」です。少し話は脱線しますが、10年以上前は、自分の厳しい指導で部下が不調を抱えたり離職したりすると、それを武勇伝のように語る人がいました。時代は変わり今では、部下の不調が知られたら、「自分のマネジャーとしての評価が下がるのではないか」と恐れ、隠そうとする人がいます。端的にいえば保身です。具体的には、以下の行動は事態を悪化させることが多く、マネジャーとして避けなければなりません。

  • 部下本人に「この話はしばらく内密にしておくように」と口止めする
  • 自分と部下の間のコミュニケーションだけで解決しようとする
  • 自分のところで情報を止めて必要な報告をしない

部下が重いこころの病気にかかっている場合には、命にかかわることもあります。ことの深刻さを認識し、マネジャー個人の都合で隠蔽しないことです。経営トップの視点では、「現場のマネジャーが誤った保身に走らざるを得ない雰囲気を、社内に作っていないか?」とチェックする必要があります。

(2)励ます

2つめのやってはいけないことは「励ます」です。うつ病の人を励ましてはいけないことは、よく知られています。しかし、いざ自分の身近な部下が不調を訴えると、「あなたは、病気ではないから大丈夫」というメッセージを送りがちです。意を決して不調を打ち明けた部下に、こんな言葉は追い詰める可能性があります。

  • 「病気には見えないから、大丈夫だよ」
  • 「きっと今は疲れているだけじゃない?」
  • 「うまいものでも食えば、元気出るよ」
  • 「少しすれば復活するでしょ」

部下が病気か否かを診断するのは医師であって、上司ではありません。自分は医療の専門家ではないという分別を持ち、不用意な励ましは慎むことです。

(3)自分を責める

3つめのやってはいけないことは「自分を責める」です。冒頭でも触れましたが、「こころの病気は誰でもかかりうる」という認識が薄いために、部下の不調に責任を感じすぎる人がいます。もちろん、ハラスメントなど不適切な接し方をしていたのであれば責任があります。しかし、適切なマネジメントをしていても、部下がこころの病気になる可能性はあるのです。以下は厚生労働省のWebサイトからの引用ですが、「生涯を通じて5人に1人がこころの病気にかかる」ともいわれると記述があります。

こころの病気は、誰でもかかりうる病気です

こころの病気で病院に通院や入院をしている人たちは、国内で約420万人にのぼりますが(平成29年)、これは日本人のおよそ30人に1人の割合です。生涯を通じて5人に1人がこころの病気にかかるともいわれています。こころの病気は特別な人がかかるものではなく、誰でもかかる可能性のある病気といえるでしょう。
―出所)厚生労働省「こころの病気について理解を深めよう

5人の部下を抱えていれば、そのうちの1人がこころの病気になってもおかしくない、ということ。実際に部下がこころの病気になると、上司として大きなショックを受けるものです。筆者も経験があります。しかし、必要以上に自責の念や罪悪感にかられていると、今度は自分自身がメンタルヘルスの不調を抱えかねません。注意が必要です。

具体的なマネジメントのヒント

では、具体的にどうすればよいのでしょうか。マネジメントのヒントを3つ、お伝えします。

(1)会社の指針のもとに行動する

1つめは「会社の指針のもとに行動する」です。部下のメンタルヘルスの不調は、現場マネジャーで判断できる範疇を超える事案となります。マネジャー個人で判断せず、会社の指針のもとに対応するスタンスが大切です。経営トップの視点では、メンタルヘルス不調の従業員が出たときの対応について、具体的なフローを定めておかなければなりません。プライバシーに配慮して誰に情報を共有するのか、どんなアクションをとるのか、ルールと担当者を明確化しておきます。

(2)本人の言うことは傾聴するが真に受けない

2つめは「本人の言うことは傾聴するが真に受けない」です。マネジャーの立場で認識しておきたいのは、部下にメンタルヘルスの不調があるからといって、腫れ物に触るよう接したり、本人の希望をすべて叶えようとする必要はないということ。

むしろ、「かわいそう、助けたい」という感情論で先走ると、会社・部下本人の双方に好ましくない結果を招きやすいといえます。なぜなら、こころの病気を抱えているときは、その症状として、本来の自分とは異なる判断基準で物事を話したり、情緒不安定になったりすることがあるためです。たとえば、こんなケースがあります。

  • すぐに会社を辞めたいと懇願する
  • これ以上迷惑はかけられないから降格させてほしいという
  • 休職だけは絶対にしないと嫌がる

真に受けてよいのは、ある程度、状態がよくなって、部下本来の判断基準で話ができるようになってから。それまでは、じっと聞き役に徹して傾聴し、否定も肯定もしないでおきます。

(3)産業医や部下の主治医の指導をあおぐ

3つめは「産業医や部下の主治医の指導をあおぐ」です。本人の言うことを真に受けずに、どうすればよいかといえば、産業医や部下の主治医に判断を委ねること。これに尽きます。客観的に適切な判断ができるのは、本人でも上司でも社長でもなく、専門家です。

たとえば、部下に休みをとるよう伝えても拒むときは、「主治医の先生は、なんて言っている?」と聞いてみます。「休んだほうがいいと言っています」と返ってきたり、診断書が出ていれば、それがそのとき考えうる最適解です。

経営トップの立場からは、メンタルヘルス対応に強い産業医と契約しておくと心強いでしょう。従業員数50名未満の企業は、産業医を選任する義務はありません。しかし、中小企業であっても、一定の割合でメンタルヘルス問題には遭遇します。前述のとおり、こころの病気は誰でもかかりうるからです。いざというとき、従業員本人と会社組織にとってベストな対応をできる体制づくりは、不可欠なリスクヘッジといえます。

さいごに

筆者は、身近な人の闘病とそのサポートを通して、こころの病気の知識を深めてきた経緯があります。自身も、介護疲れやさまざまな事情が重なって、メンタルヘルスに不調を抱えていた時期がありました。こころの病気を抱える本人のつらさも、それを受け止める周囲の人たちの苦悩も、自分が経験した範囲ではありますが、知っています。企業でマネジャーとして働くうえで役立ったのが、その経験です。本記事では筆者の体験を踏まえつつ、現場のマネジメント視点で実務ポイントをお伝えしました。

三島 つむぎ

執筆者三島 つむぎ
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ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

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