孤立、心の不調…「コロナハラスメント」「ワクチンハラスメント」にご注意を

新型コロナは収束の気配を見せることなく、依然として様々な業界に影響を与え続けています。

また、様々な情報が飛び交っていることが人の心を不安にしている中で、コロナウイルスの感染者やワクチン未接種の人に対する差別も生じています。職場でのこうした差別は「コロナハラスメント」「ワクチンハラスメント」として知られ始めています。

では、このような事例や、企業として取るべき対策にはどのようなものがあるのでしょうか。一緒に確認していきましょう。

自宅療養の女性が自死か

去年1月に東京新聞が、新型コロナウイルスに感染したある女性について報じています。東京都内の30代の女性が、コロナ感染後自宅で療養中に亡くなり、自死をほのめかすメモが見つかったというニュースです。女性は夫と子どもの4人家族で、先に陽性となった夫の濃厚接触者と認定され、女性と小学生の長女がPCR検査で陽性が発覚しました。無症状だったため自宅療養していましたが、コロナ感染後「学校でコロナを広めてしまった可能性がある。娘の居場所がなくなるかも」と夫に悩みを打ち明けていたといいます。

新型コロナ流行直後には、医療関係者が差別を受けたことが話題になりました。
また、法務省にはワクチン未接種であることに対する差別についての相談が相次ぎ、法務省には多くの相談が寄せられています。

ハラスメントの背景にある感情

日本産業カウンセラー協会の中川智子スーパーバイザーは、コロナハラスメントが起きる背景にこのような感情があるとしています。

人は欲求不満の状態に陥った時に攻撃的になったり退行したり、何かに固執したりします。今回の新型コロナウイルスは、人々にこれまで経験のない不安と恐怖、そして我慢を強いており、安全安心という欲求が満たされない状況が続いています。抱えきれなくなった不安は怒りにかわり、相手を攻撃するのです。コロナハラスメントの背景にあるのはそういった感情と言えるでしょう。

引用:「職場でコロハラを起こさないために」日本産業カウンセラー協会

「自分は我慢しているのに、あの人は楽しい場所に出かけていって感染したのではないだろうか、それならば許せない」
といった感情から起きる嫌がらせも少なくないことでしょう。

コロナ感染をきっかけに孤立し退職

筆者の知人は50代の介護士ですが、昨年新型コロナに感染しました。介護職ですから感染防止には人一倍敏感になっていたはずなのですが、いつどういった形で感染したのかはわからないといいます。同居する夫と2人の子どもも検査の結果、陽性反応でした。女性がまず陥ったのは、自分がきっかけで家族を巻き込んでしまったかもしれないという感情です。

そしてホテル療養を終えて職場に復帰してから、今度は職場で辛い状況に立たされます。上司の態度があからさまに冷たくなっただけでなく、自分にも聞こえるところで職員同士が自分の感染の話を小声で噂していたのです。さらには、会社からは自分のコロナ感染については黙っているように言われたにもかかわらず、ある訪問先で「ホテルに缶詰だったんでしょう?」と声をかけられたといいます。幸いその訪問先は女性を否定するようなことはありませんでしたが、誰かが女性の感染を利用者に教えていたということで、女性は人間不信にも陥りました。

後遺症で息苦しさや味覚障害が続く中で仕事を続けるのも厳しく、しかし休みを欲しいというと「またどこかに遊びに行くの?」と嫌みを言われる始末でした。気分転換に美容室に行きたくても、髪が短くなっていると美容室に行ったことが分かってしまうために我慢を続けていたと言います。女性は職場で孤立し、コロナの副作用だけでなく不眠にも苦しむようになり、心療内科を受診しました。結局、女性は退職しました。

ワクチン接種の強要例も

また、日本経済新聞は、看護師が「ワクチンを打たないのなら自己都合退職届にサインするように」と迫られた事例を紹介しています。事業主側は接種しない従業員は自宅待機させ、その間の賃金は支払わないとも公言したともいいます。ワクチン接種は任意であり、こうした扱いは「ワクチンハラスメント」に当たる可能性が大いにあります。相談を受けた兵庫労働局が事業者と調整し退職勧奨や自宅待機といった取り扱いは中止されましたが、ワクチン接種は任意であるということが浸透していなかったとも考えられます。

ワクチンに関しては、アレルギーのある人や、既往歴によっては接種にあたっての注意が必要な人もいます。「職域接種なのに打たない人は社会に協力的ではない」。筆者の身近で聞かれた言葉ですが、そのような言動も差別に当たるでしょう。

ハラスメントを受けているのでは?と思ったら

ここまでコロナ感染やワクチン未接種による差別的言動について紹介してきました。では、自分が職場でこれらの事例のような扱いを受けてしまった場合はどうすれば良いのでしょうか。

まず、法務省が「人権相談」としてインターネット窓口を受け付けています。また、その他にも電話相談窓口がありますので、積極的に利用したいものです。

相談窓口一覧
引用:「新型コロナウイルス感染症に関連して -差別や偏見をなくしましょう-」法務省

また、厚生労働省は職場での嫌がらせなどについてこのように説明しています。

例えば、過去に新型コロナウイルスに感染したことを理由として、人格を否定するような言動を行うこと、一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし職場で孤立させること等は、職場におけるパワーハラスメントに該当する場合があります。

引用:「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」厚生労働省

嫌がらせや不当な扱いを受けた場合は、各地の労働局に相談するという手もあります。職場で考えたいのは、一番辛いのは感染者本人だということです。周囲に迷惑をかけているという自己否定に加えて療養・退院後も後遺症が残る人も多くいます。

なお、先ほどの日本産業カウンセラー協会スーパーバイザーの中川智子氏は、ハラスメント対策として、職場の誰もが不安を打ち明けられる体制も必要だと指摘しています。感染した本人だけでなく、ハラスメントの背景にある、社員の「漠然とした不安」を解消することも重要なのです。

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清水沙矢香

執筆者清水沙矢香
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2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に関連メディアに寄稿。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

最適な産業医をご紹介・サポートいたします

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