産業医による面接指導はどのような場合に行われるのか

産業医による面接指導とは長時間労働者や高ストレス者などに対し、医師による指導や助言、また必要な場合には医療機関への受診勧奨などを行うことを言います。面接指導の実施は事業者に対し、法律で義務付けられているものです。

長時間労働と心疾患や、脳血管疾患には因果関係があるとされ、心理的な負担が高いまま就労していると、精神疾患などが発生しやすくなると言われています。面接指導はこれらの健康問題の予防あるいは早期対応、リスクを低減するのが目的です。

本記事では、面接指導の実施が必要となるケースを紹介するとともに、面接指導における注意点や当該従業員の協力が得にくい場合の対処法、面接指導をスムーズに進めるための方法などを解説します。

産業医による面接指導とは?

産業医は面接指導をその職務として行います。面接指導では当該従業員の健康状態の観察を行い、生活習慣などへの指導や助言、あるいは就業上の必要な措置を実施すること、医療機関への受診勧奨などを行うことが面接指導の主な内容です。

産業医が従業員に行う面談には、従業員の申し出により実施される健康相談、休業や復職時の面談などがあります。これらの面談は産業医の業務に含まれるものですが、必要に応じて行われるものであり、法律上、義務とはされていません。これに対して労働安全衛生法によって義務付けられている面談として、次の2つの面接指導があります。(*1

  1. 長時間労働者を対象とする面接指導(第66条の8及び第66条の9)
  2. 高ストレス者を対象とする面接指導(第66条の10)

面接指導を実施するのは、労働安全衛生法では「医師」と規定されていますが、厚生労働省による「長時間労働者への医師による面接指導制度について」の資料や「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度 実施マニュアル」では、業務内容や職場環境を把握する事業場の産業医が望ましいとされます。

面接指導の方法は厚生労働省の通達において「面接指導を実施する医師が必要と認める場合 には、直接対面によって行う必要がある」と記されており、従業員の様子を適切に把握し、円滑なやり取りが行えるよう原則として対面によって行うのが良いでしょう。(*2

長時間労働者・ストレスチェック後面接指導の流れ

次に面接指導を実施する際の流れをご紹介します。人事・産業保健担当者が中心となって準備を行い、また面接指導を行ったあとに必要な業務もあります。

1. 面接指導の対象者の選定
―労働時間の算出を行い、対象者を抽出します。また、産業医などストレスチェックの実施者にストレスチェックの結果から高ストレス者を判定してもらい、対象者を抽出します。

2. 面接指導の申し出の勧奨
―従業員に労働時間に関する情報やストレスチェックの結果を通知します。併せて、面接指導を行うことが必要とされる従業員に対して、メールなどで面接指導の申し出の勧奨を行います。

3. 申し出のあった従業員の勤務状況などの情報を産業医へ提供
―申し出のあった従業員の勤務状況など、面接指導を行うために必要な情報を産業医に共有します。

4. 面接指導の実施
―対象の従業員、産業医のスケジュールを調整し、面接日時、場所などを設定。従業員と産業医に通知します。指定日時に産業医に面接指導を実施してもらいます。

5. 面接指導後の報告書の受領と意見聴取
―産業医に面接指導の結果報告書の作成を依頼し、提出してもらいます。提出に併せて産業医の意見を聴取します。

6. 就業上の措置・環境改善の実施
―産業医の意見をもとに、労働時間の見直しや残業の制限、休暇の取得勧奨、就業環境の調整・改善など、必要な措置を講じます。

面接指導が実施される2つのケース・対象者

事業者に義務付けられる面接指導の対象となるのは「長時間労働者」と「高ストレス者」です。それぞれどのようなケースが該当するのか、具体的に解説します。

1.長時間労働者への面接指導

労働安全衛生法第66条の8、第66条の8の2および第66条の8の4により、事業者には、長時間労働者に対して医師による面接指導を行うことが義務付けられています。面接指導が必要な理由については、厚生労働省が配布する「長時間労働者への医師による面接指導制度について」において次のように記されています。(*3)

「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(以下「脳・心臓疾患」という。)の発症が長時間労働との関連性が強いとする医学的知見を踏まえ、脳・心臓疾患の発症を予防するため、長時間にわたる労働により疲労の蓄積した労働者に対し、事業者は医師による面接指導を行わなければならないこととされています」

長時間労働者に対する面接指導と事後の措置により、疾病リスクの低減が期待されています。

それでは面接指導の対象となる「長時間労働」とは、どれくらいの労働時間を指すのでしょうか。その基準は従事する業務や働き方によって異なり、次の3種類に応じた基準が設定されています。

1. 労働者(高度プロフェッショナル制度適用者を除く。裁量労働制対象者や管理監督者を含む)
―一般的な業務に従事する労働者において、月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる場合に面接指導の対象となります。疲労の蓄積が認められる状態とは、実際には労働者の申し出により識別しており、申し出のあった労働者には必ず面接指導を行います。

2. 研究開発業務従事者
―研究開発業務従事者は専門的、科学的な知識や技術を有し、新技術や新商品などの研究開発にまつわる業務に従事する労働者を指します。長時間労働になりやすい傾向があり、業務内容の特殊性から健康リスクの懸念も大きくなりやすいとされています。

研究開発業務従事者においては、月100時間超の時間外・休日労働を行った場合に、一律面接指導を実施することが義務付けられています。これに加えて通常の労働者と同様に、月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められ、面接指導を申し出た従業員には、実施義務が生じます。

3. 高度プロフェッショナル制度適用者
―⾼度プロフェッショナル制度とは、労働基準法に定められた規定を適⽤しない制度をいいます。制度の対象になるのは、例えば⾦融商品の開発業務、資産運用業務、投資に関する助言業務といった「特定高度専門業務」に従事する労働者です。

高度プロフェッショナル制度の下では、こうした専門性の高い労働者に対して、労働時間の管理については柔軟に行われることが予定されています。そのため「労働時間〇〇時間以上」という一律の規制になじまない面があります。

そこで適用対象者の健康管理のために、事業者が労働時間の管理・把握を行う「健康管理時間」を規定し、その健康管理時間が一定を超えた場合に面接指導の対象とします。面接指導が義務となるのは、健康管理時間が週40時間を超え、その超えた時間が月100時間を超えて労働を行った労働者です。

1〜3の基準を表にまとめると、次のとおりです。

実施必須申し出があれば実施必須努力義務
1.労働者(裁量労働制、管理監督者含む) 80時間超の時間外・休日労働 (ただし、申出がない場合でも実施するよう努める)事業主が設けた基準以上の長時間労働を行った者   また、月45時間超の時間外・休日労働を行い健康への配慮が必要な場合は措置を講ずることが望ましい
2.研究開発業務従事者100時間超の時間外・休日労働 (違反は罰則あり。労働安全衛生法120条)*780時間超の時間外・休日労働事業主が設けた基準以上の長時間労働を行った者
3.高度プロフェッショナル制度適用者健康管理時間が週40時間を超え、その超えた時間が月100時間超の労働 (違反は罰則あり。安衛法120条) 左記の対象者以外の者で申し出た者
出典:厚生労働省 「長時間労働者への医師による面接指導制度について」

なお、産業医の設置義務のない従業員50人未満の事業場でも、前述の基準に従い、面談指導を実施する必要があります。

◇労働安全衛生法改正により面接指導の基準が月80時間に引き下げ

―労働安全衛生法は2019年4月に改正法が施行されています。この改正により、通常の労働者の申し出を受けた面接指導は、従来の月100時間から80時間に引き下げられました。労働者の疲労蓄積の実態により、適合した健康リスク対策を行うこととなっています。

2.ストレスチェックによる高ストレス者への面接指導

ストレスチェックは職場のメンタルヘルスに関するリスクのアセスメントとして実施され、その結果に基づき、事業者は労働環境の調整や休暇の取得勧奨など必要な措置を講じます。常時50人以上の労働者がいる事業場では、年1回以上のストレスチェックを実施しなければなりません。ストレスチェックによる高ストレス者に対する面接指導は、当該従業員の申し出を受けて実施され、労働安全衛生法第66条の10第3項において義務付けられています。

高ストレス者とは、ストレスチェックにおいて一定の基準を満たした者のことを指しますが、厚生労働省のストレスチェックに関する指針によると、具体的に次のような基準を満たす場合を高ストレス者と呼びます。(*4)

「次の1又は2のいずれかの要件を満たす者を高ストレス者として選定するものとする。この場合において、具体的な選定基準は、実施者の意見及び衛生委員会等での調査審議を踏まえて、事業者が決定するものとする

 1 調査票のうち、『心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目』の評価点数の合計が高い者

 2 調査票のうち、『心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目』の評価点数の合計が一定以上の者であって、かつ、『職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目』及び『職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」の評価点数の合計が著しく高い者』」

すなわち、ストレスチェックにより高い心理的負担を自覚し、あるいは一定以上の心理的負担があっても支援が十分でない者が高ストレス者として選定されます。高ストレス者に該当する労働者はメンタルヘルスリスクが高いと評価されますが、適切な面接指導と事後の措置を行うことにより、精神障害・不安障害の防止、職場環境の改善につなげていくことが大事です。

健康診断の結果をもとに行われるのは「保健指導」

産業医の業務に「保健指導」というものがあります。「面接指導」と似たような名称ですが、内容と性質に違いがあります。「保健指導」とは健康診断を行った場合に、所見があった従業員に対して行われる指導です。保健指導は労働安全衛生法第66条の7において次のように規定され、努力義務とされています。(*5)

「事業者は、第66条第1項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第5項ただし書の規定による健康診断又は第66条の2の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。」

保険指導も従業員の早期の治療や病気予防につなげることができます。保健指導の対象となる従業員に面談を受けるよう促すなど、努力義務に応じた対応が必要です。

産業医による面接指導での確認内容

面接指導での確認内容

産業医の面接指導においては、従業員の勤務状況やその他の情報収集を行い、健康状態や心理的な負担の状況などを確認する必要があります。法令で定められている確認事項は、次のような項目です。

  • 当該労働者の勤務状況…労働時間、業務日数や業務内容などを把握します。
  • 当該労働者の疲労の蓄積状況…業務の負担や疲労の状況、休養や睡眠時間の状況などをヒアリングします。
  • 当該労働者の心理的負担の状況…ストレスチェックの結果の他、仕事による心理的な負担の状況を把握します。
  • その他の状況…健康診断の結果や生活習慣などを把握・ヒアリングします。

面接指導の実施後には措置を講じる

面接指導を実施した後に何の対策も施さなければ、健康リスクやメンタルヘルスリスクは低減できません。面接指導を実施した従業員の健康保持のために、必要な措置について医師の意見を聴き、事後措置の実施が必要です。法令においても、労働安全衛生法第66条の8第4項・第5項、第66条の10第5項・第6項により、意見聴取および医師の意見に基づく就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少、有休休暇の付与などを行うことが定められています。

産業医の面接指導の記録は5年間保管する

労働安全衛生規則第52 条の6、第52条の18において、面接指導の実施後には、事業者はその結果の記録を作成し、5年間保存しなければならないと定められています。面接指導結果報告書を準備し、面談後に産業医に記入してもらうことでこれを記録とし、保存しておくと良いでしょう。

要件を満たせば産業医の面接指導はオンラインでもできる

産業医の面接指導は原則として対面で行われます。労働者のしぐさや反応なども含め、心身の状態を十分確認しながら行う必要があるからです。ただし、労働者の健康状態が十分に確認できる、プライバシーが守られるなど、対面と実質的に異ならない条件のもとでは、オンラインでの実施も可能です。

オンラインで面接指導を行うための要件は、大きく分けて産業医の要件、通信機器に関する要件、会社側の実施体制に関する要件があり、主立った要件を厚生労働省の通達によりまとめると次のとおりです。(*2)

  • 面接指導を実施する医師が、対象労働者の所属する事業場の産業医であり、少なくとも当該事業所の1年以上にわたり健康管理を担当し、過去1年以内に巡視していること。または、過去1年間に対象労働者の対面指導を行っていること。
  • 使用する情報機器により、労働者の心身の状態を十分把握できるものであり、通信状況が安定していること。
  • 労働者のプライバシーに配慮しており不正アクセスに対する措置が講じられていること。
  • 情報通信機器を用いた面接指導の実施方法について、衛生委員会等で調査審議を行った上で、事前に労働者に周知していること。
  • 産業医が緊急に対応すべき事態を把握したときに、産業保健スタッフや近隣の医師などにより、緊急対応が可能であること。

面接指導の実施には申し出が必要か

面接指導の実施における「申し出」

長時間労働者への面接指導も、高ストレス者へ行われる面接指導も、労働安全衛生規則第52条の3第1項、第52条の16第1項・第2項の定めのとおり、基本的には従業員の申し出により実施されるものです。ただし、先述したように、研究開発業務従事者が100時間超の長時間労働を行った場合など、従業員からの申し出を必要とせず、事業者が実施すべきケースがあります。

また産業医は、該当する従業員に対して申し出を行うよう勧奨できるため、従業員にメールで通知するなどして面接指導を受けるように促します。

従業員からの申し出は、書面や電子メール、社内の申請システムを使用するなど記録が残る方法で行いましょう。申出書の書式は、以下のWebサイトなどにひな形があるので、参考にしてください。

宮崎労働局 ストレスチェック制度情報サイト

宮崎産業保健総合支援センター 長時間労働者・高ストレス者に対する面接指導に必要な書類

面接指導は強制できない

面接指導の実施は事業者の義務ですが、従業員に断られてしまう場合もあります。面接指導は従業員の意思を無視して、強制することはできません。しかし、事業者には安全配慮義務が課されていることから、万が一従業員に健康上の問題が生じた場合には法令違反となる可能性があり、民事訴訟でのリスクが生じます。そこで、面接指導の実施をより強く従業員に求められるよう、就業規則に面接指導に応じるルールなどを定め、業務命令として指示できるように工夫をしているケースもあります。

面接指導を拒否された場合の対処法

当該従業員に面接指導を拒否された場合、面接指導の実施を業務命令として出せる根拠を就業規則に定めていない場合にも、次のような対応を検討しましょう。従業員が応じやすくなるとともに、事業者側としても安全配慮義務を果たすために十分な手を尽くしたものと認められやすくなります。

複数の候補日を用意する

業務が忙しく、面接の時間が取れないという場合には、日程の調整がしやすいように複数の候補日を提示したり日程を広く設けたりしてみると有効的です。

産業医には守秘義務があることを伝える

産業医は労働安全衛生法第105条において、「労働者の同意がない限り、労働者の健康管理情報を上司および企業側に伝えてはならない」とされています。労働者の同意がない限り、会社側に面接指導の内容を伝えません。こうした守秘義務があることに加え、産業医に相談する意義やメリット、また面接指導を申し出ても会社が不利益な取り扱いをすることはないといった点などについても、従業員に知らせましょう。安心感が生まれ、面接指導を受けやすくなるはずです。

面接指導の申し出方法を周知する

申し出のための書式を用意する、社内のシステムで申し出の登録を行えるようにするなど、申し出方法を整え、明確にし、また事前に申し出方法を周知することも有効です。相談しやすい環境づくりに役立ちます。

小規模事業場における面接指導の実施義務について

長時間労働者への面接指導の実施は労働安全衛生法第66条の8において、事業場の規模にかかわらず、すべての事業者に義務付けられています。産業医の選任義務のない従業員数50人未満の小規模事業場においては、例えば地域産業保険センターの医師に依頼するなどして、面接指導を適切に実施することができます。

また、ストレスチェックについては、従業員50人未満の事業場では義務化されていません。しかし、高ストレス者の発生は従業員のパフォーマンスに影響を及ぼし、小規模事業場では業務停滞などの問題に直結する可能性があります。ストレスチェックの実施は義務ではありませんが、地域産業保険センターなどに相談してみるのも良いでしょう。

まとめ

産業医による面接指導は、一定の長時間労働を行った労働者やストレスチェックで高ストレス者と判定された労働者に対して行われます。基本的には労働者の申し出を受けて事業者に実施義務が生じますが、申し出を待たずに実施しなければならないケースもあります。

面接指導後は就労場所や業務内容の変更、休暇の取得勧奨などの措置を行うことにより、当該従業員の心身の健康に関するリスクの低減につなげます。産業医と事業者が連携して面接指導を促し、相談しやすい環境を整えましょう。

*1 厚生労働省 こころの耳 長時間労働者、高ストレス者の面接指導について

*2 厚生労働省 令和2年11月19日基発 1119第2号通達 「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」

*3 厚生労働省 「長時間労働者への医師による面接指導制度について」

*4 厚生労働省 「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」p.4

*5 e-Gov 労働安全衛生法第66条の7

 

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