働き方改革が叫ばれるなか、社員の過労を防ぎ、心身の健康を守ろうとする動きが強まっています。長時間労働が常態化していた企業も、多くが時代に合った働き方へ舵を切りました。一方、「肝心の部下が言うことを聞いてくれない」と、新たな悩みを抱える経営者・管理職が増えています。本記事では、自ら過労に飛び込む無謀な働き方がとまらない部下のマネジメントについて、考えていきたいと思います。
目次
頑張りすぎる部下の実態
頑張りすぎる部下にはどんな特徴があり、職場では何が起きるのか。まずはその実態から、見ていきましょう。
頑張りすぎる部下の特徴
頑張りすぎる部下には、以下の特徴が見られます。
- 早く帰るように促しても帰らない
- 休日や深夜でも社内外へのメールやチャットを送る
- 業務量を減らしても改善しない
- 仕事ぶりは優秀で成果を出している
- 意志が強い、頑固な一面がある
- 周囲からは「頑張っている人」と一定の評価を得ている
上司としての悩み
上司としては、健康配慮義務(安全配慮義務)やコンプライアンスが気になります。「働き方を素直に変えてほしい」というのが本音です。最初は「仕事が多すぎるのでは?」と考え、業務量を調整します。しかし、一時的に是正されても、気づくと元どおりに。面接の場を設けて話し合うのですが、部下には妙に頑固な一面があり、改善には至りません。
問題を放置すると起きるリスク
なかなか手強い頑張りすぎ部下。しかし上司が根負けして放置すれば、以下のリスクがあります。
- 他の従業員が働きづらくなり職場の雰囲気が悪くなる
- 取引先から「ブラック企業なのでは?」と訝しがられる
- 部下自身が心身の健康を損なって休職や離職に追い込まれる
- 企業としては戦力となる人材を失う
- 労働基準監督署から指導される
頑張りすぎは癖になる
筆者はかつて勤めていた企業で、面接官として多くの転職希望者と接してきました。その経験からいえば、優秀な人材が過労から体を壊して離職を繰り返すケースは多いと感じます。履歴書には「新しい業界に挑戦したい」とポジティブな転職理由が書いてあっても、深く話していくと、
「実は長時間労働がひどくて——」
「3ヶ月間、1日も休みがなかった」
「実は体を壊して実家に帰っていたんです」
といった話をよく聞きました。「なるほど、職場環境に恵まれなかったのだな」と思い、自社での採用が決まり、一緒に働き出すと、「おやおや?」と思います。前職と同じ働き方を、また繰り返しているのです。
頑張りすぎは癖になり、癖になると抜けにくいことがわかります。上司がいくら働き方を変えるよう伝えても、変わらないわけです。部下本人にとっては、それが癖となり習慣化しているのですから。いったん習慣化した行動を変えるのは難しいことです。
部下が頑張りすぎる3つの理由
なぜ頑張りすぎに陥ってしまうのか。筆者の体験を踏まえつつ、その理由に迫りたいと思います。
- 承認欲求が強い
- 視野が狭い
- 過集中の傾向がある
(1)承認欲求が強い
1つめの理由は「承認欲求が強い」からです。こう書くと、「休日まで働いて褒めてもらいたい、ということか」と思われるかもしれません。確かに、まずそういったタイプが挙げられます。本人が意識している・していないにかかわらず、“がんばってますアピール”の一環として、長時間労働が癖になっているケースです。
一方でより根が深いのは、「認められている実感がないから、自己犠牲に走ってしまう」ケースです。“自分が認められる存在”と思えない負い目を、人より多く犠牲をはらうことで解消しようとします。言い換えれば、自分に過労を課することが目的化している状態です。オーバーワークでなければ、働いている実感が持てません。過労を取り上げられることは、存在意義がなくなることと同義。だから、やめられないのです。
(2)視野が狭い
2つめの理由は「視野が狭い」からです。働き方を改善するよう指導しても聞き入れない部下の言い分は、「誰にも迷惑をかけていない。体を壊したとしても自己責任だからいいだろう」というもの。会社に雇用されて働いている以上、自己責任では済まないことに、考えが及んでいません。自分の働き方が後輩に迷惑をかけるリスク、企業イメージへの影響、体を壊せば会社の責任になることなどを察知する視野を持っていないのです。
(3)過集中の傾向がある
3つめの理由は「過集中の傾向がある」からです。過集中とは、ひとつのことに過剰に集中し、やめられなくなる状態のこと。仕事に熱中するあまり、何日も徹夜したり、休憩や食事を忘れて長時間仕事をし続けたりします。もちろん、集中力の高さを業務に活かせれば、高い成果につながります。しかし、前述の「承認欲求の強さ」や「視野の狭さ」と相乗すれば、頑張りすぎに歯止めが利かなくなります。
部下の頑張りすぎをマネジメントするヒント
では、そんな部下をどうマネジメントすればよいでしょうか。3つのヒントをご紹介します。
(1)企業人としての在り方を伝える
1つめは「企業人としての在り方を伝える」です。自己責任で自由に働くことはできず、会社のルールに則る必要があることを明確に伝えます。「労働契約を結んでいるので、業務命令に従う義務がある」と具体的に伝えると、頑固な部下も納得しやすくなります。あるいは、上昇志向のある部下なら「経営者の立場で考えてみよう」という提案も効果的です。部下の視野を広げるきっかけになります。
(2)会社として頑張りすぎを評価しない
2つめは「会社として頑張りすぎを評価しない」です。ポイントは、“会社として”の部分です。全社の方針として決め、貫く必要があります。たとえば、社長が休日にオフィスに寄ったら休日出勤の社員がいたとしましょう。「休日まで、よくやっているな!」と社長が喜んで褒める。ありがちな光景ですが、これをやると台なしです。というのは、承認欲求が強い人にとって「褒められる体験」は、もっともっと欲しくなるもの。“頑張りすぎると、よい思いができる体験”を根こそぎ刈り取らないと、行動を変えられません。
(3)勤務時間外にやり取りしない
3つめは「勤務時間外にやり取りしない」です。基本的な事項でありながら、実践できていない会社が多いポイントです。テレワークの普及で、いつでも・どこでもやりとり可能な環境が整い、勤務時間外のメールやチャットが増えていないでしょうか。勤務時間外にはやり取りしないと決め、部下から連絡が来ても、反応しないことが大切です。勤務時間外のやり取りが常態化すると、頑張りすぎる部下は本領発揮とばかりに、エスカレートします。結果、職場全体の働き方が退化しますので、注意したいところです。あくまでも勤務時間内にすべてを終わらせるよう、生産性の向上に目を向けましょう。
さいごに
本記事では、頑張りすぎる部下のマネジメントについて取り上げました。実は筆者自身も、社会人になりたての頃、頑張りすぎる部下の傾向を強く持っていました。しかし、ある女性上司の部下になったときに転機が訪れました。彼女は、休日出勤について、こう言い放ったのです。「私、効率の悪い働き方は、嫌いなのよね」——ああ、この人のもとでは、長時間労働は通用しない。勤務時間内で効率的に成果をあげることが期待されているのだ。生産性を高める仕事の仕方、暮らし方、ひいては生き方にまで影響を与えた出来事でした。
本文中でも述べましたが、頑張りすぎは、“なかなか抜けない癖”のようなもの。体を壊す前に癖を直し、新しい働き方を身につけることが、本人にも会社にもよい影響をもたらします。