衛生委員会は、職場の安全と労働者の健康を保つために必要な取り組みを調査・審議する組織です。常時50人以上の労働者を使用している事業場では衛生委員会を設置する必要があり、設置義務に違反すると罰則を科される可能性があります。
本記事では、衛生委員会の概要や構成メンバー、衛生委員会の設置が必要になる基準、設置しないことによる罰則などを解説します。
目次
衛生委員会とは?
衛生委員会とは、事業者側と労働者側が労働環境の課題や改善点などを話し合い、協力して問題に取り組むための組織です。衛生委員会の目的は、安全に働ける労働環境をつくり、労働者の健康を維持・増進することです。衛生委員会では、事業場における衛生面や環境面の問題の他、ハラスメントの問題やメンタルヘルスに関わることまで、さまざまな議題を調査・審議して改善を図ります。
衛生委員会の構成メンバー
衛生委員会のメンバー構成は以下の通りです。(※)
- 総括安全衛生管理者または事業の実施を統括管理する者(1名)
- 衛生管理者
- 産業医
- 衛生に関して経験を有する労働者
総括安全衛生管理者以外のメンバーについては事業者の指名制となっています。なお、委員会の全構成員数について法令上の決まりはありません。各事業場の規模に応じて必要な人数を設定します。
※参考:厚生労働省.「安全委員会、衛生委員会について教えてください。」.
総括安全衛生管理者または事業の実施を統括管理する者
総括安全衛生管理者は衛生委員会の議長を務め、あくまで中立の立場から会議を進行します。業種によっても異なりますが、総括安全衛生管理者は、常時業務に従事している労働者が100人以上の事業場で選任が必要です。(※)社内に総括安全衛生管理者がいない場合は、総務部や人事部の部長が議長を務めることが多いです。
※参考:厚生労働省 東京労働局.「共通 3 「総括安全衛生管理者」 「安全管理者」 「衛生管理者」 「産業医」のあらまし」.
衛生管理者
衛生委員会の設置にあたっては、衛生管理者の選任が必要です。衛生管理者は、事業場の衛生管理や環境管理を主な役割とし、選任されるためには業種に応じた資格を取得している必要があります。常時従事している労働者が50人以上の事業場において選任が義務付けられており、事業場の規模が大きくなるほど、衛生管理者の選任数も増えていきます。(※)
従業員数 | 選任数 |
---|---|
50〜200人 | 1人以上 |
201〜500人 | 2人以上 |
501〜1,000人 | 3人以上 |
1,001〜2,000人 | 4人以上 |
2,001〜3,000人 | 5人以上 |
3,001人以上 | 6人以上 |
産業医
産業医は、医学的な専門知識によって労働者の健康管理をサポートする医師のことです。常時50人以上の労働者を使用している事業場では、産業医の選任が義務付けられています。また、衛生管理者同様、事業場の労働者数に応じて必要な産業医の人数は異なります。(※)
従業員数 | 選任数 |
---|---|
50~3,000人 | 1人以上 |
3,001人以上 | 2名以上 |
なお、事業場に常時1,000人以上の労働者がいる場合や危険・有害物質などを取り扱う事業場では、専属の産業医を選任しなければなりません。(※)
※参考:厚生労働省.「産業医について~その役割を知ってもらうために~」P1.
衛生に関して経験を有する労働者
衛生委員会では、衛生に関する経験がある労働者を選任する必要があります。労働者側のメンバーとして事業場内の問題点を伝えたり、労働者の立場から審議内容に意見を言う役割があります。人数や資格に決まりはありません。
衛生委員会の設置が求められる事業場
衛生委員会の設置義務があるのは、常時使用する労働者数が50人以上の事業場です。注意すべき点は、使用する労働者に含まれるのは正社員だけではないということです。パートやアルバイトの従業員も常時使用する労働者に含まれます。
業種によっては安全委員会も設置義務がある
業種と労働者数によっては、衛生委員会に加えて安全委員会を設置しなければなりません。衛生委員会の設置目的が労働者の健康維持と増進であるのに対し、安全委員会は労働者の危険を取り除いて安全に働ける労働環境を整えることが目的です。
以下の業種は労働者の人数に応じて安全委員会も設置する必要があります。
業種 | 常時使用する労働者数 |
---|---|
林業、鉱業、建設業、製造業の一部(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業)、 運送業の一部(道路貨物運送業、港湾運送業)、自動車整備業、機械修理業、清掃業 | 50人以上 |
運送業(上記を除く)、製造業(上記を除く)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業 | 100人以上 |
衛生委員会と安全委員会の両方を設置する場合、安全衛生委員会として運営していくのが一般的です。
※出典:厚生労働省.「安全委員会、衛生委員会について教えてください。.
50人未満の事業場が対応すべき衛生対策
常時使用する労働者が50人未満の事業場では、衛生委員会の設置は義務ではありません。しかし衛生委員会の設置義務がなくとも、事業者は安全や衛生に関して労働者側と話し合う機会を設ける必要があります。(※)労働者が50人未満の場合は、安全衛生懇談会と呼ばれる意見交換の場をつくると良いでしょう。安全衛生懇談会では、衛生委員会と同様に労働環境における問題点と改善に向けた取り組みを審議します。
また、労働者の人数が10~49人の事業場では、職場の衛生管理を担う衛生推進者の選任が必要です。林業や鉱業、建設業、運送業といった一部の業種では安全面の管理も担う安全衛生推進者を選任します。安全衛生懇談会を行う場合は、衛生推進者や安全衛生推進者にも参加してもらいましょう。
※参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生規則23条の2」.
衛生委員会を設置していない場合の罰則
衛生委員会を設置しないと、労働者の健康が保たれなくなるだけではなく、罰則が科されることもあります。ここでは、衛生委員会を設置しなかった場合の罰則や、衛生委員会が適切に運営されていなかった場合に罰則があるのかなどを解説します。
衛生委員会自体が設置されていない場合は50万円以下の罰金
衛生委員会を設置しなかった場合、労働安全衛生法第120条1項の規定に基づき50万円以下の罰金が科される可能性があります。(※)また、表向きは衛生委員会を設置していたとしても、月に1回の会議が行われていないなど正しく機能していない場合には、労働基準監督署から是正勧告が行われるかもしれません。衛生委員会を設置するだけではなく、しっかりと機能するよう、衛生管理体制を定期的に見直しましょう。
※参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生法」.
衛生委員会の議事録を未保管だと労働基準監督署の指導対象となる
衛生委員会は開催の度に議事録を作成して保管する必要があります。議事録は3年間の保管が義務付けられています。議事録を3年間保管しなかったことへの具体的な罰則は設けられていません。しかし、労働基準監督署による指導対象となり得ます。
次のようなケースも労働基準監督署の指導対象となる可能性があります。(※)
- 議長以外の委員の半数が労働者側のメンバーになっていない
- 業務時間外の委員会実施にもかかわらず割増賃金を支払っていない
- 委員会の内容を従業員に通知していない
※参考:足立労働基準監督署.「労働安全衛生委員会等を適切に運営していますか」.”不備事項等
衛生管理者が未選任の場合は労働基準監督署による是正勧告の対象となる
衛生委員会のメンバーである衛生管理者が退職した場合は、新しく衛生管理者を選任しなければなりません。衛生管理者を選任しなかった場合、労働基準監督署より是正勧告を受ける可能性があります。(※)是正勧告を無視した場合は、50万円以下の罰金が科されることもあります。(※)
新しい衛生管理者が見つからない場合は、代理を立て、所轄都道府県労働局長の許可を得られれば、一定期間選任が免除されます。(※)すぐに後任が見つからない場合は所轄の労働局へ申請してください。
※参考:厚生労働省.「監督指導事例-厚生労働省」.
※参考:厚生労働省.「 安全衛生管理の基本」.
※参考:厚生労働省 職場のあんぜんサイト.
産業医が未選任の場合は50万円以下の罰金
産業医も衛生管理者同様、未選任の場合には罰則があります。常時50人以上の労働者を使用しているのにもかかわらず産業医を選任していなければ、労働安全衛生法における産業医選任の義務違反です。産業医選任の義務に違反した場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。(※)
中には労働者の人数が50人に達したことに気付かず、産業医の選任を忘れてしまうケースもあるでしょう。このようなケースであっても罰金が科されるため、産業医の選任は早めに進めることが大切です。
衛生委員会を設置して適切に運用するポイント
衛生委員会は適切に運用できていないと労働基準監督署から指導を受ける可能性があります。衛生委員会を適切に運用し、有意義な内容にするためには次のポイントを押さえておきましょう。
- 衛生委員会のマンネリ化を防ぐ
- 年間でテーマを用意しておく
- 議事録はテンプレートを活用する
- オンラインでの開催を検討する
衛生委員会のマンネリ化を防ぐ
衛生委員会を設置したとしても、以下のような原因でマンネリ化する恐れがあります。
- 現場の声を聞いてもらえない
- 発言者が決まっている
- 開催することが目的になっている
- 労働環境の改善が感じられない
規模が大きい衛生委員会では発言がしにくかったり、発言者が決まってくる可能性があります。規模が大きくなってしまう場合は、組織を分けて行うのも1つの手段です。
また、現場の声に耳を傾けるのも重要なポイントです。労働環境を改善するためには、実際に作業している労働者の意見を反映させる必要があります。さまざまな意見を幅広く取り入れられるよう、定期的に衛生委員会のメンバーを入れ替えると良いでしょう。
年間でテーマを用意しておく
衛生委員会では毎月テーマを立てて話し合っていきます。テーマ選定が負担となり、衛生委員会の開催が遅れたり、毎回同じテーマになったりしないよう、事前に年間でテーマを用意しておきましょう。例えば夏には熱中症、冬には風邪やインフルエンザ対策をテーマにするといったように、時節に沿ったテーマを事前に用意しておきます。健康診断の受診率といった自社ならではのテーマを盛り込むのもおすすめです。
議事録はテンプレートを活用する
衛生委員会を開催した際には、議事録を作成して3年間保管する必要があります。議事録には開催日時や開催場所、合意事項、産業医からのコメントなどを記載します。議事録の作成が負担とならないように、テンプレートを活用しましょう。例えば、独立行政法人労働者健康安全機構のホームページから議事録のテンプレートをダウンロードすることができます。(※)他にも、過去に自社で使用していた議事録のひな形を流用するなどして、議事録作成の負担を軽減すると良いでしょう。
※参考:独立行政法人労働者健康安全機構.「 各種教材・マニュアル」.”5 議事録フォーマット(例)(Word形式)
オンラインでの開催を検討する
参加者の都合が合わない場合は、Web会議システムを活用してオンラインでの衛生委員会開催を検討しましょう。事前に日程を決めていたとしても、仕事の都合で出席できなくなることもあるかもしれません。また、テレワークを導入している事業場であれば、衛生委員会のために出社することが負担になる可能性もあります。
2020年8月より衛生委員会のオンラインでの開催が認められました。参加者が使用機器を容易に利用できること、ネットワーク回線が安定していてスムーズに意見交換ができることなど、いくつかの要件を満たせばオンラインでの開催が可能です。(※)オンラインで衛生委員会を開催できれば、リモートで会議に参加できるようになり、参加者のスケジュールの都合もつきやすくなります。衛生委員会への出席率が上がることで、会議の内容もより充実したものになるでしょう。
※参考:厚生労働省.「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第17条、第18条及び第19条の規定に基づく安全委員会等の開催について」
衛生委員会を設置して安全な労働環境をつくろう
本記事では、衛生委員会の構成メンバーや設置が必要になる基準、設置しない場合の罰則などを解説しました。衛生委員会は職場の安全や労働者の健康を維持する上で、欠かせないものです。常時使用する労働者が50人以上の場合は業種問わず衛生委員会を設置する必要があり、設置しなかった場合には50万円以下の罰金が科される可能性もあります。
衛生委員会を設置する必要があるが設置方法が分からないという方は、株式会社メディカルトラストへご相談ください。衛生委員会の立ち上げからサポートします。また、その後の運営をスムーズに行えるよう、進め方のアドバイスをしたり、オブザーバーとして参加することも可能です。衛生委員会でお悩みの方は、ぜひ一度お問い合わせください。