衛生委員会は労働者の健康維持を目的として行われ、月に1回以上開催する必要があります。衛生委員会の構成メンバーには産業医も含まれていますが、場合によっては産業医が出席できないこともあるでしょう。
本記事では、衛生委員会における産業医の出席義務や、産業医が出席できない場合の対応方法などについて詳しく解説します。ぜひ最後までご覧ください。
目次
そもそも衛生委員会とは?
そもそも衛生委員会とは、労働者の健康を保つため、社内の衛生に関することを調査審議する委員会です。事業者側、労働者側双方の声に加え、産業医による専門家の意見をふまえた上で、労働環境の改善と維持に取り組みます。
衛生委員会の構成メンバーは、以下の通りです。(※)
- 統括安全衛生管理者を1人以上
- 衛生管理者
- 産業医
- 衛生に関する業務経験がある労働者
統括安全衛生管理者が、衛生委員会の議長となります。統括安全衛生管理者以外のメンバーの半数以上は、労働組合の推薦に基づいて指名をします。これは、衛生委員会が偏った話し合いにならないようにするためです。
常時50人以上の労働者がいる事業場では、業種を問わず衛生委員会の設置が義務付けられています。衛生委員会は毎月1回以上開催し、会議内容は労働者に周知することとされています。また、議事録を作成する必要があり、議事録は3年間保管しなければなりません。議事録は労働基準監督署の立入検査があったときに確認される可能性があるため、しっかりと作成しましょう。(※)
※参考:厚生労働省.「安全委員会、衛生委員会について教えてください。」
衛生委員会と安全委員会の違い
委員会には、衛生委員会の他に安全委員会があり、それぞれ審議内容が異なります。衛生委員会が主に労働者の健康について審議するのに対し、安全委員会では主に労働者の安全や危険防止に関わることを審議します。
また、設置が求められる要件も異なります。衛生委員会は業種を問わず、労働者が50人以上であれば設置が必要です。一方の安全委員会は業種によって要件が異なり、50人以上で設置が必要な業種と100人以上で必要な業種に分けられます。50人未満の事業場においては、衛生委員会と安全委員会は設置する必要はありません。(※)
※参考:厚生労働省.「安全委員会、衛生委員会について教えてください。」
衛生委員会と安全衛生委員会の違い
安全衛生委員会とは、衛生委員会と安全委員会を統合した委員会のことです。労働者の健康管理、労働災害の原因・追求の他、職場の安全管理も行います。
安全委員会と衛生委員会の両方の設置が義務付けられている場合、それぞれの委員会を設置する代わりに、安全衛生委員会を設置することが認められています。(※)
※参考:厚生労働省.「安全委員会、衛生委員会について教えてください。」
衛生委員会における産業医の役割
産業医の衛生委員会への参加義務について知る前に、産業医の役割を押さえておきましょう。ここでは、産業医の役割を2つに分けて解説します。
専門家の立場として意見を言う
産業医は労働者の健康管理に必要な医学知識を持っています。衛生委員会の目的は労働者の健康の維持や改善、向上であるため、産業医は知識を活用し、専門家としてアドバイスを行います。
事業者側が努力したとしても、医学に関する知識がなくては改善策が分からなかったり、そもそも問題点に気付かないこともあるかもしれません。しかし、産業医のような資格を持った専門家であれば、事業者側が見逃してしまうような問題に気付けたり、具体的な改善策を提示することができるでしょう。そのことにより、労働者の健康リスクの低減や労働環境の改善につながります。
事業者へ勧告する
産業医は健康に関する措置について、事業者へ勧告する権利があります。勧告は、問題があったからといってすぐに行われるわけではありません。まず事業者への助言や指導を行い、それでも改善されない場合に勧告が行われます。産業医から勧告があった場合、事業者はその内容やどのような措置を講じたかなどを衛生委員会に報告しなければなりません。また、同様の内容を記録した上で、3年間保存する必要があります。(※)産業医が勧告権を行使することで、問題に対して事業者により強く働きかけることが可能です。
※参考:厚生労働省.「働き方改革関連法により2019年4月1日から「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されます」.
産業医は衛生委員会に欠席してはならない?
産業医は衛生委員会において欠かせない存在ですが、状況によっては出席できないこともあるでしょう。ここでは、産業医が衛生委員会に欠席しても問題がないのかを紹介します。
産業医が衛生委員会に出席するのは義務ではない
結論から述べると、産業医の衛生委員会への出席は法令上の義務ではありません。衛生委員会の構成メンバーとして産業医を設置することは法令上も定められていますが、出席に関する定めはありません。そのため、産業医が衛生委員会に出席しないことに対する罰則も設けられていません。実際、企業によっては産業医が衛生委員会に出席していないケースもあるでしょう。しかし、衛生委員会を行う目的を考えると、義務ではないからといって出席しなくても問題ないということではありません。
産業医は衛生委員会に毎回出席するのが望ましい
産業医は衛生委員会に出席する義務はないものの、毎回出席するのが望ましいです。安全衛生委員会の調査審議事項は以下のように定められています。
- [1]労働者の危険を防止し、健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。
- [2]労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。
- [3]労働災害の原因及び再発防止対策で、安全衛生に係るものに関すること。
- [4]前三号に掲げるもののほか、労働者の危険の防止、健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項
上記の内容を調査審議するためには、労働者の健康について医学的な立場から指導ができる医師の意見が必要です。産業医が欠席した状態の衛生委員会では、本来の目的を達成できない可能性があります。
医学の専門知識がある産業医は、衛生委員会を適正に行うために必要な存在です。義務ではなくとも、毎回出席するのが理想的であると言えます。
産業医が衛生委員会に出席できなくなった場合の対応
産業医の都合がつかず、衛生委員会に出席できなくなった場合の対応を紹介します。以下のいずれかの対応を検討しましょう。
- 議事録を提供してアドバイスを受ける
- 日程の再調整を検討する
- オンラインでの開催を検討する
それぞれの対応方法について詳しく解説します。
議事録を提供してアドバイスを受ける
欠席した回の議事録を産業医に提供して、次回の衛生委員会までに意見をもらいましょう。議事録は、ドキュメントや音声データでまとめて提供します。ただし、産業医が委員会に出席したときのようにリアルタイムでの質疑応答ができず、状況把握までに時間がかかるというデメリットがあります。
日程の再調整を検討する
スケジュールの問題で出席が難しいのであれば、日程の再調整を検討しましょう。産業医に衛生委員会への出席が可能な日程を確認し、いくつか候補日を絞り込んだ後、他のメンバーにスケジュールの都合を聞きます。スムーズにスケジュール調整するために、メンバー間で情報を共有できるチャットツールなどを導入するのも良いでしょう。
しかし、委員会の日程が差し迫っている場合は、他のメンバーもスケジュールの調整が難しくなります。早い段階で産業医に予定を確認するようにしましょう。
なお、衛生委員会の開催日を決める際は、予め開催日程の候補をいくつか挙げておき、どの日程なら参加できるか産業医に選択してもらうようにすれば、産業医側が出席しやすくなります。
オンラインでの開催を検討する
対面での出席が難しい場合でも、オンラインなら出席できるというケースもあるでしょう。オンラインでの開催であれば、方法によってはリアルタイムでの質疑応答が可能です。もともと衛生委員会はオフラインの出席が義務でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、2020年8月27日よりオンラインでの開催が可能になりました。(※)オンラインでの開催には、Web会議以外にも、メールやチャットなど文字でのやり取りも含まれています。ただし、オンラインでの開催には一定の要件を満たす必要があります。
次に、衛生委員会をオンラインで行うための要件を解説します。
※参考:厚生労働省.「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第 17 条、第 18 条及び第 19 条の規定に基づく安全委員会等の開催について」
〈全てを満たす必要がある要件〉
衛生委員会のオンラインでの開催にあたっては、使用する情報通信機器に関して以下の要件を全て満たしている必要があります。(※)
- 衛生委員が容易に利用できること
- ネットワーク回線が安定していて会議に支障がないこと
- 不正アクセス・個人情報流出を防止できるセキュリティ対策をしていること
オンラインでの開催に際して、セキュリティ対策は欠かせません。Web会議ツールの使いやすさだけでなく、十分にセキュリティ対策がされているかを確認しておきましょう。セキュリティ対策が不十分だと、会議内容が第三者に漏れたり、個人情報が流出したりする恐れがあります。
また、スムーズな意見交換ができるよう、ネットワーク回線が安定していることも重要です。オンライン会議の前には、回線に問題がないかのテストを行いましょう。
※参考:厚生労働省.「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第 17 条、第 18 条及び第 19 条の規定に基づく安全委員会等の開催について」
〈いずれかを満たす必要がある要件〉
衛生委員会をオンラインで開催する場合、リアルタイムで行うWeb会議だけでなく、メールなどリアルタイムで意見を交わさない方法で行うこともできます。リアルタイムで開催する場合の要件と、リアルタイムで開催しない場合の要件は異なります。(※)
- Web会議などを用いてリアルタイムで衛生委員会を実施するとき
・オフラインで行うときのようにスムーズに意見交換ができること
- メールなどのリアルタイムでない方法で衛生委員会を実施するとき
・資料の送付から意見を考えるまで十分な期間を設けること
・意見交換がスムーズにできること
・委員全員が議論の経緯を確認できるようにすること
・意見表明がない委員に対して、資料の確認状況や意見提出の意思を確認すること
・意見をまとめる担当者を決めること
リアルタイムでのやり取りができなくとも衛生委員会の開催は可能です。事前に資料を用意したり、担当者の設定をしたりすることでスムーズに進行できる可能性もあります。しかし、それでもリアルタイムで行うときのように活発に意見交換をしたり、質疑応答をするのは困難です。円滑にコミュニケーションをとるためには、リアルタイムでの開催が望ましいでしょう。
※参考:厚生労働省.「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第 17 条、第18 条及び第 19 条の規定に基づく安全委員会等の開催について」
衛生委員会を実施する際のポイント
ここでは、衛生委員会を実施する際に気を付けたい3つのポイントを紹介します。
- テーマがマンネリ化しないようにする
- 開催日を産業医が職場巡視するときと同じ日にする
- オンラインで開催する場合は機器のテストに十分な時間をかける
衛生委員会が形骸化してしまわないよう、産業医の出席率を高めて有意義な衛生委員会を行いましょう。
テーマがマンネリ化しないようにする
テーマがマンネリ化して議論が活発に行われない状態だと、産業医が出席していたとしても衛生委員会が十分に機能しているとは言えません。毎回同じ内容を繰り返すなど、衛生委員会を開催すること自体が目的となってしまわないよう注意が必要です。
なお、衛生委員会の審議内容としては以下のような事項が挙げられます。(※)
- 労働者の健康障害防止のための基本となる対策
- 労働者の健康保持増進のための基本となる対策
- 労働災害の原因や再発防止策のうち、衛生に関するもの
- 衛生に関する規定作成
- 衛生に関する計画作成・実施・評価
- 定期健康診断を結果をふまえての対策
- 労働者の精神的健康のケア
上記の内容を踏まえた上でテーマを決める必要がありますが、衛生委員会は毎月1回以上開催されるため、テーマが尽きてしまうこともあるかもしれません。悩んだ場合は、産業医に相談してみるのも良いでしょう。専門的な立場から提案をしてもらうことで、新たな課題やテーマを発見できる可能性があります。
テーマの決め方としては、季節に合わせて内容を決めるのもおすすめです。例えば、異動の多い4月〜5月であればストレスチェックやメンタルヘルス、夏には食中毒や熱中症、冬にはインフルエンザなどが挙げられます。他にも、忘年会シーズンにアルコールに関する内容を取り上げたりと、参加する従業員にとっても関心の高いテーマを選ぶと議論の活性化につながります。
※参考:厚生労働省.「安全委員会、衛生委員会について教えてください。」.
開催日を産業医が職場巡視をするときと同じ日にする
産業医が忙しく、なかなか衛生委員会に出席できないのであれば、衛生委員会の開催日を産業医の職場巡視と同じ日にするのがおすすめです。職場巡視で衛生の問題を指摘し、そのまま衛生委員会を実施すれば、スムーズに意見交換ができます。また、産業医が何度も足を運ぶ必要がなくなるため、負担軽減につながります。日程も調整しやすくなり、産業医の衛生委員会への出席率向上が期待できるでしょう。
オンラインで開催する場合は機器のテストに十分な時間をかける
オンラインで衛生委員会を開催する場合、使用する機器のテストには十分な時間をかけましょう。
オフラインの開催であれば会議中にタイムラグが生じることはありませんが、オンラインでの開催となれば、インターネット環境によって進行状況が大きく左右されます。
オンラインで衛生委員会を開催する場合は、進行に支障がないよう使用機器に問題がないかを確認し、環境を整えておくことが大切です。また、事前の資料作成にも力を入れるようにしましょう。進行がスムーズでないと参加者の意欲が下がり、議論が活発に行われなくなる恐れがあります。
産業医は衛生委員会に毎回出席するのが望ましい
本記事では、産業医の衛生委員会への出席義務について解説しました。結論から述べると、産業医が衛生委員会に出席する義務はなく、欠席したからといって罰則が課されることもありません。ただし、衛生委員会は労働者の健康維持・改善が目的であることから、医学知識のある産業医は出席をするのが望ましいです。とはいえ、やむを得ず欠席しなければならないときもあるでしょう。その場合は議事録で対処したり、日程を再調整する他、衛生委員会をオンラインで開催するなどの工夫をしましょう。
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