事業場に衛生委員会を設置する目的とは? 設置が必要とされる背景やメンバーの役割も紹介


労働安全衛生法では、一定の要件を満たす事業場に対し、衛生委員会の設置を義務付けています。衛生委員会には労働者の健康を守る目的があり、労働者が働きやすい環境を作るために欠かせない存在となっています。

本記事では企業における衛生委員会の目的や、衛生委員会が必要とされる理由、衛生委員会の設置を義務付けられている事業場、衛生委員会のメンバーとそれぞれの役割、主な審議内容などについて解説します。

衛生委員会の目的

衛生委員会とは、労働安全衛生法第18条で、一定規模の事業場に対して設置が義務付けられている組織のことです。

事業者は労働者と共に、労働者の安全や健康を保持増進するための措置・対策に取り組まなければなりません。衛生委員会はその措置・対策を審議する場であり、労使一体となって労働者の安全衛生の確保や労働環境の改善に努める必要があります。

後述する要件を満たしている事業場は、例外なく衛生委員会を設置し、目的の遂行のための活動を行うことが法律で定められています。衛生委員会を設置する目的は大きく分けて以下の3つです。

※参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生法」.

1. 労働者の健康障害の防止

1つ目の目的は、労働者の健康障害の防止です。健康障害とは、人の身体や心の健康に何らかの障害が生じている状態のことです。過重労働や人間関係のストレスなどが慢性化すると、労働者は心身に不調をきたし、体や心の病を抱えるリスクが高くなります。

労働安全衛生法第3条では、事業者は快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、労働者の安全と健康を確保するよう努めることが義務付けられています。そこで、衛生委員会にて職場における労働者の安全・健康をテーマにした課題について話し合いや審議を行い、より良い職場環境の整備を目指します。

※参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生法」.

2. 労働者の健康の保持増進

2つ目は、労働者の健康の保持増進です。事業者は単純に労働者の病気やケガを防止するだけでなく、今ある健康を維持あるいは増進する対策を講じる必要があります。

例えば、身体機能のセルフチェックや加齢による心身の衰えを確認する「フレイルチェック」で労働者の健康状態を把握した上、必要に応じて健康指導を行うことなどが求められます。具体的な健康指導には、ストレスに対する気づきを促す、リラクセーション指導によるメンタルヘルスケアを実施する、食習慣の改善を目的とした栄養指導を行うなどのパターンが挙げられるでしょう。

衛生委員会ではこれらの内容について審議したり、必要に応じて新たな提案を行ったりして、労働者の健康が保持増進されやすい労働環境作りを目指します。

3. 労働災害の防止

3つ目は、労働災害の防止です。労働災害とは、労働者が労務に従事したことによって生じた負傷や疾病、死亡などの災害の総称です。例えば「労務中に機械に巻き込まれてケガをした」「高所作業中に転落して死亡した」といったケースが労働災害に該当します。時として命も脅かす重大な事象となり得るので、事業者は労働災害が起こらないよう、徹底した措置や対策を講じなければなりません。

衛生委員会では、労働災害の防止策が十分かどうか、内容に不備はないかなどを審議し、労働災害リスクの低減を目指します。

衛生委員会を設置する理由と背景

衛生委員会設置の背景事情を考える

衛生委員会は一定規模の事業場において設置が義務付けられています。前述の通り、その目的は「労働災害の防止のための危害防止基準の確立」「労働者の健康の保持増進」「労働災害の原因及び再発防止対策」ですが、時代の変化に併せてその背景に変化もあります。

1. 過労死の問題

労働による過労やストレスが要因となった死亡のことを、過労死といいます。

厚生労働省が発表した統計によると、2022年度において、過労によって脳血管疾患または虚血性心疾患を発症したとする労災請求件数は803件です。近年で特に件数が多かった2006年度の938件(平成18年度)に比べるとかなり減少していますが、2019年にはピーク時に迫る936件が認定されており、全体で見ると増減を繰り返している傾向にあります。

また、仕事のストレス等によって精神障害を発病したとする労災請求件数は直近5年で右肩上がりに増加しており、2022年度は前年より337件多い、2,683件となりました。令和になってもなお、仕事を要因とする過労死は後を断たず、社会全体で取り組むべき大きな課題となっています。

衛生委員会を設置し、労使一体となって労働者の安全や健康に取り組むことで、現代社会が抱える過労死の問題を解消できるのではないかと考えられています。

※参考:厚生労働省.「令和4年度「過労死等の労災補償状況」を公表します」.
※参考:厚生労働省.「過労死等公表」.
※参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構.「初めての「過労死等防止対策白書」を閣議決定」

2. 生産年齢人口の減少

生産年齢人口とは、生産活動の中心となる15~64歳の人口のことです。労働の中核的な担い手であり、経済の活力を生み出す層であることから、生産年齢人口の増加が当該国の成長や発展を促すといわれています。

しかし日本の生産年齢人口は、1995年にピークを迎えてからは減少に転じており、2021年の時点で7,450万人と、総人口の59.4%にまで落ち込んでいるという状況です。さらには国の見込みによると、今後も少子高齢化は進行し続け、2050年の生産年齢人口は5,275万人にまで減少すると考えられており、労働力不足や経済規模の縮小などが懸念されています。

生産年齢人口が減少すると、産業を問わず人手不足が慢性化し、労働者一人当たりの負担が大きくなります。その結果、前述した過労死のリスクが高まるのはもちろん、モチベーション低下による労働生産性の低下、早期離職者の増加など、さまざまな問題を引き起こす原因となるでしょう。衛生委員会を設けて労働環境の改善に取り組めば、労働者の負担減やモチベーション増加による労働生産性の向上などが期待できます。

※参考:総務省.「令和4年版情報通信に関する現状報告の概要 第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~ 第1節 今後の日本社会におけるICTの役割に関する展望 (1) 生産年齢人口の減少」.

衛生委員会の設置義務の要件

衛生委員会の設置義務の要件

常時使用する労働者数が50人以上の事業場は、業種にかかわらず衛生員会を設置する義務があります。設置義務の要件を満たしているにもかかわらず、衛生委員会を設置しなかった場合、労働安全衛生法第18条違反となり、同法第120条の規定により、50万円以下の罰金に処される可能性があります。

ペナルティを避けるために設置した方が良いのはもちろんですが、そもそも、衛生委員会は企業にとってプラスとなるものです。衛生委員会がなければ、労働者の安全や健康を守るための措置や対策がうまく機能せず、思ったような効果・成果を得られない可能性があります。特に労働者の人数と業務量のバランスが取れていない事業場の場合、労働者が何らかの健康障害を被ったり、過労死等の労災事故が起こったりするリスクが高くなります。

設置義務の要件を満たしている事業場は、法の遵守および自社の健全な経営のため、必ず衛生委員会を設置しましょう。

なお、上記要件に満たない事業場について衛生委員会の設置は義務付けられていませんが、任意での設置は自由です。そのためたとえ要件を満たしていなくても、自社の労働環境や労働者の状態などを考慮し、必要に応じて衛生委員会を設置することをおすすめします。

※参考:厚生労働省.「安全委員会、衛生委員会について教えてください。」. ,
※参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生法」.

衛生委員会のメンバーとそれぞれの役割

衛生委員会を構成するメンバーは労働安全衛生法第18条の2によって決められています。以下のメンバーを事業者が指名する仕組みです。

  1. 総括安全衛生管理者またはその事業の実施を統括管理する者、もしくはこれに準ずる者
  2. 衛生管理者
  3. 産業医
  4. 労働者のうち、衛生に関する経験を有する者

総括安全衛生管理者は、衛生委員会の議長も兼ねるリーダー的な存在であり、事業者と労働者のどちらにも属しない中立的な立場から、双方の意見を募り、その内容をまとめる役割を担います。事業者に設置された安全管理者や衛生管理者、安全・衛生に関する技術的事項の管理者の指揮を執り、労働者の安全衛生に関する業務を統括管理することが求められます。

以下の業種と規模の要件を満たす事業場は、総括安全衛生管理者の選任が義務化されています。

業種事業場の規模 (常時使用する労働者数)  
林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業100人以上
製造業(物の加工業含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業300人以上
その他の業種1,000人以上

※出典:厚生労働省.「共通 3 「総括安全衛生管理者」 「安全管理者」 「衛生管理者」 「産業医」のあらまし」.

また、総括安全衛生管理者の要件は以下の通りです。

当該事業場において、その事業の実施を実質的統括管理する権限及び責任を有する者(工場長など)

上記を満たしておらず、事業場に総括安全衛生管理者が選任されていない場合は、その事業の統括を任されている人物か、それに準ずる人物が議長の役割を担います。

※参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生法」.
※出典:厚生労働省.「共通 3 「総括安全衛生管理者」 「安全管理者」 「衛生管理者」 「産業医」のあらまし」.

衛生管理者

衛生管理者とは、労働者の危険や健康障害防止、安全確保などの措置に関する業務のうち、衛生に係る技術的事項を管理する役割を担う者のことです。常時50人以上の労働者を使用している事業場では専属の衛生管理者を選任することが義務付けられています。衛生管理者の選任義務要件は、衛生委員会の設置義務要件と一致するため、自社専属の衛生管理者は自動的に衛生委員会のメンバーに加わることになります。

衛生管理者の主な役割は、衛生委員会の運営に加え、事業場での労働災害や労働者の健康障害の防止、さらには労働者の衛生教育などです。また、衛生管理者は労働安全衛生規則第11条により、最低でも毎週1回は作業場を巡視し、設備や作業方法、衛生状態に問題がないかどうかをチェックする必要があります。

衛生管理者の資格として定められているのは、以下の通りです。

  • 医師
  • 歯科医師
  • 労働衛生コンサルタント
  • 上記のほか、厚生労働大臣の定めるもの

最低1人は選任する必要がありますが、人数に制限はなく、2人以上を委員会のメンバーに加えてもかまいません。また2人以上選任する場合で、かつ衛生管理者の中に労働衛生コンサルタントがいるときは、コンサルタントのうち1人は専属でなくても良いとされています

なお、衛生管理者に必要となる資格は業種ごとに異なります。例えば農林水産業や鉱業、建設業、製造業などの場合は、医師・歯科医師・労働衛生コンサルタントに加えて、第一種衛生管理者免許もしくは衛生工学衛生管理者免許を持つ人などです。業種によっては、第二種衛生管理者免許や衛生工学衛生管理者免許を持つ人も該当する場合があります。

衛生委員会において、衛生管理者は、自身の能力を活かして労働者にとって快適な労働環境を整えるにはどうしたら良いか、事業者が提示した労働衛生に関する措置・対策が適切なものかどうか、現時点で労働環境の衛生面にどのような問題・課題があるかなどを審議します。

※参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生規則」.
※参考:厚生労働省.「衛生管理者について教えて下さい。」.
※出典:厚生労働省.「共通 3 「総括安全衛生管理者」 「安全管理者」 「衛生管理者」 「産業医」のあらまし」.

産業医

産業医とは、事業場に属する労働者の健康管理等を行う者のことです。常時使用する労働者数が50人以上の事業場は、産業医を最低1人選任する義務があります。

※参考:

産業医の主な役割は、健康診断や面接指導の実施とその結果に基づく措置の実施、作業環境の維持管理、作業の管理、労働者の健康管理です。さらには労働者の健康相談に応じたり、労働衛生教育に携わったり、労働者の健康障害の原因の調査・再発防止の措置を講じたりするのも産業医の仕事です。

また、産業医は毎月1回、作業場を訪れて現場を巡視することが義務付けられています(事業者から産業医に所定の情報が毎月提供される場合は2カ月に1回でも可)。実際の様子を目で見て確認したり、現場の人に話を聞いたりすることで労働環境の実態を正確に把握し、課題・問題の洗い出しや改善策の考案などにつなげます。

衛生委員会における産業医の役割は、医師としての知識や経験、産業医ならではの労働衛生や労働環境に関する知識などを生かし、その事業場が労働者の健康を維持・増進する措置を執っているかどうかを検討・審議することです。

産業医はただ医師免許を有しているだけでなく、以下いずれかの要件を満たした者の中から選任する必要があります。

  • 日本医師会、産業医科大学が実施する研修の修了者
  • 産業医の養成課程を設置している産業医科大学等で当該課程を修め、実習を履修した者
  • 労働衛生コンサルタント試験(保健衛生の試験区分)の合格者
  • 大学で労働衛生関連の科目を担当する教授、准教授、常勤講師またはこれらの経験者

※参考:厚生労働省.「産業医について」.
※参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生規則」.
※参考:厚生労働省.「産業医制度に係る見直しについて」.

労働者のうち、衛生に関する経験を有する者

衛生委員会は労使一体の組織なので、労働者からもメンバーを選任しなければなりません。委員会では労働衛生に関する事柄を議論・審議するため、選任するメンバーは衛生に関する経験を持つ者に限定されます。選任するメンバーの数に制限はないので、性別や年齢、部署、役職などを考慮し、バランス良く選任するのが一般的です。

衛生委員会では労働者代表として、現場の意見を届けたり、現場における衛生面の課題・問題を提示したり、解決案を提案したりします。メンバーは日頃から他の労働者の意見に耳を傾けたり、現場に課題や問題がないかどうかチェックしたりといった行動を取るのが理想とされています。

衛生委員会の審議内容

衛生管理委員会では、主に以下のような内容が審議されます。

  • 労働者の健康障害を防ぐための対策
  • 労働者の健康を保持増進するための対策
  • 労働災害の原因調査
  • 労働災害の再発を防ぐための対策
  • 衛生関連の規程の作成
  • 危険または有害かどうかの調査と、その結果に基づいて講じる措置
  • 安全衛生計画の作成と実施、評価、改善
  • 衛生教育の実施計画の作成
  • 化学物質の有害性に関する調査と、その結果に基づく対策
  • 作業環境測定の結果と、それに基づく対策
  • 定期健康診断の結果と、その結果に基づく対策
  • 労働者の健康を保持増進させるのに必要な措置の計画作成
  • 健康障害や過労死防止の対策
  • 労働者のメンタルヘルスの保持増進に対する措置

上記に挙げたものの他にも、省庁や都道府県などから特別に命令や指示、勧告、指導などを受けた場合は、都度それらに関することを審議する必要があります。衛生管理者と産業医は主に事業側から、衛生に関する経験を有する労働者は労働者側の立場として委員会に参加し、議長は中立の立場から双方の積極的な意見を促します。

※参考:厚生労働省.「安全委員会、衛生委員会について教えてください。」.

衛生委員会にまつわるQ&A

最後に、衛生委員会にまつわるよくある質問を3つご紹介します。

1. 衛生委員会はどのくらいの頻度で開催すればいい?

衛生委員会の開催頻度は、労働安全衛生規則第23条により、毎月1回以上と定められています。そのため、多くの企業では「毎月第2水曜日午後」など、特定の日を定めて委員会を開催しているケースが多いようです。

※出典:e-Gov法令検索.「労働安全衛生規則」.

2. 衛生委員会の議事録は保管が必要?

労働安全衛生規則第23条の4では、衛生委員会の議事録を3年間保存することを義務付けています。また同条の3では衛生委員会の議事の概要を労働者に周知することと定めています。そのため、衛生委員会の議事録は単に作成・保管するだけでなく、労働者に開示しなければなりません。

具体的な方法としては、作業場の目立つ場所に掲示あるいは備え付ける、議事録を書面にして労働者に交付する、議事録を電子データ化しその内容を常時確認できる機器(パソコンやタブレットなど)を設置するなどが挙げられます。

※出典:e-Gov法令検索.「労働安全衛生規則」.

3. 産業医が見つからない場合はどうしたらいい?

一般的には、自社の健康診断を担当している医師に依頼するケースが多いようですが、その場合はかなりの手間がかかります。また前述のとおり、医師の全てが産業医になれるわけではありません。自社の健康診断の担当医が産業医でない場合は、最寄りの病院や地域の医師会に問い合わせて産業医を探すという方法があります。ただし、問い合わせや相談に対応していない医師会もあるため、注意しましょう。確実かつ手軽に産業医を探したいのなら、産業医の紹介サービスを利用することをおすすめします。

衛生委員会の目的をよく理解し、適切な運営を行おう

衛生委員会は、労働者の健康障害および労働災害の防止や、労働者の健康の保持増進などを目的に設置される委員会です。常時使用する労働者が50人以上の事業場では、産業や業種にかかわらず、衛生委員会を必ず設置しなければなりません。従って、衛生管理者と産業医は最低でも1人ずつ選任する必要があります。

特に産業医は医師免許に加えて、特定の要件があるため、新たに探すのは容易ではありません。衛生員会の設置と共に、産業医も選任しなければならない場合は、産業医紹介サービスの利用を検討してみましょう。

株式会社メディカルトラストでは、事業場ごとの課題や悩み、現状などを丁寧にヒアリングし、最適な産業医を紹介するサービスを提供しています。提携医療機関は約330カ所を超えており、全国どの地域においてもきめ細かなサービスを提供することが可能です。衛生委員会の設置に伴い、産業医の選任が必要になった場合は、ぜひ株式会社メディカルトラストの産業医紹介サービスへお問い合わせください。

株式会社メディカルトラスト 編集部

執筆者株式会社メディカルトラスト 編集部
(この著者のおすすめ記事はこちら )

2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

最適な産業医をご紹介・サポートいたします

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

最適な産業医をご紹介・サポートいたします