新型コロナウイルス感染症の流行により、以前よりもテレワークが一般的となりました。そして、今後もその傾向が続くことが予想されます。
ラインケアは、職場のライン上にいる直属の上司、課長や部長など職場の管理監督者が、部下のいつもと違う様子にいち早く気づき、相談対応、職場環境改善などを務めることです。
しかしながら、テレワークが主な勤務形態となっている場合は、部下の様子が見えづらくなるという課題もあります。そこで、今回は、テレワーク下でのラインケアのポイントを、実例も交えながら解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。
目次
今求められるテレワーク型ラインケア
(1)今後も続く可能性の高いテレワーク
新型コロナウイルス感染症は2019年に中国で初めて確認され、その後世界へと拡大しました。
そして、日本でも流行が始まった2020年以降、テレワーク実施率が全国的に高まりました。
そして、今後の意向については、東京都の企業を対象とした調査の結果、感染収束後も現状と同規模以上でテレワークを継続していく意向がある企業は7割以上となっています。
テレワークにより、通勤時間がないため時間を有効活用できる、ストレスが軽減される、オフィスよりも集中できる、無駄な会議が減るなどのメリットを感じる労働者が多いと報告されています。
その一方で、社内での気軽な相談・報告が難しく、画面を通じた連絡が中心となる働き方という課題もあります。労働者調査では、社内でのコミュニケーションが不足するということがデメリットや課題として感じられているとも報告されています。
(2)メンタルヘルス対策について
テレワークが一般化してきている今、それに応じたメンタルヘルス対策も必要になってきています。
①メンタルヘルス対策に重要な3つの予防とは?
厚生労働省の「テレワークにおけるメンタルヘルス対策の手引き」では、以下の3つの「予防」を円滑に行うことが重要と述べられています。
そして、これらの3つの予防を行うためには、以下の図に示す「4つのケア」を効果的に行っていくことが重要とも明記されています。
②ラインケアとは?
上記の4つのケアのうちの「ラインによるケア(以下、ラインケアと記載します)」は、職場のライン上にいる直属の上司、課長や部長など職場の管理監督者によるメンタルヘルス対策です。
メンタルヘルス対策の中で、管理監督者の役割は重要です。
ラインケアでは、部下の健康状態を把握する上で、「いつもと違う」部下に早く気づくことが大切です。
しかし、テレワークの場合は仕事をしている部下の動きが見えにくいため、いつもと違う様子に気づくためにはいくつかのポイントを知っておくことが有効です。それでは、次にそのポイントについて述べていきます。
テレワーク型ラインケアのポイントとは?
(1)テレワークだからこそ見抜けるメンタル不調の特徴は?
テレワークをしている部下とは、オンラインによる打ち合わせが中心となるでしょう。しかし、オンラインではモニター越しでしか部下の表情を見ることができず、かつ時間も限られていますので、対面ワークのように情報収集が上手くいかないことが多いと思います。そこでここでは、テレワークだからこそ見抜ける、部下のメンタル不調の一般的な例をご紹介します。
①仕事について
- テレワークを希望する日が多くなった
- メールの文面にまとまりがなくなった
- オンラインシステムの操作ミスが多くなった
②対人関係
- 業務進捗表を、部署のメンバーと共有しなくなった
- 社内のSNSコミュニケーションに参加しなくなった
③言動・態度
- オンライン会議で発言しなくなった
- 画面をみないでうつむいている
テレワークをしている部下が、このような様子を呈していたら、「いつもと違う様子に気づく」ことにつながり、メンタルヘルス不調の早期発見に役立つと考えられます。
(2)テレワーク型ラインケアで部下の話を聴くときのポイントは?
テレワークの環境では、先に述べたように、部下の様子をみることがオフィスで勤務しているときよりも難しくなるため、コミュニケーションをより密にとることが必要となります。
そのために、上司と部下が1対1でオンライン面談をする機会を設けることも有効と考えられます。
オンライン面談では、最低でも2週間に1回、時間は1人あたり10分程度とするのが適切でしょう。その際、以下の図のように、話を聴くように心がけると、上司と部下の関係は良い状態で維持されやすくなります。
部下との面談の中で、業務の進捗確認や、悩みがすでにある場合は、別に時間を設定します。その面談で話した内容をすべて記録しておくことで部下の変化にも気づきやすくなるので、経時的な記録を残しておきましょう。
ラインケアの事例の紹介
では、実際の事例を挙げ、ラインケアについての解説をしていきます。こちらは、筆者の知り合いの産業医が経験したケースを元にした例です。
(1)事例の概要
ケースの概要としては、以下のようになります。
- 30歳男性、入社8年目の営業職。家族(妻・子供)と同居。
- 営業部で働いており、新型コロナウイルス感染症の流行前は、朝は直接取引先に出向き、帰りは深夜までデスクワークをするなど、毎日多忙を極めた。
- 帰宅は深夜になることもたびたびであった。
- コロナ禍で、男性の会社もテレワーク導入。
- 営業部長は、テレワーク導入時にも部員の仕事の多寡を調整せず、男性にこれまで通りの仕事をするように命じた。
- しかし、テレワークを始めると、取引先から毎日男性に対して、何十件もの電話がかかるようになってしまった。
- 早朝や深夜など、家族が寝ている最中にも電話対応をし、そのまま仕事を始めることも。
- 男性の家族にもストレスが溜まり、口論となることが多くなり、家族仲も悪化。
(2)事例の課題
このケースの場合、ラインケアとしてはどのような課題があったのでしょうか。
問題は、多忙な男性に、多くの仕事を任せたまま、テレワークでも同様に行えるという見込みでテレワークを開始してしまったことでした。営業部長はテレワーク導入時に、各部員の仕事量を、オンライン面談等で把握して、適切に仕事を割り振る必要がありました。テレワーク下でのメンタルヘルス不調を未然に防ぐための一次予防が不十分であったと考えられます。
(3)この事例の対応
営業部長は、男性からのメールでの進捗報告の文面にまとまりがなくなり、報告の頻度が下がってきたこと、業務進捗の成果もだんだんと下がってきたことが気になり、男性に何らかの不調があるのではないかと感じました。
そこで、男性に対し、個別にオンライン面談の機会を設けました。
その際に男性から、業務過多になっており自身の負担になっていること、家族との関係性も悪くなり、心身共に困惑していることで、メンタルの不調をきたしていることを聞き取りました。
改善策として、勤怠時間の管理を再度徹底し、他の部員も含めた仕事量を把握しました。その上で改めて部員に対して仕事を割り振り、今後のメンタルヘルス不調の予防のために、社員一人一人に個別の定期的な面談を行うことにしました。さらに、作業環境の改善にも取り組みました。
この男性の場合は家族と同居していることもあり、作業環境としては良いとは言えない状況でした。
そのため、サテライトオフィスの利用ができるように、可能であればその費用補助が受けられるように、営業部長の上司である本部長にも上申しました。
結果、仕事量が適切に割り振られたことで、男性の負担は減り、適宜サテライトオフィスの使用によって作業環境も改善され家族との関係性を修復することができました。
上司自身のケアも忘れずに
ここまで、管理監督者による部下のラインケアについて述べてきました。一方、管理監督者自身のセルフケアも同様に大切です。
部下と話をすると、色々な相談を受けることになるかと思います。しかし、管理監督者1人だけで抱え込まないようにすることも大切です。管理監督者にとっても、メンタルヘルスケアの4つのケアの一つ、「セルフケア」は重要です。事業者はセルフケアの対象として管理監督者も含めるようにと、労働者の心の健康の保持増進のための指針にも記載されています。
今回解説したラインケアについては、厚生労働省の「こころの耳」というポータルサイトに、eラーニングの講義などがまとめられていますので、部下をもつ方はぜひ参考にしてみると良いでしょう。
まとめ
今回は、テレワークの環境下でのラインケアのポイントと、実例を解説しました。テレワークはメリットもありますが、同時にデメリットもあります。しかし、テレワークだからこそ気づくことのできるメンタル不調もありますので、管理監督者は自身のセルフケアも行いながら、「いつもと違う」ことに気づくことができるように工夫をしていきましょう。