労働人口の中で、現在は女性が約4割を占めています。しかし、働く年代においては、男性より女性の方ががんの罹患率が高いということがわかっています。女性のがんの中で、子宮頸がんは女性特有のもので、好発年齢も比較的若いのですが、十分に検診が受けられているとは言い難い状況です。そこで今回は、子宮がん検診についての実情と、検診受診率向上のためのヒントについて解説します。
目次
女性の子宮頸がん検診の受診率は?その向上が必要な理由は?
令和2年の働く女性の概況によると、労働力人口総数に占める女性の割合は44.3%となっています。
一方、30代から50代までという、企業で中心的に働く年代においては、男性よりも女性の方ががんの罹患数は高くなっています。
女性特有のがんの一つに、子宮頸がんがあります。このがんは、ほとんどがヒトパピローマウイルスというウイルスの感染が原因となるものですが、早期がんのうちに治療すれば治癒率も高い疾患です。
子宮頸がんの罹患数は、2019年の調査では20歳代後半から増加し、40歳代にピークとなっています。
一方で、20代から50代の女性の就業率については、2019年は70%以上となっており、2009年以前よりも増加しています。
このように、働く人の中で女性が増え、現在では約4割を占める中、女性特有の子宮頸がんの好発年齢は就労が可能な時期に重なっています。子宮頸がんは早期の段階で発見され、がんの前の段階である異形成という状態で発見されれば、レーザーなどで病変部を焼くだけの治療法もあります。
しかし、進行した状態で発見された場合は、手術や化学療法などのからだへの負担も大きくなり、治療も困難になることが予想されます。働き盛りの女性が、子宮頸がんの治療によって就業が難しくなり、労働力が減ってしまうことは企業にとっても大きな打撃となってしまうでしょう。ゆえに、がん検診の受診率を向上させ、早期発見につなげることの重要性も高まっているといえると考えます。
がん検診の実情は?
では、実際にがん検診はどのような状況なのか、みていきましょう。
(1)日本の子宮頸がん検診受診率
日本の子宮頸がん検診受診率は欧米に比べて受診率が低く、改善が望ましい状況です。
(2)職場におけるがん検診の実情
次に、職場でのがん検診の実情について見ていきましょう。
①職場のがん検診は任意で実施されている
平成 28 年国民生活基礎調査によれば、がん検診を受けた者の約30〜60%が職域におけるがん検診を受けているとされています。つまり、職域におけるがん検診は、受診機会を提供するという意味でも、重要な役割を担っています。
しかしながら、職場でのがん検診は、現時点では法的根拠がなく、保険者や事業者が、福利厚生の一環として任意で実施しているものです。つまり、事業主や保険者に、がん検診を行うかどうかの裁量権が与えられているというのが現状です。
②がん検診をどれくらいの人が受けているの?
実際に、企業で働く人の中で、どれくらいの人ががん検診を受けているのか、という職場調査があります。
この報告によると、胃がん・肺がん・大腸がん・乳がん・子宮頸がんの受診率を観ると、子宮頸がんは他と比較し、35%と低いという結果でした。
(3)子宮頸がん検診を女性が受けない理由は?
では、なぜ子宮頸がんの受診率が低いのでしょうか。子宮がん検診についての考えを問われたアンケート調査では、「受ける必要が無いと思う」と答えた女性は20歳代で最も多く、18%となっていました。
同調査では、女性が子宮頸がんの検診を受診しない理由は、年代別にみると20代、30代は「受診にお金がかかるから」をあげる人が最多でした。
また婚姻状況別で見ると、未婚者においては「検査が恥ずかしいから」とする人の割合が最も多くなっていました。受診のきっかけについては、「自治体で、無料あるいは安く受診できるから」が 39%と最も多く、次いで「健康診断のオプションにあったから」が 25%を占めました。年代別にみると、20 代で受診したことがある人は、「親や家族に受診を勧められたから」「将来、出産をしたいから」という意見が多く見られました。
この調査は、職場での検診に限ったものではないことには注意が必要ですが、参考になりうる報告結果と考えます。
企業ががん検診を広めていくためのヒント
それでは、企業ががん検診を広めていくためのヒントについて、述べていきたいと思います。
(1)『がん対策推進企業アクション』を活用する
企業ががん検診をすすめていくために、厚生労働省は、がん対策推進企業アクションという事業を開始しています。
企業はこの事業に参加すると、社員へがん検診の大切さを伝える資料の提供を受けられます。がん検診を受けることの大切さを企業側が啓蒙することで、社員のがんに関する意識の向上にもつながると考えます。
さらに、がん検診によってがんを早期発見・早期治療につなげ、人材の損失を防ぐ効果が期待できます。また、がん検診に取り組んでいるという企業として、その企業イメージの向上にもつながるでしょう。
(2)子宮頸がん検診を受けやすくする仕組みを作る
企業や保険者が、基本的な健康診断のメニューに、オプションで子宮頸がん検診も組み合わせができるようにすることも、仕組みとして有効だと考えます。
また、前述したように、女性が子宮頸がん検診を受けない理由として、金銭面での負担を挙げる人がいました。
この点についての改善案としては、がん検診費用を会社や保険者で補助することがあります。もし、予算の面で難しい場合は、住民検診を受けるように推奨するという方法もあるでしょう。どの市町村でも、健康増進法に基づいて、がん検診を実施しています。ほとんどの市町村では、胃がん・肺がん・大腸がん・子宮頸がん・乳がんなどの費用の多くを公費で負担しており、一部の自己負担でがん検診を受けることができます。
こうした公的な支援を活用することも考えてもらえるように、担当部署からアナウンスすることも有用でしょう。
先にご紹介した子宮頸がんのアンケートでは、子宮頸がんについての理解度に、大きな差があることも明らかになっています。
企業側が、子宮がんについて、その特徴やがん検診の重要性を周知啓蒙していくことで、女性従業員の理解が深まり、行動の変容にもつながるのではないかと考えます。
【総括】
今回は、特に子宮頸がん検診についての実情と、受診率向上のためのヒントについて解説しました。しかし、企業によっては、費用面などの問題で、行うことが難しいこともあるでしょう。それぞれの企業の状況に応じ、基本的な職員健診に加えて、女性が子宮がん検診を受けられるような仕組みづくりや、理解度が深まるような働きかけをしていきましょう。