カスハラ(カスタマーハラスメント)とは?部下やアルバイトを守るためにすべきこと

職場ハラスメントのなかでは比較的新しい概念で、まだ知らない人も多い「カスハラ」。カスハラとはカスタマーハラスメントの略で、顧客からの著しい迷惑行為を指す言葉です。

筆者は、カスタマーセンター管理などを通じて、カスハラの現場を経験してきました。本記事では、経営者やマネジャーの視点から、カスハラ被害から部下やアルバイトを守るために何をすべきか、考えていきたいと思います。

カスハラ(カスタマーハラスメント)とは何か

まず「カスハラとは何か?」について、定義や現場での体験談をご紹介します。

カスハラの定義

近年、厚生労働省がカスタマーハラスメント対策に力を入れています。以下は2022年2月に厚生労働省が公開した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」です。

厚労省カスタマーハラスメント対策企業マニュアル表紙
出所)厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」表紙

同マニュアル内では、以下をカスタマーハラスメントと定義しています。

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

―出所)厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」P7

少し難解な表現ですが、具体例として以下が挙げられています。

「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例

   ● 企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合

   ● 要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合

「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例

(要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの)

   ● 身体的な攻撃(暴行、傷害)

   ● 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)

   ● 威圧的な言動

   ● 土下座の要求

   ● 継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動

   ● 拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)

   ● 差別的な言動

   ● 性的な言動

   ● 従業員個人への攻撃、要求(要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの)

   ● 商品交換の要求

   ● 金銭補償の要求

   ● 謝罪の要求(土下座を除く)

カスハラの実態

次に、カスハラの実態をデータで見てみましょう。厚生労働省の調査によれば、受けたカスハラ行為の内容は「長時間の拘束や同じ内容を繰り返す等の過度なクレーム(59.5%)」が最も多く、次いで「名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(55.7%)」となっています。

カスハラ行為の内容
出所)厚生労働省「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査」P34 より筆者作成

筆者が現場で体験したカスハラ

筆者は、一般消費者向けブランドの責任者をしていた時期があり、カスタマーセンターも管轄でした。前述のグラフ項目でいうと、多く経験したのは、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返す等の過度なクレーム」です。「毎日、決まって10時に電話をかけてきて、1時間以上、電話を切らせてくれない」「解決策を提示しても受け入れられず、話がもとに戻って、堂々巡り」といった具合に、延々と続くタイプのカスハラです。

企業が問題解決を試みても、相手は(言葉では解決を要求してくるのに)解決を遅らせる行動をする。解決しそうになると、それを遠ざけ、執拗に接触を求めてくる。このようなカスハラ行為者とじかに接するなかで、筆者が出した結論は、「ハラスメントの本質は、ハラスメントから行為者が得る快感にある。行為者は、やめたくてもやめられない。ずっとクレームを言い続けていたい。まるで『カスハラ依存症』のようだ」……というものでした。

制裁や攻撃がもたらす快感と依存性

前述の考えに確信を持ったのは、「人類には本能として、いじめが備わっている」とする研究に触れたときです。脳科学者である中野信子氏の著書『ヒトは「いじめ」をやめられない』から、引用します。

昔から日本には凄絶な「村八分」があり、クー・クラックス・クラン(KKK)にしても、ネオナチにしても、『正義』の名の下に、時には対象者が死に至るほどの過激な制裁・排除行動が行われてきました。いじめは学校だけでなく、企業やママ友グループ、スポーツチーム、地域コミュニティなど、集団の中では必ず起こりうる現象です。

近年、こうした人間集団における複雑かつ不可解な行動を、科学の視点で解き明かそうとする研究が世界中で進められています。その中でわかってきたことは、実は社会的排除は、人間という生物種が、生存率を高めるために、進化の過程で身につけた「機能」なのではないかということです。つまり、人間社会において、どんな集団においても、排除行動や制裁行動がなくならないのは、そこに何かしらの必要性や快感があるから、ということです。

同書では、人間の脳はサンクション(社会的制裁、攻撃)の行動をとるとき、ドーパミンによって「快感」を感じるようプログラムされていると考えられる、と説かれています。「やってはいけないことだと思っていても、(ドーパミン放出の快感によって)その行動が促進される」というのです。相手を攻撃することは、通常はあまり良くないことだと、理性的には知っているわけです。ところが一方で、人間の脳は、その理性的なブレーキを上回るほど、攻撃することによる「快感」を感じるようにプログラムされていると考えられます。

快感でカスハラをする行為者に話は通じない

理性的なブレーキを上回るほど、カスハラに快感を覚えている行為者に、理性的な話は通じません。クレーム対応に苦しむ部下に、「お客様に誠意を尽くせば、かならず理解いただけるはずだ」「お客様を大切に思う気持ちが足りないのではないか?」という上層部に限って、現場を知らないのです(辛口になってしまい申し訳ありませんが)。カスハラ行為者は、相手をいたぶればいたぶるほど楽しいので、問題が解決しないほうが好都合なのです。

自社がカスハラのターゲットにされないためにできること

では、どうすれば自社の従業員をカスハラ行為者から守れるでしょうか。まずは、前述の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」内で詳説されている、以下の取り組みが有効です。

企業が取り組むべきカスタマーハラスメント対策
出所)厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」P2

そのうえで筆者の視点からは、「そもそも自社がカスハラのターゲットにされないために、どうすればよいか?」について、4つのポイントをご紹介します。

  1. 「誰が顧客なのか?」明確にする
  2. 顧客は「神様」か「友だち」か…決めるのは経営の仕事
  3. もったいぶらずに責任者が出ていく
  4. 経営やマーケティングの失策の尻拭いを現場にさせない

1. 「誰が顧客なのか?」明確にする

“顧客”の本来の意味は、「ひいきにしてくれる客、おとくいの客」です。企業やブランドが、これからも関係を継続していきたい“真の顧客”は誰なのか、明確にします。

すなわち、「関係を継続していきたい真の顧客以外には、リソースを割かない」という意思決定を、可能にすることです。すべての購入者は平等ではありませんし、平等にすべきではありません。なぜなら、本来大切にすべき従業員の心身が消耗するからです。それは同時に、本来大切にすべき顧客のために使う時間、手間、お金、真心が減ることも意味します。

2. 顧客は「神様」か「友だち」か…決めるのは経営の仕事

「顧客である人たちと、どう付き合うか?」を決めるのは、経営の仕事です。日本では「お客様は神様」という言葉が有名ですが、神様と考えるかは自由であり、企業やブランドの戦略です。神様のように敬うのか、友だちのように接するのか、ファンとして扱うのか、仲間として迎え入れるのか。顧客へのスタンスには、さまざまな選択肢があります。

たとえば、スターバックスの店員は顧客とフレンドリーに会話を交わしますし、Apple Storeでは顧客と店員がハイタッチします。顧客がテーブルを拭き、食器をカウンターに下げるルールのラーメン店もあります。

なぜ、会社として顧客との付き合い方を決めるべきなのでしょうか。カスハラ観点での意義は、多くの従業員がデフォルト設定として、「お客様は神様」を“道徳観”として持っていることにあります。とてもではないが神様に見えないカスハラ行為者へ、「神様のように扱わなければいけない」という道徳観で接することは、従業員の心を非常に消耗させます。仮に、「お客様は神様のように接遇する」という企業戦略だとしても、それが道徳観なのか企業戦略なのかによって、従業員の心の疲弊度が変わってきます。

3. もったいぶらずに責任者が出ていく

“責任者、出てこい”と言われたら出ていく立場の人間が、顧客対応の現場スタッフに、「トラブルになりそうなときは、遠慮なくこちらに回してくださいね」と声掛けするのか、「クレームを収めるのはおたくの仕事(収められないのはスキル不足)」と一線を引くのか。

筆者は、もったいぶらずに責任者が出ていくべきだと思います。というのは、カスハラ行為者の対応は、非常にストレスフルで重労働だからです。難易度も負荷も大きな仕事こそ、責任者が積極的に引き受けるべきではないでしょうか。

4. 経営やマーケティングの失策の尻拭いを現場にさせない

店頭接客・営業・コンタクトセンターなど顧客対応の現場と、経営やマーケティングの部署との間が、不和な企業は少なくありません。経営やマーケティングの失策の尻拭いを現場にさせている企業ほど、顧客対応スタッフの負荷と不満は大きくなります。

たとえば、顧客が不服に感じるキャンペーン設計や、怒りを覚える広告表現があったときこそ、責任者は矢面に立って対応すべきですが、現場に任せっぱなしです。失策の多い企業やブランドは、カスハラ行為者にとって格好のターゲットです。重箱の隅をつつくように、同じ人物から何度も攻撃されます。失策があったときこそ、経営やマーケティングの担当者が顧客の声を直接聞くべきだと考えます。顧客の気持ちと現場の多大な苦労が骨身に染みると、施策の立て方が変わってくるからです。

さいごに

本記事では「カスタマーハラスメント」をテーマにお届けしました。
さいごに、ひとつ違った角度からのお話をさせてください。先日、コンビニ店員に対するカスタマーハラスメントに居合わせた第三者が、店員を助ける声掛けをする動画が、SNS上で出回っていました。ジャンケンのようですが「客は客に弱い」という特性があります。「客と店員」を上下関係で捉える人物は、相手が客になると立場が同等となるため、態度がコロッと変わることがあるのです。

筆者自身も、第三者としてカスハラ現場に遭遇したときには、助け船を出せる存在でいたいと思います。とくに高校生や大学生、留学生といった若年層のアルバイトがカスハラ被害にさらされないよう、社会で守っていくことも大切ではないでしょうか。「カスハラ VS 企業」の戦いだけでなく、「カスハラ VS 社会」の構造で、カスハラを減らしていけたらと思います。

 

三島 つむぎ

執筆者三島 つむぎ
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ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

最適な産業医をご紹介・サポートいたします

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