産業医選任は精神科が良い?内科が良い?それとも経験?

当社メディカルトラストは2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開しております。現在1000事業場以上でご支援をさせていただいており、私も100を超える事業場での支援を致して参りました。その中で、よくお聞きするのが産業医の選任に関して「ご経験」や「診療科目」についてのご相談です。

産業医の診療科目や経験に拘るべきか

初めての産業医選任。メンタルヘルスに関しての課題や長時間労働、従業員の健康問題など課題がある企業や、これから産業医保健に力を入れていきたい企業であるほど、求める産業医の経歴を細かく求める傾向があります。

前提として、産業医は原則診察・治療はしないので、診療科目による制限等はないのですが、
「ウチはメンタルヘルスに課題があるから精神科医を!」
「ウチは年齢層が高いので内科の年配の先生を!」
「当社は女性が多いので女医に」
「同じ業界で〇年以上、経験がある先生を・・・」
「産業医経験は〇〇年以上…」
「当社は珍しい〇〇溶剤と△△装置を使っているので詳しい先生を…」
―と、いったような要望をお聞きする事も多いです。

産業医の診療科目や経験年数に拘るべきなのでしょうか?当社で産業医選任のご支援を申し上げたX社は、そのヒントになるような事例でしたのでご紹介致します。(特定できないように改変してお届け致します。)

【企業概要】
企業:X社(建築系)
規模:400名ほど
課題:時期により長時間労働が多い、休職者は数名

内科系の男性産業医でご経験も豊富

当時X社を担当いただいていた産業医は、40代半ばのベテランの内科系A先生でした。大手建設業での専属産業医のご経験もあり、工場や建築系、オフィス系など幅広いご経験をお持ちの先生です。また、X社はかなり忙しい事業場であった事もあり、長時間労働者面談、従業員の平均年齢も40代後半ということから健康相談も度々あり、メンタル系の問題での復職やその後のフォロー等の面談も多い企業でした。

産業医経験も豊富なA先生は、他社事例等も踏まえて、従業員と会社の間に立ち双方が納得できるような落としどころに導く事が出来る、人事担当者は勿論、従業員の方にも頼りにされる産業医でした。「A先生は流石、経験も豊富で他社事例も踏まえて色々とお話を頂けるので助かっております」―ご紹介した当社も高い評価を頂いておりました。

ところが。
「家庭の事情で来月には産業医を退任しなければならない」―寝耳に水の事です。私もX社の担当者も驚きました。A先生も可能であれば続けたいのですが事情が許さず、ご自身でも後任をさがされていたようですが難しかった、との事でした。

当社のような存在は、こういった不測の事態にこそ、お客様と先生の信頼に応えなければなりません。お世話になったA先生には必ず後任を見つけますのでご安心くださいと、これまでの活躍に御礼もお伝えして、早速、後任の先生をお探しする事になります。

当然、これまでのA先生がとても良く進めてくださっていた事もあり、「A先生のように40代位で、産業医経験が豊富で、同じ業界の経験もある内科の先生が・・・」。当然のご要望かと思います。こういった先生がいない訳ではないのですが、X社は最寄りの駅からかなり遠方で、さらに、期の途中での変更という事もあり、安全衛生委員会の日程を変える事も出来ないという事情がありました。しかも、この安全衛生委員会の日程はA先生に合わせて作成していたため、若干特殊な日程であった事も災いしました。その日程で対応可能な先生をすぐにお探しするのはかなり難しい状況でした。

精神科系の女性産業医で未経験

X社のベテラン産業医A先生の退任が避けられない状況になる少し前、当社に精神科のB先生が登録にいらっしゃいました。精神科の勤務医をされているのですが、今後産業保健も積極的に活動したいと考えており、未経験ではありますが、当社の扉を叩いて頂きました。年齢的にもまだ30代前半と若く、産業保健にも前向きなご意思を感じた事もあり、たまたま空きのあった当社の「社外産業保健室」でのご勤務をお願いしていた矢先でした。

産業医経験が無い、つまり現状クリニックのご勤務と当社の社外産業保健室勤務以外は、まだ日程的に空きがある。私はB先生にX社の概要をご説明の上、お引き受けを頂ける可能性があるか相談を致しました。B先生のお人柄であれば、お会いしていただければ、選任を頂ける可能性があるのではと考えたのです。結果、B先生からは先方が了承するなら、とのお返事を頂く事ができました。

X社のご担当にB先生の件をお話したところ、必ずしも「大歓迎」という反応ではありませんでしたが、一度お会いしていただける事になりました。勿論、この時にB先生のご経験等は正直にお伝え済みです。日程的にB先生が対応可能であったこと、また、経験はないものの、当社がしっかりとフォローをする事をお約束し、結果的に無事産業医選任となりました。

やはり、大きかったのはB先生のお人柄です。お顔合わせの際に「産業医経験はないので、分からない事は教えて頂く姿勢で活動したい」「臨床活動での経験はX社でもお役に立てるはず」といった謙虚、かつ前向きな姿勢を評価頂けたのではないかと思います。

B先生はその後、4年ほどX社で産業医をしていただく事になるのですが、X社の担当者や従業員方からは「親身にお話を聞いてもらえる」と信頼を得ていきました。衛生委員会や職場巡視の場では、お仕事内容についてB先生ご自身から度々質問があった事も、「X社の仕事に興味を持ってもらっている」と好印象であったようです。また、B先生が「精神科臨床医」という事もあり、特にそういった部分では担当者も心強いと感じてもらえていました。

「B先生は謙虚でよく話を聞いてくれて、精神科医だけあってコミュニケーション能力が高いですね!」良好な関係を築き順調であったのですが・・・。

B先生もご勤務先の事情でX社の産業医を続ける事が難しくなってしまったのです。幸い、前任のA先生のご退任時とは異なり、今回は時間的にも余裕があり、X社も後任の先生のスケジュールに合わせる事が出来る状態でしたので、前回ほど焦る必要はありませんでした。B先生も大変頼りにされるようになっていた事もあり、担当者からは「精神科系で30代、B先生と同じ女性の産業医が良い・・・」といったご希望がありました。

麻酔科で40代の男性産業医

X社は現在、麻酔科で産業医経験もあるC先生にご担当いただいています。C先生はオフィス系の産業医経験が豊富で、今後は建築、運送といった分野での知見も広げていきたいとの意向をお持ちで、X社のご信頼を得て、産業医として活躍をいただいております。

3人の産業医の共通点は?

A先生は内科系のベテラン産業医、B先生は産業医としては駆け出しの若手精神科医、そして、C先生は産業医経験のある中堅の麻酔科医。年齢も性別も診療科も経験も異なりますが、X社の産業医として信頼を得ております。

3人の産業医の共通点は何かと問われれば、身も蓋も無い言い方をすると、「コミュニケーション能力」という事になってしまいます。そのコミュニケーション能力を別の言い方で表現すると、「企業と従業員に向き合い信頼を得て、双方が納得して健康で前向きに仕事に取り組めるように後押しをする能力」ではないかと思います。

産業医の診療科や経験は考慮しなくて良い?

では、産業医経験や診療科目は考慮しなくても良いのでしょうか?そう問われれば、「企業の置かれた状況による」というのが答えになります。企業の状況によっては、診療科目やご経験に拘った方が良い事もあるでしょう。ただし、診療科目や経験年数はあくまで「従」であり、大切なのは企業と従業員に真摯に向き合い、産業保健活動に意欲的に取り組みたいという意向なのではないでしょうか。

また、最初から「精神科の産業医」「呼吸器内科の産業医」「同業での経験」などで絞り込んでしまうと、もしかすると出会えたかもしれない、その企業にとって最良の産業医と出会う機会を逸してしまうかもしれません。本当に診療科目や経験年数に拘るべきか?その辺りは慎重に見極めていきたいところですね。

産業医の事をもっと知りたい

私も監修に関わった、産業医、産業保健の事や「臨床医」と「産業医」の違いなどを1冊にまとめた資料を「産業保健簡単まとめブックver.1」無料贈呈しております。産業医、産業保健に関してのご相談はいつでも歓迎です。下記よりお問い合わせ下さい。

池戸浩司

執筆者池戸浩司
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株式会社メディカルトラスト/社会保険労務士。これまで70名以上の産業医の先生と共に100事業場を超える産業保健活動を支援。現在も50事業場以上の産業保健活動の支援を継続している。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

最適な産業医をご紹介・サポートいたします

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