「体調管理も仕事のうち」はパワハラ!?代わりに使うべき言葉

わたしは、「体調管理も仕事のうち」という言葉が大嫌いだ。

できるだけ早く、この世から消し去りたいと思っているくらいである。

「いやでも、病気になると仕事に影響が出るじゃないか。体調に気を付けるのは当たり前だろう?」と思っているそこのあなた!

その何気ない一言がだれかを追い詰めているかもしれないと、想像したことはあるだろうか。

なぜ?「体調管理は仕事のうち」がパワハラになる理由

わたしが「体調管理は仕事のうち」という言葉が嫌いなのは、単純に納得できないからだ。

体調管理が仕事であれば、体調不良=仕事ができない、になってしまう。そんなの理不尽だ。

そもそも、仕事ならなぜその業務には給料が発生しない?
ちゃんと体調管理という仕事をしたら金をくれよ、金を。

しかしいくら違和感を覚えても、「仕事だから」と言われては言い返せない。
そしてそれは、他の場面でも同じだ。

飲み会でいい関係を築くことも仕事のうちだぞ。ほら、お酌しろ。
ちょっと下ネタを言われたくらいで騒ぐな、笑顔で聞き流すのも仕事のうちだ。
育児と両立するのも仕事のうちなんだから、うまいことやれ。みんなそうしている。

理不尽で正当性が皆無でも、それが「仕事」だと言われたら、やらないわけにはいかない。

「仕事のうち」というのは、なんでも正当化できてしまう姑息な表現である。だから大嫌いなのだ。

「いやいや、そんな大げさな。ただの物のたとえだ」

こう言う人もいるだろう。

でも、もしあなたが風邪気味で咳をしているところに上司がやってきて、「体調管理も仕事のうちだからな」と言われたら、どう思うだろうか。

「よし、仕事のために体調管理がんばるぞ!」とモチベーションが高まり風邪が治るのだろうか?

わたしなら、「病気になりたくてなる人なんていないのに何言ってんだ? 管理して治るならもう治してるわ。わたしの体調より、書類が明日までに仕上がるか心配なだけだろ」と思う。

わたしのように、「体調が悪いのは自己責任なんだからちゃんと仕事しろよ」と釘を刺されたように受け取る人は、きっと少なくない。

そしてそんなことを言われた翌日、熱が出たらどうだろう。

「だから昨日言ったじゃないか」と言われそうで、とても休みづらい。熱があっても無理して出社しなくては……そんな気持ちになる人だっているはずだ(わたしは堂々と休むけどな!)。

そう、「体調管理も仕事のうち」という一言は、とんでもないプレッシャーになるのだ。

実際、「体調管理も仕事のうち」とグーグルに入れると、「パワハラ」「おかしい」「ハラスメント」というサジェストが出てくる。

何気なく使われている言葉だが、多くの人を追い詰め、ストレスを与え、体調不良でも無理に仕事をさせることで、むしろ健康を害しているのである。

たった一言が体調不良に厳しい労働環境を作っていく

「たった一言でそんな大げさな……」

そう思った人は、ぜひ一度、考えてみてほしい。

労働環境や職場の雰囲気は、小さな言葉の積み重ねで作り出される。

たとえば、生理で青白い顔をして腹痛を訴える後輩に対し、先輩が「生理なんて毎月のことでしょう? 体調管理も仕事のうちなんだからしっかりね」と言ったとする。

後輩は、「薬を飲んでがんばるか……。でも薬を飲むと眠くなるんだよな。生理痛がさらにひどくなるけど、コーヒーを飲んでどうにかするしかないか……」と、体調が悪化するのを覚悟でその場しのぎの選択をするかもしれない。

それを聞いたまわりの人たちは、「わたしもそろそろ生理が来るんだけど、嫌味を言われないように気をつけなきゃ」と気が重くなる。

そんななかで「生理痛がきついので休みます」なんて言う人がいたら、「わたしはがんばってるのになんであの人は休むの?」と人間関係が悪くなるかもしれない。

何気ない一言が負の連鎖を生み、「体調不良に厳しい雰囲気」を作り出してしまうのだ。

そういえば以前、友人が残業続きで疲れがたまり、風邪をひいたことがあった。

しかし「プロジェクトの大事な時期だから体調管理もちゃんとしろよ」と言われ、休むわけにもいかず、重い体をひきずって出勤。

体調は悪くなる一方で、朝起きれないので朝食を抜くようになり、仕事でもミスが増えるように……。

最終的にめまいで動けなくなり、救急車で病院に運ばれ点滴を受けたそうだ。

幸いなことに点滴でどうにかなったが、もっと大きな病気だったら?
倒れたのが運転中だったとしたら?

それでも、「たった一言で大げさな」と言えるだろうか?

「体調管理も仕事のうち」は百害あって一利なし

そもそも、なぜこんな言葉が一般的に使われているのだろう。

思い当たるのは、「病は気から」という言葉だ。

たしかに、精神状態は体調に大きく影響する。でもその言葉を利用して、「病気になるのは気持ちの問題だ」と結論付けるのは、また別の話だ。

妊娠は病気じゃないんだから寝込むのはおかしい。うつ病は根性なしの言い訳だから存在しない。甘えずにちゃんとやればそうはならない。

このように相手を追い詰めるために使うのであれば、その言葉はまちがっている。

あくまでその言葉は、病床の人を励ましたり、病気のときに自分を鼓舞するために使うべきで、体調不良を自己責任にするために使うものではないのだ。

……というと、「自分ではどうしようもない病気はしかたないが、自分で予防できる範囲の体調不良のことを言っているんだ」という反論があるかもしれない。

しかし「体調管理も仕事のうち」と言って、いったいどうなるんだ?

前日深酒をして頭が痛い。ゲームのしすぎで寝不足になった。
そんな人間が、「体調管理しろ」と言われたからといって、深酒をやめて24時にゲームを終わらせるんだろうか?

そんなことを言われなければ自制できないような社員、やばくないか?

たいていの人間は、健康に働き続けられるよう、仕事に影響が出ないよう、さまざまなことに気を配っている。

日曜日は早めに寝るし、疲れが溜まっていたら飲み会を断るし、喉が痛いなら飴をなめる。

「体調管理しろ」と言われなきゃできないレベルの社員ばかりなら、人事に人を見る目がなさすぎるから、別の心配をしたほうがいい。

それに、たとえば深酒の理由が仕事のストレスなら、「酒を飲むな」と言ったところで解決するわけでもない。

だから「体調管理も仕事のうち」なんて言葉、相手にイヤな思いをさせるだけで、なんの益もないのだ。

体調を気遣うなら「体を大切にな」のほうが100倍いい

とはいえ、社員が健康であるに越したことはない。
給料をもらっている以上健康に気を配るのは当然だし、上司が部下にそれを期待するのもまた当然だ。

では、どう言えばいいのか?

それは単純明快。
「体を大切にな」である。

「ご自愛ください」という言葉があるように、「体を大切にしてください」というのは、古くから好まれている思いやりの表現だ。

そこには、病気にならないように予防してくださいね、体がしんどければゆっくり休んでくださいね、気になることがあれば医者に行ってくださいね、などが広く含まれる。

便利だし、表現が優しいので汎用性が高い。

また、「体を大切にな」と言われたら、「明日早く出社するので今日は少し早めに帰っていいですか?」「眠気がひどいので10分だけ休ませてください」なんてお願いもしやすくなる。

早めにSOSを出してもらえれば、長期の病欠や休職なども減らせるかもしれない。

そして、「体調管理も仕事のうちだぞ」と言われれば「すみません……」と謝るしかないが、「体を大切にな」と言われたら、「ありがとうございます」と答えられる。

前者より後者のほうが、コミュニケーションとして優れているのはまちがいない。

たった一言、されど一言、だ。

「体調管理も仕事のうち」より「体を大切にな」と言おう

仕事に穴を開けて苦労するのは自分だし、病気になってしんどいのも自分自身。だれだって、病気になりたくはない。

そうはいっても、体調を崩すことはある。

いくら予防をしていても風邪を引くことはあるし、生まれつきお腹が弱い人、片頭痛持ちの人だっている。遺伝であれば、なおさらどうしようもない。

わざわざ「体調管理をしろ」と追い打ちをかけても、プレッシャーになるだけだ。それで病気がよくなるなら苦労はしない。

無意味でマイナスにしかならない言葉を使うのはやめよう。
ただ優しく、「体を大切にな」と言ってあげればいい。

余談だが、以前夫はよく風邪をひいており、夫が風邪をひいて帰宅→わたしが看病する→夫は2日で全快、わたしは高熱で一週間寝込む、ということが毎年何度もあった。

目の前の社員の健康を気にかけることは、その家族やまわりの人の健康を守ることにもつながる。もちろん、あなた自身の健康も。

というわけで、「体調管理も仕事のうち」なんて言葉ではなく、「体を大切にな」という表現が広まっていってほしいと思う。

雨宮 紫苑

執筆者雨宮 紫苑
(この著者のおすすめ記事はこちら )

ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

最適な産業医をご紹介・サポートいたします

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

最適な産業医をご紹介・サポートいたします