ストレスチェックは、2015年の労働安全衛生法一部改正に伴い、義務化された制度です。この法律では、ストレスチェックを実施した結果「高ストレス者」と判定された従業員から申し出があった場合には、産業医などの医師による面接指導を実施しなければならないことが定められています。
本記事では、高ストレス者への面接指導実施の流れや実施後の取り組み、注意点などを紹介します。
目次
ストレスチェック制度とは
ストレスチェックとは、ストレスに関する調査票に選択形式で従業員が回答し、その回答を集計、分析して従業員のストレス状況を把握するための検査です。
労働安全衛生法第66条の10第1項、労働安全衛生規則第52条の9、第52条の21に基づき、常時50人以上の従業員を使用する事業者は、産業医や保健師などによる年1回以上のストレスチェックの実施、労働基準監督署への検査結果報告書の提出が義務付けられています。また検査の結果、高ストレス者と判断された従業員が面接を希望した場合、医師による面接指導を行わなければなりません。
50人未満の事業場ではストレスチェックの実施は努力義務と位置付けられ、できるだけ実施することが望ましいとされています。
ストレスチェックの実施者になるのは、事業場に選任している産業医や保健師が多いようですが、専門機関などに外部委託することも可能です。ストレスチェック後に実施する面接指導は、従業員や事業場の状況を把握する当該事業場に選任している産業医による実施が望ましいでしょう。
ストレスチェック後の産業医による面接指導の目的
ストレスチェック後に高ストレスだと判定された方への医師による面接指導の目的は、従業員のストレス状態を正確に把握し、メンタルヘルス不調や職場環境の改善につなげることです。事業者は面接指導を実施した産業医の意見に基づいて、業務内容の変更や労働時間の短縮など、事業者が対応可能な範囲での措置を検討・実行し、従業員が健康に働ける環境を整えます。
実施者は、検査の結果、高ストレス状態にあると判断された従業員に対し、面接指導を申し出るよう勧奨することができます。面接指導を受けるかどうかは従業員本人の希望によりますが、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐためにも、できるだけ受けてもらうようにしましょう。面接で話した内容が無断で事業場に共有されない旨などを周知し、面接指導を申し出やすい環境を整えることが大切です。
ストレスチェック後の面接指導実施の流れ
ストレスチェック後の面接指導の実施の流れは、6つのステップに分けることができます。
- ストレスチェックの結果から高ストレス者を選定する
- ストレスチェックの結果を従業員に通知する
- 実施者から高ストレス者に面接指導の申し出の勧奨を行う
- 面接指導を申し出た高ストレス者の情報を産業医と共有する
- 面接指導の実施
- 産業医の意見を聴き、就業上の措置や対策を講じる
それぞれ詳しく説明していきます。
(1)ストレスチェックの結果から高ストレス者を選定する
ストレスチェック後の面接指導の実施の流れのステップの最初は、ストレスチェックの結果から高ストレス者を選定することです。
ストレスチェックの調査票を回収したら、その内容を集計します。そしてストレスの自覚症状が高い従業員や周囲のサポート状況が悪い従業員などを「高ストレス者」に選定します。選定方法や基準は、ストレスチェックを実施する産業医などの提案やアドバイス、衛生委員会などにおける調査審議を経て決定するのが一般的です。
ストレスチェックの調査票には、厚生労働省の推奨している57項目版を始め、23項目版、80項目版などさまざまな種類があります。高ストレス者を選定する具体的な方法は、いずれの調査票を用いた場合も、合計点数を使う方法、各項目の点数を元に素点換算表を用いて評価点を算出する方法があります。
(2)ストレスチェックの結果を従業員に通知する
ストレスチェック後の面接指導の実施の流れの2ステップ目は、ストレスチェックの結果を従業員に通知することです。
検査結果は、検査を実施する医師や保健師などの「実施者」から、直接本人に通知されます。検査結果を本人の同意なく、実施者から事業者に提供することは禁止されているため、封書や電子メールなどを利用し、検査結果が第三者に知られない形で通知しなければなりません。
(3)実施者から高ストレス者に面接指導の申し出の勧奨を行う
ストレスチェック後の面接指導の実施の流れの3ステップ目は、実施者から高ストレス者に面接指導の申し出の勧奨を行うことです。
ストレスチェックの結果、高ストレス状態にあり「面接指導の必要がある」と判断された従業員に対しては、産業医などのストレスチェック実施者から面接指導を申し出るよう勧奨します。
(4)面接指導を申し出た高ストレス者の情報を産業医と共有する
ストレスチェック後の面接指導の実施の流れの4ステップ目は、面接指導を申し出た高ストレス者の情報を産業医と共有することです。
該当の従業員が希望した場合には、医師による面接指導を実施します。事業者は、当該従業員の業務内容や職場環境、勤務状況といった面接指導に必要な情報を産業医に提供します。また、この段階で面接を希望した従業員からはストレスチェック結果を事業者に通知する許可を取っている事が多いようです。
(5)面接指導の実施
ストレスチェック後の面接指導の実施の流れの5ステップ目は、面接指導の実施です。
面接指導の申し出を受けた後、当該従業員と産業医とのスケジュールを調整し、実施日時を決定し面接指導を行います。
面接指導において医師は、労働者の業務の過重性や心理的負担、ストレスと業務の関連性などを医学的に判断します。この他にも従業員の勤務状況や心身の健康状態への助言、ストレスに対するセルフケアの指導、医療機関への受診勧奨などを行います。
また面接指導を行う産業医などは守秘義務を負っており、面接を通して知り得た個人情報などを、従業員の同意なく事業者へ共有することはできません。事業者に対して必要な措置を講じるよう意見を述べる際には、従業員のプライバシーに配慮して行います。
(6)産業医の意見を聴き、就業上の措置や対策を講じる
ストレスチェック後の面接指導の実施の流れの6ステップ目は、産業医の意見を聴き、就業上の措置や対策を講じることです。
事業者は面接指導が実施された後、面接指導を行った産業医などから就労上必要な措置について意見を聴取します。具体的には勤務時間の調整や部署異動、休業の必要性などについて医師の意見を仰ぎ、その意見や就業規則に基づき、事業者は措置実施の判断を行います。
医師からの意見聴取は、遅滞なく行わなければならないと定められています。面談実施後、おおむね1カ月以内の実施が望ましいでしょう。
高ストレス者への面接指導実施の際の注意点
高ストレス者に対して面接指導を実施する場合の注意点は以下の2点です。
- 高ストレス者への面接指導は強制できない
- 高ストレス者からの面接指導の申し出には速やかに対応する
高ストレス者への面接指導は強制できない
高ストレス者への面接指導は、労働者本人の申し出があった場合のみ実施できるものであり、強制することはできません。
とはいえ高ストレス状態で当該従業員を放置すれば、メンタルヘルス不調のリスクが高まります。ストレスチェックの実施者や実施事務従事者から再度の面接指導申し出の勧奨を行ったり、相談窓口や支援機関といった面接指導以外のサポートを紹介したりするなど、何らかの対応が求められます。
高ストレス者からの面接指導の申し出には速やかに対応する
面接指導は当該従業員からの申し出があった後、遅滞なく行わなければならないとされています。おおむね1カ月以内を目安に実施するとよいでしょう。
また従業員による面接指導の申し出はストレスチェックの結果が通知された後、遅滞なく行うものと定められています。面接指導を希望する場合は、結果の通知後おおむね1カ月以内に申し出るよう従業員へ周知しておきましょう。
要件を満たせばオンラインでの面接指導の実施が可能
医師による面接指導は一定の条件を満たす場合、オンラインでの実施が可能です。
実施に係る要件には、事業者が面談を実施する医師に、対象従業員の業務内容や勤務状況に関する情報などを提供すること、常時安定して映像と音声の送受信ができ、従業員の顔色やしぐさなどを確認できる通信機器を使用することなどがあります。
ただし、面接指導を行う医師が直接対面する必要があると判断した場合には、直接対面によって実施する必要があります。
面接指導の実施後は結果報告書を労働基準監督署へ提出する
面接指導の実施後はストレスチェックと面接指導の実施状況について結果報告書を作成し、所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。
報告書の様式は厚生労働省のホームページに掲載されている既定の様式を使用する必要があります。様式は以下のページからダウンロードが可能です。
厚生労働省「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」
また、厚生労働省の「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」を利用すれば、インターネット上で報告書を作成できます。電子申請したい場合には、「e-Gov電子申請」を利用しましょう。
報告書の提出に決まった期限はなく、各事業場における年度末など、事業場ごとに設定して問題ありません。
まとめ
ストレスチェックの結果、高ストレス者が発見された場合には、産業医による面接指導の実施が推奨されます。該当従業員に対して面接を強制することはできませんが、できる限り面接を受けてもらうようにしましょう。ストレスチェックや面接指導の結果をもとに、メンタルヘルス不調の改善や働きやすい職場づくりを社内で実行する場合は、事業者の独断ではなく産業医と連携することも大切です。
ストレスチェックは事業場に従事する産業医が実施者となる場合が多いようですが、外部機関の医師などに委託することも可能です。信頼できる医師が身近にいない場合は、産業医の紹介サービスを利用するといいでしょう。