乳がんは女性のがんの中でもっとも罹患率が高い病気です。
しかし、早期発見・早期治療を行うことで、高い生存率が期待できます。
本記事では、乳がん検診の方法について解説し、乳がん検診の受診率を向上させるための企業の取り組みについてのヒントも説明していきます。
目次
乳がんとは?勧められている検診の方法は?
最初に、乳がんついて、そして現在推奨されている検診の方法について説明していきます。
(1)乳がんの罹患率は?早期発見すれば助かる?
乳がんとは、その名の通り乳腺の組織に生じるがんのことです。
多くは乳管から発生しますが、一部は乳腺小葉から発生します。
女性の9人に1人は生涯で1度は乳がんに罹患する可能性があります。
そして、2019年の女性の部位別がん罹患数においては、乳がんは1位となっています。
乳がんでの死亡数は、女性においては4位となっています。
一方で、限局期、つまり早期の段階で発見された場合には、5年生存率は99.3%であるという調査結果もあり、早期発見・早期治療をすることが大切だと考えられます。
乳がんの好発年齢は、働き盛りの40歳以降となっています。
また、乳がんの罹患者数や罹患率、死亡者数、死亡率も年々増加しています。
そのため、企業としても、軽視することはできない疾患だといえるでしょう。
(2)乳がん検診にはマンモグラフィーが勧められている
乳がんの死亡率を減少させることが科学的に認められており、乳がん検診として推奨できる検診方法は「乳房X線検査(マンモグラフィ)単独法」とされています。
乳房を観察することを視診、手で実際に触ることを触診といいます。
これら二つを合わせて視触診と呼びます。
この「視触診単独」や「超音波検査(単独法および、マンモグラフィ併用法)」は、死亡率減少効果を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診(住民検診)として実施することは勧められていないのが現状です。
乳がん検診が推奨されるのは40歳以上の女性で、受診時期は2年に1度となっています。
もし、検診で「異常あり」として精密検査が必要だと判定された場合には、マンモグラフィの追加検査や超音波検査を行います。
必要であれば、細胞診や組織診などで実際に細胞や組織を採取して調べる検査へと進みます。
マンモグラフィは、乳房を片方ずつプラスチックの板で挟んで撮影することで、小さいしこりや石灰化を見つける検査です。
一方、若い女性の場合、乳腺の密度が高く、マンモグラフィで撮影すると全体的に白く写ってしまい、小さな病変を検出することが難しくなるという問題があります。
そうした問題の解決のため、超音波検査とマンモグラフィと組み合わせることが有効であるということが示された研究結果が最近日本で報告されました。
また、最近では、乳がんの病変の検出力を高めるための方法として、3Dマンモグラフィという検査方法も開発されています。
この方法は、低線量のX線を使用し、乳房を複数の方法から撮影し、それをコンピューターで3次元解析(3D)解析するというものです。
3D解析を行うことなどで、小さな病変を検出することが可能となると期待されています。
(3)乳がん検診を受けた方がいい人は?
国は40歳以上の女性に対して乳がん検診を推奨しています。
一方、乳がんのリスク要因としては、以下のようなものが考えられています。
- 初経年齢が早い
- 閉経年齢が遅い
- 出産歴がない
- 初産年齢が遅い
- 授乳歴がない
- 閉経後の肥満
- 飲酒習慣
- 第一親等(自分の親または子)の乳がんの家族歴
- 良性乳性疾患の既往歴
- エストロゲンを含む経口避妊薬の使用、閉経後の長期のホルモン補充療法
例えば、30代以下の女性であっても、一親等、つまり実の親や子に乳がんがあった、といった場合には、積極的に乳がん検診を受けることが望ましいと考えられます。
乳がん検診の受け方はどんなものがある?
では、ここからは、乳がん検診を受ける方法について簡単に解説します。
(1)自治体の検診
先述の通り、自治体による乳がん検診は原則40歳以上の女性とされています。
自治体によっても様々ですが、費用は自治体が一部公費負担するため、自己負担額は比較的安価であることが多いようです。
例えば、名古屋市の場合には40歳以上の女性では2年に1回、ワンコイン(500円)で乳がん検診を受けることができます。
また、対象となる年齢時には無料で検診を受けることもできるようになっています。
(2)企業や健康組合の健康診断
会社員の女性の場合は、事業者検診(企業が独自に実施する健診)や協会けんぽの特定健康診査(特定健診)などで乳がん検診を受けられることもあります。
(3)全額自己負担の乳がん検診
年齢などから自治体の検診や企業の職場健診を受けることができない場合は、乳がん検診を行っている病院や人間ドックを活用することもできます。
この場合は、病院やクリニックによって、超音波検査や3Dマンモグラフィ、あるいはMRIなどさまざまな種類の検査を受けることができます。
企業が乳がん検診率を向上させるためのヒントは?
乳がんの早期発見のためには、乳がん検診を受けることが大切です。
厚生労働省は、がん検診の受診率の目標を50%以上としています。そして、乳がん検診を受けた者の約 30〜60%が職域におけるがん検診を受けているという調査結果もあり、企業が乳がん検診の受診率向上のために重要な役割を担っているといえます。
そこで、以下では、企業が乳がん検診の受診率を向上させるための方法について解説していきます。
(1)受診対象者に受診を促す
受診対象者には、メールや文書、口頭で受診を促すようにすると良いでしょう。
管理職から従業員に対しても、強制にならない範囲で受診勧奨をすることも方法として挙げられます。
また、がん検診に関するポスターやパネルの掲示、セミナーなどで、乳がんに対する情報を発信することも良いですね。
乳がんの早期発見のためには、乳房セルフチェックの方法についても周知することもよいかと思います。
産業医や産業保健師・産業看護師などがいる場合には、そうした産業保健スタッフが主導し、乳がんに対する情報発信やがん検診の推進をすることも効果が期待できます。
(2)乳がん検診の体制を整える
可能であれば、企業や健保で、従業員のがん検診の費用を負担することも有効と考えられます。
30歳代以下であっても、希望があればオプションなどで乳がん検診を職場検診の一環として受けられるようにするのも良いかもしれません。
がん検診に関するメリットやデメリット、結果の解釈などがわかるような説明資料を準備することも、従業員ががん検診の理解を深める一助となります。
もしも企業や健保で、乳がん検診の費用負担などが難しい場合には、従業員の住んでいる自治体のがん検診を受けることを促す、といった方法もあるでしょう。
(3)がん検診の結果を把握する
従業員のがん検診の受診状況を把握し、もしも精密検査が必要な場合には、受診勧奨を行うことが大切です。
もちろん、がん検診の結果を企業や健保が集めることに対しては、従業員から同意を得ることが必要です。
しかし、がん検診の意味を考えると受診だけで終わらせることなく、必要な検査や治療を従業員が受けられるようにしていくことが大切です。
まとめ
今回は、従業員の乳がん検診受診率向上のために企業が取り組めるような、受診率向上のヒントについても述べました。
乳がん検診は、国からは40歳代以上が推奨されていますが、それ以下の年齢の方でも乳がんが心配な女性もいると思われます。
企業は、可能な範囲で、女性が乳がん検診を受けやすい体制を作るようにできるといいですね。