産業医選任届に必要な書類や記入例などを解説

一つの事業場に常時50人以上の従業員が勤務している場合、産業医を選任しなくてはいけません。さらに産業医を新たに選任または変更した際は、所轄の労働基準監督署に産業医の選任届として「産業医選任報告」による報告書を提出する必要があります。

この「産業医選任報告」はどのように準備すればよいのでしょうか。様式の入手方法や詳しい記入の仕方、提出方法、そして作成の際の注意点についてご紹介します。

産業医の選任届を提出する方法

産業医を新たに選任または変更した際は、産業医の選任届である「産業医選任報告」を作成し、所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。提出方法は、紙の書類を直接提出する他、Webサイトから電子申請することも可能です。本項では、それぞれの詳しい提出方法を紹介します。

「産業医選任報告」書類を紙で準備して届け出る

紙の書類で提出したい場合は、必要な書類を揃えて所轄の労働基準監督署の窓口へ直接届け出るか、郵送します。書類の入手先は次の2つです。

労働基準監督署で取得する、もしくはWebサイトからダウンロードする

報告書の記入用紙は、労働基準監督署の窓口で直接受け取ることが可能です。または、厚生労働省のWebサイトからダウンロードもできます。

厚生労働省:「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」

こちらから「統括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者の選任報告」という様式をダウンロードし、プリントアウトして必要箇所を記入します。

統括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者の選任報告

「産業医選任報告」を厚生労働省のWebサイト上で作成する

厚生労働省が2019年に開始した「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」を利用すると、Webサイト上で報告書を作成することが可能です。サービスの利用において事前の申請や登録は不要で、インターネットにつながる環境であればいつでも利用できます。

なお、こちらのサイトで作成した届出をそのまま電子申請することはできないため、必ず印刷したものを労働基準監督署に提出するようにしてください。

e-Govで電子申請する

直接労働基準監督署を訪れるのが難しい、郵送の手間を省きたいなどといった場合は、電子申請での提出がおすすめです。

「e-Gov電子申請」というサービスを利用すれば、インターネットを通して申請や届け出などの行政手続きを自宅や会社からできるようになります。事業主がe-Gov電子申請に対応した電子証明書を持っていれば申請が可能です。e-Gov電子申請のアプリケーション上で報告書を作成し、その他の必要書類を電子ファイルで用意して添付し、電子申請します。

事前準備として電子証明書の有無の確認の他、申請作業をするパソコンへのアプリケーションのインストールと、e-Govアカウントの登録が必要なため、いざ申請をするというときに慌てないよう時間に余裕をもって対応しましょう。

「産業医選任報告」の記入例

「産業医選任報告」を紙の書類で提出する際の記入例を紹介します。以下のサイトにて報告書の記入例を閲覧できるので、こちらを参考にしながら記入するとわかりやすいでしょう。

産業医選任報告を紙の書類で提出する際の記入例
出典:独立行政法人 労働者健康安全機構 神奈川産業保健総合支援センター「安全衛生管理体制のあらまし(全域版)24ページ」

必要な情報を記入する

報告書で記入が必要な情報は、次の通りです。

  • 労働保険番号
  • 事業場の名称
  • 事業の種類
  • 事業場の所在地
  • 電話番号
  • 労働者数
  • 労働安全衛生規則第13条第1項第3号に掲げる業務に従事する労働者数
  • 被選任者氏名
  • 選任年月日
  • 被選任者の生年月日
  • 選任種別
  • 専属の別(他の事業場に勤務している場合は、その勤務先)
  • 選任の別(他の業務を兼職している場合は、その業務)
  • 産業医の場合は医籍番号等
  • 事業者職氏名(押印)

「労働安全衛生規則第13条第1項第3号」とは、健康への悪影響が懸念される特定業務を定めた法律です。詳しくは後述します。

引用:厚生労働省「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告様式」

記入する際の主な注意点

前項で紹介した報告書の項目の中でも、記入の際に注意が必要なものについて解説します。

事業の種類

事業の種類は、「日本標準産業分類」の「中分類」に従って記載します。「日本標準産業分類」は総務省のホームページに掲載されていますので、こちらに合わせた種類名を記載しましょう。

特定業務に従事する労働者数

全従業員数の他に、「労働安全衛生規則第13条第1項第3号に掲げられている業務に従事する労働者数」を記入します。労働安全衛生規則第13条第1項第3号では、健康に著しい影響を与える可能性がある特定業務が挙げられており、この業務に従事する従業員が常時500人以上いる事業場については、専属の産業医を選任するよう定められています。

"三 常時千人以上の労働者を使用する事業場又は次に掲げる業務に常時五百人以上の労働者を従事させる事業場にあっては、その事業場に専属の者を選任すること。

イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務

ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務

ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務

ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務

ホ 異常気圧下における業務

ヘ さく岩機、鋲びよう打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務

ト 重量物の取扱い等重激な業務

チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務

リ 坑内における業務

ヌ 深夜業を含む業務

ル 水銀、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務

ヲ 鉛、水銀、クロム、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務

ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務

カ その他厚生労働大臣が定める業務"

引用:e-Gov「労働安全衛生規則 第13条第1項第3号」

この規則に該当するかどうかを確認するため、上記の特定業務に従事する従業員数の記載が求められているものです。

産業医の医籍番号等の欄にある種別

産業医の医籍番号等を記載する項目には、「種別」を記載する欄があります。この種別とは産業医の種別コード番号を記入します。コード番号は、様式の裏面に「別表」として記載されていますので、その別表を参考に該当の番号を記入しましょう。

「別表」 種別コード
労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であつて厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者1
産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であつて厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であつて、その大学が行う実習を履修したもの2  
労働衛生コンサルタントで試験区分が保健衛生である者3
大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師の職にあり又はあつた者4
労働安全衛生規則第14条第2項第5号に規定する者5
平成8年10月1日以前に厚生労働大臣が定める研修の受講を開始し、これを修了した者6
上のいずれにも該当しないが、平成10年9月30日において産業医としての経験年数が3年以上である者7
引用:厚生労働省「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告様式」

医師免許証のコピーと産業医証明書類を添付する

産業医の選任を届け出る際には、「産業医選任報告」による報告書に2つの書類を添付して申請します。添付すべき書類は次の2つです。

  • 医師免許証のコピー
  • 産業医証明書類(産業医認定証や労働衛生コンサルタント登録証)

報告書の様式裏面には、「産業医選任報告の場合は、医師免許証の写し及び別表コード1から7までのいずれかに該当することを証明する書面(又は写し)を、添付すること。」と記載されていますので、こちらに従って添付書類を用意しましょう。

産業医選任届の提出期限は?

労働基準監督署

労働安全衛生規則第13条第1項では“産業医を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任すること。”とあり、選任後は「産業医選任報告」による選任届を所轄の労働基準監督署へ提出するよう定められています。産業医を選任しないと罰則規定もありますので、速やかに選任して届け出ましょう。

産業医を変更する場合も選任届が必要

産業医を変更するときも、新たに選任する際と同様の手順で「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告様式」を作成し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。期限も先述と同様で、"産業医を選任すべき事由が発生した日から14日以内"、つまり前任者の解任から14日以内に新任者を選任して、遅滞なく届けなくてはなりません。

産業医の選任について

産業医の選任報告書の記入方法について解説してきましたが、そもそもどのような場合に産業医の選任が必要なのでしょうか。産業医制度について改めて解説します。

産業医の選任義務

一つの事業場で常時50人以上の労働者を使用するに至った場合、事業者はその時点から14日以内に産業医を選任する必要があります(労働安全衛生法第13条、労働安全衛生法施行令5条)。

産業医は、労働者が健康的かつ快適な環境で職務に従事できるよう、専門医としての立場から指導や助言を行う存在です。事業者は、労働者を管理しなくてはならない「安全配慮義務」を負っており、その一環として産業医の選任も義務となっているのです。

産業医の選定については、労働安全衛生法第13条第2項で"産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。"と規定されています。単なる医師ではなく、労働衛生に関する専門家として高い水準が要求されています。

事業場の規模(従業員数)と選任する人数

産業医の人数は、事業場の従業員数によって異なります。従業員数ごとの必要な産業医の人数は次の通りです。

事業場の従業員数産業医の人数
50人未満産業医の選任義務なし
50~3,000人1人
3,001人以上2人

事業場の従業員数によって変わる産業医の種類

産業医には「嘱託産業医」と「専属産業医」の2種類があり、事業場の従業員数によって選任すべき産業医の種類が異なります。それぞれ、詳しく解説します。

・嘱託産業医

嘱託産業医とは、産業医以外の仕事も兼務している産業医です。一般の病院やクリニックなどに勤務する傍ら、1カ月に数回程度選任されている企業を訪れ、産業医の職務を遂行します。

嘱託産業医の選任が求められる事業場は、次の通りです。

  • 事業場の従業員数50~499人:嘱託産業医1人
  • 事業場の従業員数500~999人:嘱託産業医1人(ただし、安全衛生規則第13条第1項第3号に掲げられる有害業務に従事している労働者が常時500人以上になると専属産業医1人が必要)

・専属産業医

専属産業医とは、他の仕事を兼務せず、基本的にその事業場専属の産業医として勤務する医師のことです。次に該当する事業場は専属産業医の選任が必要です。

  • 事業場の従業員数1,000人以上:専属産業医1人
  • 安衛則第13条第1項第3号に掲げられる有害業務に従事している労働者が常時500人以上:専属産業医1人
  • 事業場の従業員数3000人以上:専属産業医2人

まとめ

産業医を選任した際に提出する「産業医選任報告」の記入方法について解説しました。事業場の従業員数が50人を超えた場合、14日以内に産業医の選任が必要であり、選任が済んだら速やかに選任報告書を所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。届け出は直接持参する他、郵送、電子申請が選べます。いずれの場合も、添付書類として医師免許証のコピーと産業医証明書が必要なため事前によく確認し、遺漏なきよう申請を進めましょう。

信頼できる産業医に出会えず、選任に時間がかかってしまう場合は産業医紹介サービスを利用してみてもいいでしょう。

株式会社メディカルトラスト 編集部

執筆者株式会社メディカルトラスト 編集部
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2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

最適な産業医をご紹介・サポートいたします

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