健康な体づくりに、運動が欠かせないことはよく知られていることです。運動をすると、体力や持久力がアップして体を動かしやすくなりますし、生活習慣病の予防にも役立ちます。また、運動で体の柔軟性が高まり、筋力・筋肉量が維持されれば、ケガなどのトラブルも少なくなります。
しかしながら、働く世代の運動に対する意欲は高いとはいえません。令和元年の「国民健康・栄養調査」によると、20~64歳で運動習慣のある人(1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している人)の割合は、男女とも65歳以上の半数程度になっています(下図)。
★1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している人の割合
しかも、運動習慣のない人の約半数が「改善することに関心がない」「関心はあるが改善するつもりはない」「運動習慣に問題はないため改善する必要はない」などとして、運動習慣の改善に消極的です(下図)。
★運動習慣の状況別、運動習慣改善の意思
さらに、同調査では運動習慣の定着の妨げとなる点についても調べており、回答者の多くが「仕事(家庭・育児等)が忙しくて時間がないこと」を理由として挙げています。
では、従業員の健康を守り、健康経営をかなえるために企業はどのような手段を講じればよいのでしょうか。そこで今回は、「運動」を通じて健康経営を実現する取り組みのヒントをいくつか紹介します。
目次
従業員の運動機会を増やす取り組み
企業における従業員の運動機会を増やす取り組みとしては、勤務時間中に運動機会を設ける方法と、勤務時間外に運動機会を提供する方法があります。
◇勤務時間中に運動機会を設ける方法の例
ラジオ体操など簡単な運動
ラジオ体操は、運動が苦手な人でも取り組みやすい運動の一つです。ただ、音楽を流すだけでラジオ体操をしたくなる従業員は、それほど多くないでしょう。そこで、従業員の積極的な参加を促すために、インセンティブを設けることをおすすめします。
インセンティブは一時報奨金でも構いませんが、1ヵ月毎日参加した場合には社員食堂のランチに使える割引券がもらえるなどの「ご褒美」でも良いでしょう。ポイント制にして、たまったポイントを健康グッズや運動グッズと交換できるという方法も良いかもしれません。
オフィスや会議室のデスクをハイスタンドタイプや昇降タイプに変える
オフィスや会議室のデスクを立ったまま利用できるタイプに変えるのも、運動不足解消に役立ちます。「設備の入れ替えや旧デスクの処分が大変」という場合は、机上で使えるリフトアップデスクも選択肢として考えてみてください。高さが自由に変えられる昇降式のデスクなら、立ち作業・座り作業どちらにも対応できるため、活用範囲が広がります。
一方、会議室のデスクを高さの代えられないハイスタンドタイプにしておけば、運動不足の解消とともに会議の時間短縮や効率化も図れるでしょう。
地域の清掃活動を行う
勤務時間中に、企業として地域の清掃活動などに参加するのも運動機会の増加につながります。従業員の運動不足が解消されるのはもちろんのこと、地域住民との交流も広がりますし、地域活動に積極的な企業として存在をアピールすることもできます。
★勤務時間中に運動機会を設ける場合のメリット・デメリット
◇勤務時間外に運動機会を提供する方法の例
運動会の実施
福利厚生の一環として運動会を実施すると、従業員に運動を促すきっかけとなります。従業員が少ない場合は、運動会のような大規模なものではなく、公園などでウォーキング大会などを開いてもよいでしょう。また、自治体が主催するマラソン大会などに、企業として参加するのもおすすめです。複数のチームで参加すると、参加者の偏りを防げます。
運動器具・健康グッズの配布
バランスボールや縄跳びなど、気軽に使える運動器具を配布すると、余暇での運動に利用できます。ただ、全従業員に同じものを配布するのは避けるべきです。個々の運動能力や好みに合わせて選べるように、複数のなかから選べるようにしておくと利用率が高まります。
運動に関する動画の配信
自宅で運動したくても運動の方法がわからない、という従業員のために、ヨガやストレッチなどの動画配信サービスを利用するもおすすめです。短時間の動画を複数用意しておくと、スキマ時間を利用して運動に取り組めます。ラジオ体操やヨガなど体への負担が少ないものだけではなく、ある程度運動している人向けの少しハードなトレーニングなども紹介すると、どの人も利用しやすくなるでしょう。
また、スポーツクラブなどと契約して、オンデマンド型のエクササイズレッスンなどを取り入れるのも選択肢となり得ます。
★勤務時間外に運動機会を提供する場合の工夫例
従業員の運動意欲を刺激するさまざまな取り組み
企業側が運動機会を提供しても、従業員の運動意欲が乏しければ思うような効果は上げられません。ここからは、従業員が自ら運動したくなるような取り組みをいくつか紹介します。
健診前のカウンセリングの実施
健康診断後にカウンセリングを実施しても、来年度の健診までモチベーションを維持して食習慣や運動習慣の改善するのは難しいものです。そこで、健康診断のスケジュールが決まったら、前年度の健診結果をもとにカウンセリングを行うことをおすすめします。このとき、数値の改善を求めるのではなく、昨年と同程度の結果を目標とすればハードルが低くて済むため、運動をはじめとした生活習慣の改善に取り組みやすくなります。
体力測定の実施
健康診断とは別に、定期的に体力測定を実施するのもおすすめです。体力の衰えが見られる部分については、どのような運動が効果的かを具体的に指導し、あわせてスキマ時間にできる運動やエクササイズ動画なども紹介すると、運動に取り組むきっかけとなります。
アプリの活用
スマートフォンアプリなどを活用して、歩数を競い合う「ウォーキングラリー」などを実施すると、ゲーム感覚で運動量を増やせます。従業員をランダムにグループ化して、チーム対抗で歩数を競い合うのもおすすめです。職場全体でアプリを活用すれば自然と健康意識が高まってきますし、健康に関する会話も増えるため、職場の活性化にもつながります。
★従業員の運動意欲を高める取り組みの工夫例・注意点など
従業員の運動不足解消は健康経営の重大な要素
健康経営の一環として従業員の運動不足を解消し、健康状態の良い従業員が増えれば、病欠やケガなどによる生産性の低下を防げます。また、運動することで体力の維持・向上がかなえば、従業員が高齢になっても作業効率や生産性の低下はわずかで済むでしょう。そして、従業員の働き方や健康に配慮する企業には、就職希望者が集まってくるものです。
つまり、健康経営のために従業員の運動不足解消に取り組むことは、在職中の従業員の健康を守るだけではなく、企業価値を上げることにもつながるのです。
運動を通じて従業員の健康づくりをサポートする方法はいろいろあります。自社に合う方法で従業員の健康増進を図り、健康経営をかなえましょう。