健康経営に取り組む企業にとって、従業員の食生活改善は重要な課題の一つです。しかしながら、従業員の食生活の現状を知らないまま経営側の独断で施策を推し進めると、思うような成果が得られないおそれがあります。
では、働く世代の食生活はどのようになっているのでしょうか。農林水産省が2019年に実施した調査によると、男女とも39歳以下の若い世代で朝食の欠食率が高く、特に男性では5人に1人が朝食を食べていないことが明らかになっています(下図)。
また同調査によると、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上ほぼ毎日食べている人は、全体で見ても半数をわずかに超える程度。39歳以下の若い世代では、1割以上の人が「そのような食事をほとんど摂っていない」と答えています(下図)。
このような現状を踏まえると、従業員の食生活を改善して健康経営につなげるためには、食堂を整備したり昼食代を補助したりするだけでは十分とはいえず、さらに踏み込んだ施策が必要であるといえます。では、具体的にどのようなことに取り組んだらよいのでしょうか。職場において従業員の食生活に関与する方法をパターンごとに見ていきましょう。
目次
職場で従業員の食生活に関与する方法
ここでは、「社員食堂がある場合」「社員食堂はないが食事スペースはある場合」「ほとんどの従業員が社外で食事をしている場合」の3つに分けて、企業が従業員の食生活に関与する方法を紹介します。
社員食堂がある場合
社員食堂がある場合は、栄養士と協力して栄養バランスの良い食事を提供することを目指しましょう。健康的なメニューを日替わりで数種類用意するのが理想ですが、余裕がない場合はカロリーや塩分量、摂取できる野菜の量などを表示するだけでも十分です。そして、健康的なメニューについては、価格をおさえることも重要です。
前項で紹介した調査では、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を食べる回数を増やすために必要なこととして、男女とも第3位に「食費に余裕があること」を挙げています(下図)。社員食堂でコストをおさえて食事を摂ることができれば、浮いた食費を朝夕の食事に回すことも可能になるでしょう。
なお、従業員の朝食欠食率が高い場合は、始業時間前に社員食堂で軽い食事がとれるようにしておくのもおすすめです。早朝からの営業が難しい場合は、パンやおにぎりなどが購入できる自動販売機を設置するのもよいでしょう。こちらも価格を低めに設定するのがポイントです。
社員食堂はないが食事スペースはある場合
社員食堂はないものの食事スペースがある場合は、弁当などの配食サービスを導入するのも方法の一つです。主食の量(大盛り・少なめなど)やおかずの種類(和食・洋食・アレルギー対応)などが選択できる配食サービスを選ぶと、どの従業員も利用しやすくなるでしょう。
利用できる配食サービスがない場合は、職場で主食のみを提供するのも良い方法です。カロリー表示ができるデジタル式のしゃもじを用意しておけば、食べ過ぎ予防にも役立ちます。
もちろん、パンやおにぎりなどが購入できる自動販売機を設置するのもおすすめです。自動販売機であれば利用時間に制限がないため、朝食だけではなく残業時の軽食などにも利用できます。最近は、商品の補充などもしてくれる設置型サービス(オフィスコンビニ)も増えてきているため、これらの利用も選択肢となるでしょう。
ほとんどの従業員が社外で食事をしている場合
広い食事スペースがなく、ほとんどの従業員が社外で食事をしている場合は、食生活に直接アプローチする機会が限られています。そのような場合は、食事量や運動量を記録できるアプリや栄養管理をサポートしてくれるアプリを導入して、従業員の食生活や生活習慣の改善につなげましょう。
もっとも、アプリを配布するだけでは従業員が利用しているかどうかがわかりません。そのため、既存のフリーアプリではなく、利用状況などが管理できる企業向けの専用サービスを導入するほうがよいでしょう。なかには、食べたものの写真を撮るだけで摂取したカロリーや栄養素を数値化してくれるものもあります。従業員の意見も取り入れ、使い勝手の良い継続しやすいアプリを選ぶようにしましょう。
「食」を通じて健康経営を推進するための工夫
ここからは、「食」を通じて健康経営を推進する方法として、特に「食べる」場面以外での工夫をいくつか紹介します。
従業員の「食」に対する意識を高める工夫
従業員の食生活を改善して健康経営を叶えるためには、従業員の「食」に対する意識を高めることも必要です。
例えば、栄養士などの専門家を招いてセミナーを開催する・健康経営に関するポスターを掲示する、といったことも方法の一つでしょう。その際に、社員食堂の健康メニューや配食サービスの弁当の試食をするなど、企業の取り組みと関連付けた内容にすると、従業員の「食」に対する意識が一層高まりやすくなります。ときには、従業員側からセミナーのテーマを提案してもらうのも良いかもしれません。
相談窓口の設置
「食」に関する専門的なアドバイスが得られる相談窓口の設置も有効です。社内に栄養士などの専門資格を有する従業員がいない場合は、地域の保健センターや栄養相談を専門とする外部機関との連携も視野に入れましょう。従業員の栄養管理などをサポートしてくれるアプリの導入を検討している場合は、チャットなどで健康相談ができるサービスが付帯しているものを選ぶとコストがおさえられます。
ゲーム要素のあるアプリを導入する
従業員から積極的に健康経営へ参加してもらうために、ゲーム要素のあるアプリを導入するのもおすすめです。
例えば、毎日の歩数やBMI(肥満や低体重の判定に用いられる値)などを用いて、職場内でチーム対抗のランキングが競える機能を備えている企業向けアプリもあります。また、個々で設定した健康目標を達成するとポイントやスタンプが貯まるなど、健康管理を続けやすい工夫が凝らされているアプリもあります。
「食」を通じて健康経営を推進するための工夫
「食」を通じた健康経営は従業員の健康だけではなく満足度にも貢献
従業員の「食」に対する意識を高め、労使一丸となって健康の維持・増進に取り組むことは、企業の活性化や業績の向上につながります。同時に、福利厚生の一環として社員食堂を設置したり食費の補助などを行ったりすれば、従業員の満足度もアップします。アプリを利用して貯めたポイントやスタンプの数に応じて、報奨金を出すという制度を作れば、従業員のモチベーションアップにもつながるでしょう。
「食べる」という行動は、ヒトにとって最も基本的な行動の一つです。そのため、他者から強いられたところで今までの習慣を簡単に変えることはできません。だからこそ、従業員が自ら参加したくなるような工夫がなければ、「食」を通じた健康経営を成功させることはできません。
一方で、企業負担が過大になる取り組みもまた、健康経営の成功にはつながりません。「食」を通じた健康経営の取り組みにはさまざまな方法があります。従業員の意見をもとに自社に取り入れやすい方法を選び、企業価値の向上を目指しましょう。