メンタルヘルス相談窓口を持つ企業は半数以下?窓口設置の注意点

働きやすい職場づくりを目指し、メンタルヘルスケアに注力している企業も少なくありません。しかし、厚生労働省の調査によると、職場でストレスを感じている労働者は過半数に達し、精神障害などによる労災認定件数も相当数に上っています。また、いじめ・嫌がらせに関する相談も増加傾向にあります(下図参照)。

職業生活での強いストレス等の状況
精神障害等による労災認定件数
いじめ・嫌がらせに関する相談状況の推移

一方で、労働者数50人以上の事業所では、約9割がメンタルヘルス対策に取り組んでいるものの、半数以上で社内相談窓口が設置されていないのが現状です。

社内相談窓口が設置できない背景には、マンパワー不足などの問題もあることでしょう。しかしながら、「そもそも設置手順がわからない」というケースも少なからずあるようです。そこでこの記事では、メンタルヘルスの社内相談窓口を設置するまでの大まかな流れと注意点を解説します。

厚生労働省のメンタルヘルス指針

厚生労働省では、メンタルヘルスケアの原則的な実施方法について「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を定めています。この指針によると、メンタルヘルスケアは「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の4つのケアが継続的かつ計画的に行われることが重要とされています。

そして「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」では、事業者は事業場内産業保健スタッフ(産業医や保健師、人事労務管理スタッフなど)が労働者からの相談を受けることができる制度・体制を整えることを要件としています。

事業所における4つのメンタルヘルスケア

厚労省のメンタルヘルス指針
引用)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>雇用・労働>労働基準>安全・衛生>職場における心の健康づくり>~労働者の心の健康の保持増進のための指針~職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~>全体版別」

社内相談窓口開設までの流れと注意点

事業所における4つのメンタルヘルスケアの中核をなすのが「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」です。そしてその実現に欠かせないのが「社内相談窓口」です。ここからは、社内相談窓口を設置するまでの流れと注意点を解説します。

社内相談窓口開設までの流れ

社内相談窓口設置までの大まかな流れは以下のとおりです。

社内相談窓口設置までの大まかな流れ
引用)厚生労働省 こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「メンタルヘルスに関する社内相談窓口設置のポイント>社内相談窓口設置までの流れとポイント」

各ステップで取り組むべき内容を見ていきましょう。

  1. 衛生委員会等にて検討、方針決定
    …委員会では、「相談対応をする人員体制」「相談の申し込み方法や対応方法」「周知する内容・方法」などを検討します。
  2. 必要に応じて、相談対応者への研修の実施
    …相談対応者は、産業医、保健師、衛生管理者、人事労務管理スタッフなどのほか、心の健康づくり専門スタッフなどが望ましいでしょう。もっとも、相談対応には専門知識や傾聴スキルも欠かせません。必要に応じて、相談対応者には研修を実施してください。
  3. 相談窓口の開設
  4. 従業員・家族への周知
    …準備が整ったら、相談窓口の開設を従業員やその家族へ周知します。リーフレットを作成する・社内報に掲載するなど、複数の手段を活用して利用を促しましょう。
  5. 相談対応
    …個人情報などに配慮しながら相談対応を行います。必要に応じて、医療機関への相談や受診を勧めてください。

相談窓口を開設する際の注意

次は、社内相談窓口の開設にあたり注意すべき点についてです。

  • 個人情報への配慮
    …メンタルヘルスに関する個人情報は、非常にデリケートなものです。取り扱いは慎重に行い、第三者(医療機関なども含む)に提供する場合は必ず本人の同意を得てください。第三者が勝手に記録を閲覧するのもNGです。
  • 相談者に不利益な取り扱いをしない
    …心の健康を理由に、相談者に対して不利益な取り扱いをすることは避けなければなりません。不利益な取り扱いの例としては、解雇・退職勧奨・配置転換や職位の変更・契約更新の拒否などがあります。
  • 相談対応者の選定は慎重に
    …相談対応者には専門知識とスキルが必要です。相談内容に対する守秘義務も課されます。また、メンタルヘルスに関する個人情報を取り扱うことから、人事権を持つ者が相談に対応するのは望ましくありません。相談対応者は、これらの条件をクリアする者の中から慎重に選定するようにしましょう。
  • 周知は繰り返し行う
    …社内相談窓口の利用を促すために、周知は繰り返し行いましょう。
     周知すべき内容としては、
      ・おもな相談内容
      ・相談対応者の紹介
      ・相談の申込方法
      ・相談対応の方法
      ・相談受付後の流れや解決プロセス
      ・個人情報の取り扱い
      ・相談による不利益がないこと  などです。

    家族からの相談で問題が解決する場合もあるので、広報誌など家族が目にしやすい媒体にも社内相談窓口の案内を掲載するようにしましょう。
  • 予約方法・相談方法を複数用意する
    …予約方法・相談方法は複数用意して、相談者が自由に選択できるようにしましょう。他人に知られることなく予約・相談できる方法(イントラネットやメール、チャットシステムなど)を用意することも大切です。もちろん、対面や電話による予約・相談も選択肢として残しておくほうがよいでしょう。
  • 事業場外資源の利用も視野に
    …社内相談窓口の利用をためらう従業員のために、事業場外資源(社外相談窓口)の利用も考慮しましょう。相談窓口サービスを提供している企業と契約する方法もありますが、各都道府県の産業保健総合支援センターや、厚生労働省が開設している「働く人の「こころの耳相談」」サイトを紹介するのも方法の一つです。
      ・産業保健総合支援センター
      ・働く人の「こころの耳相談」

相談窓口は安心して働ける職場環境に欠かせない存在

いうまでもなく、社内相談窓口を設けたところで、従業員の心の悩みがすべて解決するわけではありません。しかし、気兼ねなく相談できる「場所」の存在は、従業員の安心につながります。労働者の半数以上が職場にストレスを感じている現状からすると、社内相談窓口の意義は非常に重要です。大切な人材を失わないために、この機会にメンタルヘルス相談窓口の設置を考えてみてはどうでしょうか。

中西真理

執筆者中西真理
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公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

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