衛生管理者と産業医は、どちらも一定以上の常時雇用者がいる企業で選任が義務づけられています。衛生管理者と産業医はそれぞれ役割や業務内容が異なるので、両者の違いを確認しておきましょう。
本記事では、衛生管理者と産業医の違いについて分かりやすく解説します。
目次
衛生管理者と産業医の違いを解説
衛生管理者と産業医は、選任条件や業務内容、資格の取得方法などに違いがあります。ここでは衛生管理者と産業医の違いを3つのポイントに分けて解説します。
1. 業務内容の違い
衛生管理者と産業医では担当する業務内容に違いがあります。
< (1) 衛生管理者の業務内容>
衛生管理者の主な業務内容は、以下の事柄のうち、衛生に関わる具体的な事項の管理を行うことです。(※)
- 労働者の危険や健康リスクを防ぐための取り組みに関する事柄
- 労働者の安全や衛生を守るための教育に関わる事柄
- 健康診断を始めとする労働者の健康づくりに関する事柄
- 労働災害の原因の調査に関する事柄
- 労働災害の再発防止策に関する事柄
例えば、作業環境や作業条件、施設状況などの調査および改善、マスクや手袋といった労働衛生保護具およびAED等の救急用具の点検・整備、健康リスクを抱える労働者の早期発見および必要な措置の実施などが挙げられます。また、週に1回以上事業場等を巡って状況を視察したり、衛生委員会に参加したりするのも衛生管理者の仕事です。(※)
もし作業方法や設備などに衛生上の問題を見つけた場合は、健康リスクを防ぐために必要な対策を取る必要があります。
< (2) 産業医の業務内容>
産業医の主な業務内容には以下のようなものがあります。
- 健康診断の実施およびその結果を元にした必要な措置
- 長時間労働者への面接指導およびその結果を基にした必要な措置
- ストレスチェックの実施
- 高いストレスを持つ労働者への面接指導およびその結果を元にした必要な措置
- 適切な作業環境の維持・管理
- 作業管理
- 健康教育の実施
- 労働者からの健康相談への対応
- 衛生教育の実施
- 労働者に健康障害が生じた場合、その原因の調査および再発防止のための措置
- 衛生委員会への参加
上記以外にも、労働者の健康を管理するために必要な提案や支援、措置を行うのが産業医の仕事です。また、月に1回以上は担当する事業場を巡って状況を視察し、事業場の実態や労働者の状況などを正確に把握する必要があります。(※)
※参考:厚生労働省. 「中小企業事業者の為に産業医ができること」P4.
2. 事業場への選任の条件と必要な人数
衛生管理者と産業医は、事業場への選任の条件と必要な人数に違いがあります。
< (1) 衛生管理者の選任条件と必要な人数>
事業場において、常時業務に従事している労働者が50人以上の場合は、専属の衛生管理者を配置する必要があります。選任する衛生管理者の人数は事業場の規模に応じて以下のように定められています。(※)
常時使用する労働者の数 | 衛生管理者の人数 |
---|---|
50人~200人 | 1人以上 |
201人~500人 | 2人以上 |
501人~1,000人 | 3人以上 |
1,001人~2,000人 | 4人以上 |
2,001人~3,000人 | 5人以上 |
3,001人~ | 6人以上 |
なお、2人以上の衛生管理者のうち、労働衛生コンサルタントがいる場合は、当該コンサルタントのうち1人は事業場の専属でなくても問題ありません。
※参考:厚生労働省. 「衛生管理者について教えて下さい。」.
一方、以下のケースでは選任する衛生管理者のうち、最低でも1人は専属である必要があります。(※)
- 常時使用する労働者が1,000人を超える事業場
- 常時使用する労働者が500人を超えており、かつ法定の有害業務に従事する労働者が30人以上いる有害業務事業場
2に関しては、法定有害業務のうち一定の業務を行う場合、衛生工学衛生管理免許所持者を最低でも1人衛生管理者として選任しなければなりません。
※参考:厚生労働省. 「衛生管理者について教えて下さい。」.
< (2) 産業医の選任条件と必要な人数>
事業場において、常時働く労働者が50人以上いる場合は1人以上の産業医を配置することが法律で義務づけられています。常時使用する労働者が3,000人を超える場合は、2人以上の選任が必要です。また、常時働く労働者が1,000人以上いる事業場と、指定の有害業務に就く労働者が常時500人以上いる事業場は、専属の産業医を配置する必要があります。(※)
※参考:厚生労働省. 「産業医について~その役割を知ってもらうために~」P1.
ここでいう有害業務とは、多量の高熱・低温物体を取り扱う業務や、著しい暑熱あるいは寒冷な場所での業務、有害な放射線(ラジウム放射線など)にさらされる業務、重量物を取り扱う業務などが挙げられます。
3. 衛生管理者と産業医の要件
衛生管理者と産業医の要件を知ることは重要です。衛生管理者や産業医は誰でもなれるわけではなく、特別な資格や経験が必要です。ここでは衛生管理者と産業医、それぞれの要件について解説します。
< (1) 衛生管理者になる要件>
衛生管理者になるためには、衛生管理者試験に合格しなければなりません。衛生管理者試験の受験資格は複数ありますが、主な資格には以下のようなものがあります。
- 大学または高等専門学校を卒業し、労働衛生の実務に1年以上ついた経験がある者
- 高等学校または中学校を卒業し、労働衛生の実務に3年以上ついた経験がある者
- 労働衛生の実務に10年以上就いた経験がある者
学歴によって必要な実務年数に差はありますが、10年以上の実務経験があれば誰でも受験資格を得ることが可能です。なお、衛生管理者試験には第一種と第二種の2つがあります。第一種衛生管理者は、業種にかかわらず全ての事業場で衛生管理者に選任されることが可能です。
一方、第二衛生管理者は有害業務とあまり関連しない業種、例えば情報通信業や金融・保険業、卸売業、小売業などの業種のみで衛生管理者に選任されることができます。業種によっては、第一種衛生管理者でないと自社の衛生管理者として選任できない可能性があるので、衛生管理者を選ぶ際は十分注意しましょう。
第一種衛生管理者でないと選任できない主な業種には以下のようなものがあります。
- 農業
- 林業
- 畜産業
- 水産業
- 建設業
- 製造業
- 電気業
- 光熱(電気、ガス、水道)関連業
- 運送業
- 医療業
- 清掃業、
- 機械修理業
- 自動車整備業
なお、第一種および第二種衛生管理者の有資格者の他にも、以下の免許や資格を有している者は衛生管理者として選任できます。
- 衛生工学衛生管理者免許の取得者
- 医師
- 歯科医師
- 労働衛生コンサルタント
上記の者は業種にかかわらず衛生管理者として選任することが可能です。
< (2) 産業医になる要件>
産業医になるためには、医師の資格を持ち、かつ以下いずれかの要件を満たしている必要があります。
- 日本医師会や産業医科大学が実施する研修の修了者
- 産業医を養成するためのカリキュラムを設置する産業医科大学等で所定の課程を修了した卒業者であり、かつその大学で行われている実習の履修者
- 労働衛生コンサルタント試験の試験区分のうち、保健衛生を受験した合格者
- 大学で労働衛生科目を担当している教授、准教授、常勤講師(経験者含む)
注意したいのは、医師の国家資格を持っているだけでは産業医になれないところです。少々古い資料ですが、厚生労働省が公開している資料によると、2016年(平成28年)において産業医の養成研修・講習を修了した医師の数は約9万人です。
また、2018年に日本医師会が「日本医師会認定産業医」の認定者数は2018年1月の段階で10万224名を認定していると発表しています。
※参考:日医ニュース2019年2月20日「『日医認定産業医』が10万人を突破」
ただ、実際に産業医として活動している医師の実働数は推計約3万人とされています。地域性の問題もあるため、自社のニーズに合った産業医を見つけ、選任するのは容易なことではありません。
産業医を見つける方法と留意点
特別な資格と経験が必要な産業医を見つける方法は、大きく分けて4つあります。
1. 医師会に相談する
1つ目は、医師会に相談する方法です。各都道府県や郡市区にある医師会に問い合わせれば、会員の中から産業医を見つけてもらえるかもしれません。産業医の相談・問い合わせへの対応は医師会によって異なります。
積極的に紹介・推薦してくれるところもあれば、公式サイトで会員の医師への連絡先を公開し、直接問い合わせるよう促しているところもあります。開業医師の多くは地元の医師会に属しているため、その地域の産業医を網羅できるのが大きな特徴です。
ただ、医師会によっては産業医の紹介や推薦に対応していなかったり、公式サイトに会員の情報を掲載していなかったりするところもあります。
2. 周辺の医療機関に相談する
2つ目は、事業場周辺の医療機関に相談する方法です。先述であったように、産業医は月に1回以上事業場を視察する必要があるため、近場の医療機関に所属する産業医に依頼すれば、定期巡視もスムーズになります。
ただ、前述のとおり、医師の全てが産業医の資格を有しているわけではないため、近隣の医療機関一つひとつに問い合わせるのは手間と時間がかかります。
3. 定期健診の依頼先に相談する
3つ目は、会社で実施している定期健診の依頼先に相談する方法です。定期健診をいつも同じところに依頼しているのであれば、事業場の状況などもある程度把握できているので、意思疎通が図りやすいかもしれません。ただ、定期健診を依頼している医師が産業医の資格を有していない場合は、他の方法で探す必要があります。
4. 産業医の紹介サービスを利用する
事業場の要望やニーズに合わせて産業医を紹介するサービスを利用する方法です。サービス会社が窓口となり、事業場の担当者から要望やニーズを聞いた上で、適切な産業医を紹介してくれます。
産業医と一言にいっても、経験や得意分野などは医師によって異なるため、自社のニーズに適した産業医とのマッチングをサポートしてくれるところが大きな利点です。
衛生管理者と産業医の違いをよく理解して選任しよう
常時使用者が一定数を超えた事業場では、衛生管理者と産業医を選任する必要があります。衛生管理者と産業医はそれぞれ選任の条件や主な業務内容、必要な要件などに違いがあるので、両者の違いをよく理解し、適任者を選ぶことが大切です。
特に産業医は、医師免許を持つ者の中でも特定の資格や経験を有している必要があるため、自社にマッチした人材を選ぶ際は慎重に検討しましょう。
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