新型コロナウイルス感染症の流行により、従来よりもテレワークを採用する企業が増えました。テレワークには、通勤時間の短縮やライフワークバランスの向上といったメリットがある一方で、従業員の様子が見えづらくなり対応に苦慮している人事や上司の方も多いと思われます。
テレワークへ移行した企業は、メンタルヘルス不調者の休職対応を含めて、どのように職場復帰支援を行うべきなのでしょうか。そこで今回は、テレワーク下での復職支援のポイントを医療的な見地から解説します。ぜひ参考にしてください。
目次
テレワークのメリットとデメリット、コロナ禍における労働者のメンタルヘルスの実情は?
新型コロナウイルス感染症の流行により、以前よりもテレワークが一般的となりました。民間企業における労働者を対象としたパネル調査では、在宅勤務・テレワークを週1回以上行っている労働者の割合は、約6割となっています(令和3年6月時点)。
テレワークにより、ワークライフバランスの向上や働き方の多様化が得られ、メンタルヘルスにとっては良い影響を与えたというメリットが報告されています。
しかしながら、テレワークが適切に導入・運用されない場合は、「長時間労働になりやすい」「コミュニケーションが取りづらい」などの、テレワークならではの課題が生じやすいことも報告されています。
テレワークにもメリット・デメリットがあることがわかりますが、ではそもそも、働く人のメンタルヘルスの実情はどうなっているのでしょうか。厚生労働省の調査によると、仕事をする上で強い不安やストレスを感じている労働者は、就労全体の5割に達しています。
また、メンタルヘルス不調により連続1カ月以上の休業、あるいは退職に至った労働者がいる事業場も1割近くを占めています。
心の健康問題により休業する労働者への対応は、いまだ多くの企業で課題となっていることがわかります。コロナ禍という難しい局面ではありますが、メンタルヘルスケア対策、そして休業から復職する際の支援の重要性はより高まっていると言えるでしょう。
職場復帰支援はどのような流れで行うの?
次に、職場への復職支援はどのように行っていくのかを見ていきましょう。復職支援制度は、以下に示す5ステップで段階的に進めていきます。テレワークとの併用で、課題があることが見えてきます。
通勤訓練や、試し出勤制度を採用している企業もありますが、テレワーク中は、休職者の状態を確認できる手段が限られてしまいます。
そのため、<第1ステップ>で示されている「休業中のケア」や、<第4ステップ>で示されている「職場復帰の決定」のための評価が難しくなります。結果として、回復の程度や、復職に伴うリスクの評価が不十分となり、職場復帰支援をスムーズに進めることが難しくなる場合もあるのです。このような難しさもあり、テレワーク下では従来よりも慎重な対応が求められることになるでしょう。
メンタル不調者のテレワークでの復職可否判断は?復職後のフォローは?
ここで、実際にメンタル不調者がテレワークで復職できるかどうか、判断する場合を考えてみましょう。こちらは、筆者の知り合いの産業医が経験したケースを元にした例です。ケースの概要としては、以下のようなものです。
- 30歳男性、独身一人暮らし。
- メンタル不調で過去に2回休業した経験あり。原因は職場での人間関係。
- もともと発達障害的な面があり、何度注意されても同じミスを繰り返した。
- 優しい面倒見の良い上司ならなんとか仕事をすることができたが、今の上司に代わった途端に不調になり、新型コロナウイルス感染症の流行前から休んでいる。
- そんな中、そろそろ欠勤から休職に入ろうとするときに、主治医から「復職可。ただし、テレワークのみとする」という診断書を受け取り、復職を希望する。
- 産業医との面談では、生活リズムは不安定で、睡眠障害もある。朝9時過ぎに起床し、1日中テレビをみたり、インターネットをして過ごす。
- 本人の主張としては、「嫌いな上司の顔を見ないでいれば落ち着いて仕事ができるから、自分にはテレワークが向いている」というもの。
このような場合、テレワークでの復職は可能でしょうか。ポイントとしては、「復職可能かどうかは、雇用契約上果たすべき業務を問題なく行えるようになったかどうかにより判断される」という点にあります。職場復帰のためには、原則としてメンタル不調になる前の仕事ができるようになることが条件となります。テレワークをコロナ対策としての一時的な処置として会社が行っている場合では、上記のような条件では復職を認める必要は無いと考えられます。
しかし、テレワークが定常化するような場合は、また話が変わってきます。そのような場合は、復職制度におけるテレワークの位置付けを明確にし、社内規定にルール化して周知することが必要となるでしょう。
テレワークでの復職支援で気を付けるポイントは?
テレワークでは、情報交換を密にしていくことが重要となります。企業保健師などの産業保健スタッフ、あるいは小規模な会社の場合にそうしたスタッフがいない場合は、人事部の職員や上司、そして産業医が協力し、取り組んでいくことになります。
やむを得ずテレワークでの復帰とせざるを得ない場合には、各担当者から休職者へ相応のフォローアップが必要です。オン・オフの区切りをつけにくい、生活リズムが乱れやすい、コミュニケーション不足から不安や孤独感を抱きやすいなど、テレワークならではの問題があるためです。各担当者が、それぞれの役割を認識し、復職支援に当たる必要があります。
(1)上司
上司は、休職者本人の孤立感を補うことに注意しましょう。オンラインでも意識的にコミュニケーションをとる、オンラインミーティングを定期的に行う、部下の声を1日1回は聞く、などの方法が考えられます。また、テレワークでは長時間労働になりがち、という報告もあるため、勤怠管理を適切に行っていくことも重要となるでしょう。
(2)産業保健スタッフ
小規模な企業などで、保健師などの産業保健スタッフが不在の場合は人事部の担当者などがこちらの担当をすることもあるかもしれません。産業保健スタッフの大切な仕事の一つに、メンタル不調の人が抱えている悩みを傾聴する役割があります。なぜメンタル不調になってしまったのか、その原因をじっくりと聞くことが大切です
そして、産業保健スタッフは本人のこれまでの特性を把握し、自己管理できる人かどうかをより丁寧にフォローしていくことが必要となります。もともとの健康診断の結果が悪い方には特に注意が必要です。食事や運動といった生活習慣の実態を聞き出し、生活リズムを崩さず、運動をするように声がけをしていきましょう。
(3)産業医
産業医は、セルフケアやセルフマネジメントの具体的な方法を助言しつつ、適切なフォローを行います。産業医にはオンライン面接という方法もあるのですが、原則は直接対面になることには注意が必要です。
休職から復職へ至る各ステップにおいて、どの担当者が何をするのか。各スタッフの役割をはっきりとさせておくことで、テレワーク下でも職場復帰支援をスムーズに進められることが期待できます。
総括
今後、ますますテレワークは増えると予想されるため、復職制度における位置づけを明確にし、社内規定にルール化し周知することが、管理者には求められるでしょう。特に、テレワークの形で復職すると、復職後に上司や産業保健スタッフの経過観察が十分にできないので、復職要件を厳しくすることも合理的ではないでしょうか。
テレワークでの復職とせざるを得ない場合、休職者へのフォローアップがより必要となってきます。例えば、テレワークのメリットを活かし、面談の頻度を上げて休職者の状況の把握に役立てることも有効だと考えられます。ポイントを抑え、各スタッフが協力し、円滑な職場復帰支援をしていきましょう。