就職氷河期世代のメンタルヘルス — 今度こそ自分らしく生きるために

就職氷河期世代は、バブル崩壊による景気悪化のあおりを受けて、ほかの世代とはまた異なった苦労を重ねてきた世代です。2020年より国の政策として就職氷河期世代支援プログラムがスタートしていますが、この世代が社会に出てから、すでに数十年が経過しています。その間、メンタルヘルス不調に直面した経験を持つ方も、少なくないのではないでしょうか。本記事では、就職氷河期の当事者である筆者の視点から、「私たちが今度こそ自分らしく生きるためのヒント」を考えていきたいと思います。

就職氷河期世代とは?

最初に、就職氷河期世代とは何か、あらためて確認しておきたいと思います。

さまざまな課題に直面してきた世代

厚生労働省によれば、以下のとおり解釈されています。


1990年代〜2000年代の雇用環境が厳しい時期に就職活動を行った世代を就職氷河期世代と呼び、希望する就職ができず

  • 不本意ながら不安定な仕事に就いている
  • 無業の状態にある
  • 社会参加に向けた支援を必要とする

など、様々な課題に直面している方が多数います。

具体的な時期は「おおむね1993年〜2004年に学校卒業期を迎えた世代」です。 
2022年4月時点では、大卒なら40歳〜51歳、高卒なら36歳〜47歳が該当します。

有効求人倍率から見る就職氷河期

どのように“雇用環境が厳しかった”のか、データを見てみましょう。以下は有効求人倍率のグラフです。

有効求人倍率
出所)労働政策研究・研修機構(JILPT)「図14 有効求人倍率、新規求人倍率」を元に筆者作成

有効求人倍率は厚生労働省が毎月公表している指標で、求職者数に対して求人数がどれだけあるかを示しています。「有効求人倍率が1倍を上回るか」は、雇用環境を判断する目安です。1993年〜2004年のグラフを見ると有効求人倍率が1倍を下回り、雇用環境が悪かったことがわかります。1999年には0.48倍と深刻な状況でした。

就職氷河期世代が心に抱える闇

有効求人倍率が0.5倍を切るということは、単純計算で「就職できる人は、半分いない」状況です。この過酷な競争に投げ込まれたのが、就職氷河期世代です。筆者も該当しますが、この経験は、心に影を落としているように思います。具体的なポイントを、考察していきましょう。

入社前に刷り込まれた恐怖と不安

大学1年生のときの記憶として色濃く残っているのは、就職活動をスタートした3年生の先輩たちが、ボロボロになっていく姿でした。

就職氷河期世代にとって会社とは、「なんとかお願いして、働かせていただく場所」です。「自分のやりたいことをやれる」という感覚はありません。厳しい就職活動で何度も何度も否定され、プライドは砕け散ります。「私なんか」という思いが募っていくばかりです。

こんな私を採用してくださった会社に、感謝の気持ちで貢献しなければ。失敗すれば、私なんかすぐクビになる——。複数の会社から「ぜひ我が社へ」と内定をもらい囲い込まれた世代とは、根本のマインドセットが異なります。これは就職氷河期世代のメンタルヘルスにおいて、重要なカギを握ると考えます。

  • ポイント110代〜20代の多感な時期に、心の深いところに刷り込まれた不安と恐怖

モーレツな上司と激務…なのに報われない

就職氷河期前夜のバブル時代、爆発的にヒットしたのは「24時間戦えますか」の栄養ドリンク、リゲインのCMでした。

就職氷河期世代がやっとの思いで社会へ滑り込んだ先に待っていたのは、「24時間戦えますか」を地でいく、モーレツな上司と激務です。夜中の22時から会議が始まり、「自分が若い頃は午前様なんて当たり前だった」「休みなしで50連勤した」といったエピソードを、上司から聞かされます。「自分は上司たちの時代に比べたら、まだまだ甘い」「もっと、もっとがんばらなければ」自分を追い込み、弱音を吐くのは許されない、という気持ちになっていきます。

  • ポイント2激務でも弱音を吐けない、助けを求められない

ただ、バブル時代と違うのは、世の中が深刻な不景気へ突入していったことです。多くの企業が業績不振にあえいでいました。個人レベルでの成績も上がりにくくなり、努力しても報われることのない時期が続きます。それも、すべて自分のせいだと思い込む癖がついています。入社前のマインドセットの影響です。

  • ポイント3がんばっても成果は上がらない、収入は上がらない、それも全部自分のせい

あるいは、パワハラを繰り広げる上司のもとで、潰されないよう耐え忍ぶしかなかった方もいるでしょう。若さゆえに、知識不足と恐れでどうすることもできなかった自分を振り返り、いまなお苦しんでいるかもしれません。

  • ポイント4人間としての尊厳を傷つけられたにもかかわらず、対処ができなかった

自分らしさを貫く部下

理不尽なことにも我慢し、努力し続けてきた就職氷河期世代が部下を持つようになった頃、新たな問題に直面します。雇用環境や就活世代の価値観が、自分の頃とはまったく異なるものへ変化したのです。

有効求人倍率は、2008年のリーマン・ショックで一時落ちたものの回復し、2014年以降は1倍を超え、売り手市場になりました(前述グラフより)。
同じく2014年、YouTubeの「好きなことで、生きていく」のCMが一世を風靡。「自分らしさ」を重視する価値観が、社会のなかで強まっていきます。

「どこかの会社に入れてもらい、生き延びることに必死だった世代」の下に、「好きなことで生きていく世代」が、部下として入社してきたのです。顔色をうかがうこともなく、ひょうひょうと振る舞う。そんな裏表のない態度が上層部やクライアントに受けて、高評価を得る。自分が上司から怒られたこと、守ってきたこと、我慢してきたことを、すべてスルーしても、うまくやっています。不満と嫉妬と尊敬と……、部下に対する感情は複雑です。

  • ポイント5自分が我慢してきたことを部下は我慢していない、それなのに評価されている

就職氷河期世代も自分らしく生きていい

ここまでのポイントをまとめてみます。

  1. 10代〜20代の多感な時期に、心の深いところに刷り込まれた不安と恐怖
  2. 激務でも弱音を吐けない、助けを求められない
  3. がんばっても成果は上がらない、収入は上がらない、それも全部自分のせい
  4. 人間としての尊厳を傷つけられたにもかかわらず、対処ができなかった
  5. 自分が我慢してきたことを部下は我慢していない、それなのに評価されている

以上を踏まえつつ、就職氷河期世代がメンタルヘルスを守る考え方を3つ、ご提案します。

「ぜんぶ構造のせいだ」

1つめは「ぜんぶ構造のせいだ」です。

「環境や社会のせいにする前に、まず自分の努力不足を疑え」この言葉は、努力が足りない人には金言ですが、背負い込んでがんばりすぎている人には有毒です。ここはあえて、私たちが生きてきた時代の“構造”のせいにして、肩の荷を下ろしてみませんか。

そういわれ「就職氷河期世代を言い訳にはしたくない」と思うのも、この世代らしさではありますが、社会のニーズが変わっているのも事実です。「こうあるべき」の“べき思考”より、ちゃっかり構造のせいにするくらいの軽やかさが、むしろ受け入れられる時代です。

「部下をロールモデルに」

2つめは「部下をロールモデルに」です。

「具体的に、どんなふうに軽やかになればいいかわからない」というとき、模範となる人物がすぐそばにいます。新しい価値観を持っている、若手の部下や後輩たちです。私たちが我慢してきたことを自由にやっている彼ら彼女らに、イライラするのでも嫉妬するのでもなく、お手本にします。“先入観なしに真似してみる”と、新たな発見があるものです。

「敵でないことを忘れるな」

3つめは「敵でないことを忘れるな」です。私たちはいつも、“品定めされ、批評され、失敗すれば切られる”という居心地の悪さのなか、戦ってきました。上司も同僚も部下も……「世の中には敵しかいない」という感覚が、どこかで抜けません。

しかし、本当は敵なんてどこにもいないことを、あらためて思い出します。頼りたいときには頼っていいし、弱さを見せてもいい。“そんなことでは切られない”という体験を重ねながら、失ってきたものを少しずつ拾い集めていきましょう。

さいごに

本記事では「就職氷河期世代のメンタルヘルス」をテーマにお届けしました。さいごに付けくわえるなら、就職氷河期世代だけが特別につらい、と述べたいわけではありません。各世代、それぞれの苦悩があるはずです。

そもそも、世代ごとに特性を分けられるほど単純な話でもないでしょう。ただ、あえて俯瞰的な視点から「社会構造の中の自分」をフレーム化してみることで、“背負い込みすぎ”に気づき、心がラクになることもあるのではと思います。筆者は、そうでした。この世代のさまよう迷いが、少しずつでも癒されていくよう、願っています。

 

三島 つむぎ

執筆者三島 つむぎ
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ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

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