職場でパワハラの被害に遭い、うつ病を発症してしまう方は、全国各地に多数いらっしゃいます。職場におけるパワハラが原因で、従業員がうつ病になってしまったら、それは会社の責任です。大切な従業員を守るためにも、徹底した対策を講じてパワハラを未然に防ぎましょう。今回は、パワハラに関する法律上の規制内容や、会社が講ずべきパワハラ対策などについてまとめました。
目次
パワハラは職場におけるうつ病の主要因
厚生労働省のデータによると、令和2年度(2020年度)においては、パワーハラスメント(パワハラ)により精神障害を発症したケースについて、99件の労災保険給付の支給決定が行われました。99件の支給決定のうち、自殺に至ったケースが10件含まれています。
精神障害の原因となった出来事の類型の中では、パワハラが最多の支給決定件数を記録しています。このデータからは、仕事が原因でうつ病等の精神障害を発症する方の中には、パワハラの被害者が非常に多いことが窺えます。
会社がパワハラを放置することは違法|パワハラ防止法について
2020年6月1日より新たに施行された、労働施策総合推進法※30条の2から30条の8の規定は「パワハラ防止法」と呼ばれています。
※正式名称:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
事業者にはパワハラ防止措置を講じる義務がある
パワハラ防止法では、事業者に対して、パワハラによって労働者の就業環境が害されることのないようにするため、雇用管理上必要な措置を講じることを義務付けています(労働施策総合推進法30条の2第1項)。
パワハラ対策を怠った会社は、刑事罰や過料が科されることはありませんが、厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象となります(同法33条1項)。勧告に従わなかった場合には、その旨を公表される可能性があるので要注意です(同条2項)。
パワハラ防止法におけるパワハラの定義
パワハラ防止法の規定上、パワハラとは、以下の要件をすべて満たす言動であると理解されます。
- 職場において行われること・・・「職場」の例:会社の事業所(オフィス、工場、作業現場など)、出張先
- 優越的な関係を背景とすること・・・<「優越的な関係」の例>上司と部下、集団と個人、知識や経験に勝る労働者と劣る労働者
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること・・・業務との関連性・程度・頻度などを考慮して判断されます。
- 労働者の就業環境が害されること・・・平均的な労働者の感じ方を基準に、看過できない程度の支障が生じるような言動であることが必要です。
どんな行為がパワハラに当たる?6つのパターン
パワハラ行為の類型として、厚生労働省が定める指針では、以下の6つのパターンが示されています。
パターン1|身体的な攻撃
「身体的な攻撃」とは、労働者に物理的な暴行を加える行為です。
- 殴る
- 蹴る
- 物を投げる
パターン2|精神的な攻撃
「精神的な攻撃」とは、言動によって労働者に精神的なダメージを与える行為です。
- 脅迫
- 名誉毀損(同僚にも伝わるようなやり方での叱責など)
- 侮辱(人格を否定するような言動など)
パターン3|人間関係からの切り離し
「人間関係からの切り離し」とは、労働者を職場内の交流から疎外する行為です。
- 無視
- 仲間外れ
- 正当な理由のない隔離(別室隔離、自宅研修など)
パターン4|過大な要求
「過大な要求」とは、労働者に無理難題を押し付けたり、不要な業務を強制したりする行為です。
- 過酷な環境下で長時間、長期間の労働を命ずること
- 新入社員に対していきなり高すぎる目標を課し、達成できなかったことを厳しく責めること
- 業務とは関係ない私的な雑用を強制すること(お茶くみなど)
パターン5|過少な要求
「過小な要求」とは、嫌がらせなどの目的で、労働者に能力に見合った仕事を与えない行為です。
- 管理職に対して、誰でもできる簡単な業務を命ずること
- 1日中全く仕事を与えないこと
パターン6|個の侵害
「個の侵害」とは、労働者のプライベートを必要以上に詮索する行為です。
- 職場外での継続的な監視
- 私物などの写真撮影
- デリカシーのない質問を繰り返すこと
- 労働者が承諾していないのに、プライベートに関する情報を暴露すること
会社が講ずべきパワハラ対策の具体例
社内でのパワハラ発生を防止するためには、以下の対策を講じることが効果的と考えられます。
就業規則等の改定
会社として、パワハラを許さない姿勢・ルールを明確に打ち出すことは、従業員によるパワハラへの抑止力になると考えられます。パワハラ撲滅の方針や、行為者への懲戒規程などを盛り込む形で、就業規則の改定を行うとよいでしょう。
従業員研修による社内の意識向上
社内でのパワハラは、経営陣の目が届かないところで発生しがちです。よって、パワハラ撲滅を徹底するためには、個々の従業員にパワハラ防止の姿勢を浸透させる必要があります。たとえば、コンプライアンス研修の一環として、パワハラに関する研修を盛り込み、従業員の参加を義務付けるなどの対応が考えられるでしょう。
パワハラに関する相談・対応体制の整備
実際に社内でパワハラが発生した場合には、その事態を適切に把握したうえで、被害を最小限に抑えるように対応しなければなりません。パワハラ被害を初期段階で把握するには、パワハラに関する相談窓口を設置し、従業員に対して周知することが考えられます。
そのうえで、パワハラに関する相談が寄せられたら、相談窓口の担当者が経営陣・人事部門・各部署と連携を行い、パワハラの排除・被害者のケア・行為者の処分などについて組織的に対応することが大切です。実際にパワハラが発生した場合に迅速な対応を行うため、対応フローなどをまとめたマニュアルを整備しておくとよいでしょう。
再発防止対策の検討
社内で経験したパワハラ事案は、今後のパワハラ対策に活かしていく必要があります。パワハラの発生を許してしまった社内の土壌や、相談・対応の段階で躓いてしまったポイントなどを見直して、パワハラが発生しない職場の環境づくりに努めましょう。経営陣の間で検討を行うだけでなく、第三者委員会などを設置して諮問を行うことも効果的です。
まとめ
社内で発生するパワハラに対して、会社が何の対策も講じずに漫然と放置することは、パワハラ防止法違反に当たります。
また、パワハラが横行する会社には、優秀な人材が定着せず、将来的な成長も見込めません。従業員を大切にして、会社の業績を上向かせるためにも、社内でのパワハラ防止は重要な課題と言えます。必要に応じて専門家のアドバイスを求めながら、パワハラのリスクを最小化できる社内体制の整備を行いましょう。