「やる気のない部下に困っている──」
“自分が若手だった時代”と比較すると、部下のやる気がないと感じるマネジャー陣も多いのではないでしょうか。
しかしながら、そう感じる裏側には、それぞれの個性や価値観の相違、ときには心身の健康問題の影響があります。
頭ごなしに「やる気がない」と決めつけては、うまくいきません。
さらに、耳の痛いことですが、「上司のせいで、やる気が出ない」というケースもあります。
この記事では、「部下のやる気がない」と感じたときに注意したいことを、お届けします。
目次
「やる気」と区別して捉えるべき概念
部下の「やる気」を理解し、適切にマネジメントするためには、やる気と明確に区別したい概念があります。
真面目さ
まず、《やる気》と《真面目さ》は、しばしば混同されがちですが、混同があつれきの原因となることがあります。
誰かに対して「やる気がないな!」と怒りを覚えるとき、そこには、誠実さや責任感が不足しているという批判が、見え隠れします。
しかしながら、部下のマネジメントという観点では、「やる気が出ない自分の状態」を、真面目な部下ほど真剣に悩んでいるケースもあるのです。
別のいい方をするなら、「やる気がない」と「真面目に取り組んでいる」は共存し得ます。
部下のやる気がないと感じたからといって、ほかの要素まで勝手に付随させて憤慨したり、叱責したりしないように、注意したいところです。
仕事と会社と上司
次は、「何に対してのやる気喪失なのか」という観点からのお話です。
《仕事》《会社》《上司》これらに対してのやる気は、分けて考えなければなりません。
「うちの部下は、仕事に対して、やる気がない」と愚痴っているかもしれませんが、部下がやる気をなくしているのは、あなたのマネジメントに対してかもしれないのです。
あるいは、社員が会社をやめるとき、「やめたいのは会社ではなく、○○さんの部下」というケースは、少なくありません。会社からではなく、上司から去っているのです。
部下のやる気がないと感じたら行うべき4つのこと
では、部下のやる気がないと感じたら、何をすべきでしょうか。ここでは、4つのことをご紹介します。
専門家のサポートが必要な状況ではないかを確認する
1つめは「専門家のサポートが必要な状況ではないかを確認する」です。
“やる気がない” が、症状として表れる疾患は多くあります。
最初のアプローチは、部下を責めるのではなく、「部下を心配する」が正解です。
心身の健康問題が生じていないか、確認します。
たとえば、以下はうつ病の特徴です。
○うつ病の特徴
次のうち5つ以上(1か2を含む)が2週間以上続いていたら、専門家に相談することをおすすめします。
- 悲しく憂うつな気分が一日中続く
- これまで好きだったことに興味がわかない、何をしても楽しくない
- 食欲が減る、あるいは増す
- 眠れない、あるいは寝すぎる
- イライラする、怒りっぽくなる
- 疲れやすく、何もやる気になれない
- 自分に価値がないように思える
- 集中力がなくなる、物事が決断できない
- 死にたい、消えてしまいたい、いなければよかったと思う
何らかの健康問題が生じている場合、やる気を出すように指導することは、事態をひどく悪化させるリスクがあります。
部下の様子をよく観察し、必要に応じて、職場の産業保健スタッフ(産業医・保健師など)へ相談することが、望ましい対応です。
以下は厚生労働省のWebサイトからの引用です。
(前略)精神科や心療内科は、他の診療科と比べて受診することに抵抗感を強く持つ方もいます。本人がだるさや食欲の低下など身体的な病気でも生じるような症状を訴えているようでしたら、まずは内科などに受診してもらってもよいでしょう。産業医がいる職場であれば、「上司として必要な配慮があるかどうか専門家の意見を聞きたいので、産業医と面談してほしい」という形で、産業医面談につなげることも有効かもしれません。
やる気がないと批判する自分の感覚を疑う
2つめは「やる気がないと批判する自分の感覚を疑う」です。
“やる気” とは、定性的な概念であり、人によって捉え方が異なります。
「自分が若手のときは、もっとやっていた」
「あんな態度をしていたら、かつての部長だったら、ただでは済まされない」
など、過去や他者と比較して、なじりたい気持ちが生じていたら、要注意です。
自分の誤解や偏見に基づいて、「部下のやる気がない」と断じていないか、落ち着いて考えてみます。
たとえば、世代による価値観やコミュニケーションスタイルの違いによって、やる気の表現が異なるだけかもしれません。
部下の行動や成果を公正に評価し、必要に応じて、“自分が抱いている期待” のほうを再考することも大切です。
自分がやる気をなくさせている可能性を考える
3つめは「自分がやる気をなくさせている可能性を考える」です。
上司であるマネジャー自身の行動やコミュニケーションスタイルが、部下のやる気を削いでいる可能性を、冷静に考慮することも重要です。
たとえば、過度のマイクロマネジメント(過干渉)や否定的なフィードバックが、部下の自主性を奪っているかもしれません。
自省を通じて、部下のモチベーションを高めるようなマネジメントスタイルに改善することが、先決です。
自己改善を経ずして、部下に変わることを求めても、部下はますますやる気を失っていくでしょう。
部下のニーズを理解する
4つめは「部下のニーズを理解する」です。
部下一人ひとりのニーズや動機付けの要因を理解することは、やる気を引き出す鍵となります。
たとえば、キャリアアップやスキルの向上を望む部下に対しては、成長の機会を提供することが効果的です。
仕事と私生活のバランスを重視する部下には、柔軟な働き方を検討することで、やる気を醸成しやすくなるでしょう。
前述のとおり、「やる気と真面目さ」は別個の概念です。
「やる気がない不真面目な部下を叱責し、改善させなければ」と考えるのではなく、「部下もやる気を出せなくて、悩んでいるはずだ」という前提を持つことで、建設的な打ち手が見えてきます。
さいごに
いうまでもなく、部下にはそれぞれ個性があります。
やる気をなくす理由も、さまざまな可能性があります。
筆者自身、仕事に真剣に取り組みたいと思いながら、やる気が起きない苦しみを経験したことがあります。
その原因は、メンタルヘルスの不調にあったのです。
この経験から、マネジャーとして、「一番苦しんでいるのは、やる気を出せない部下自身かもしれない」という観点で接するようになりました。
やる気のない部下を前にしたとき、彼ら彼女らの状況を深く理解し、支援することが、マネジャーには求められます。
思慮深く思いやりのあるアプローチを取ることで、状況を改善し、全員にとってよりポジティブな職場環境を作れるのではないでしょうか。