医療業界のみならず、どんな企業でもパワハラには組織として取り組むべきといえます。
しかし、組織の風土や文化はそれぞれの場所で大きく異なっており、また一つの組織にいると悪い習慣であってもそれが自分の常識になり、異常性に気づきにくいものです。
これは、医療業界だけでなく、民間企業でも同じようなことが言えます。
今回の記事では、医師として筆者が今まで経験してきた事例をあげながら、パワハラの加害者にならないために筆者が気をつけているポイントや組織としての取り組みについて述べていきます。
目次
医療現場ではパワハラが起こりやすいのか?
職場でのパワーハラスメント(以下、パワハラ)は、職場において行われる
- 優越的な関係を背景とした言動で
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるもの
であり、1~3までの要素を全て満たすものとされています。
パワーハラスメントに関しては、医療現場ならではの特徴があります。
まず1つ目は、他の医療従事者に対して指示する側である医師と、指示を受ける側である看護師等の医療従事者には、どうしてもパワーバランスが生まれてしまうことです。
このため、つい意識せずとも医師が高圧的な口調になってしまうことも起こります。
2つ目には、医師同士であっても、職場によっては厳然たる年功序列制度が依然としてあります。
そのために、若手の医師が上司からパワハラを受けることがあります。
そもそも、医療の現場は、特に人の身体や心の健康に直結する場面が多いため、緊張を強いられストレスがかかりやすいといえます。
そのために、職員の余裕がなくなり、口調もキツくなってしまうなどの理由から、ハラスメントが発生しやすい土壌があるのかと思います。
実際に、全国の勤務医で結成されている全国医師ユニオンが2022年に行った調査では、自分自身あるいは同僚がパワハラを受けていた人の割合は調査対象者のうち約半数であったという結果が出ています。
医師としては同じような仕事をしていても、民間病院や大学病院、民間企業のグループ傘下の医療法人や個人クリニックなど、病院の規模や経営母体はさまざまです。
そして、その組織の風土や文化はかなり異なっており、もともとパワハラが慣例的に行われている病院なども珍しくはありません。
医療業界以外の職種でも、こうした職場はあるかと思います。
特に、パワハラをはじめとするハラスメントについての社員教育などの取り組みを行う人的・経済的な余裕がないような企業では、よく見られることかもしれません。
医療現場で筆者が経験したパワハラ事例と上司の驚くべき対応
筆者が以前属していた大学病院では、自分とそりの合わない部下に対し、人前で大声でしかりつけている医師がいました。
また、当直のシフトを、上級医が部下の医師に交代するように問答無用で強要したという事案もありました。
これについても、上下関係があるために断りづらい中での要求ということで、パワハラに近い案件かと思います。
こうした事案は、一般企業でも起こりうるでしょう。
実はこうした事案があったので、部下たる医師が他の教官クラスの医師に相談しました。
そして、診療科のトップとも言える当時の教授に報告・相談したのですが、教授は「先輩医師が後輩に当直を交代するように求め、それに応じるのは医師の世界では当たり前だ」との旨の発言をしたのです。
「自分も上司に無理を強要されたので、部下に同様のことをしても構わない」というのが常識になってしまっており、異常であることに気づくこともなかったのでしょう。
パワハラ以前の問題かもしれませんが、当時の大学病院の医局にはこのような認識の人もいたのです。
パワハラ加害者にならないために気をつけたいこと
医師であっても、民間企業の特に部下を持つ立場の人であっても、自分がパワハラ加害者になることは避けたいでしょう。
そこで、筆者が気をつけている点や、パワハラが起こらないような職場作りのポイントをご提案します。
(1)力関係に差がある部下に指示を出す際には特に伝え方に留意する
すべての職員が優秀で、指示を的確にこなせるわけではありません。
また、仕事の内容によっては、顧客(医療の現場では患者)に直接不利益が生じるようなミスをする部下などもいるでしょう。
そうした場合には、もちろん改善するために上司は部下に改善のための方法を伝える必要があります。
しかしながら、忙しい職場ではつい注意する際に大声になってしまったり、あるいは指示を受ける人がプレッシャーを過度に感じてしまうことがあるかもしれません。
そうしたことを防ぐためには、時間的な余裕があれば冷静になってから改めて、ゆっくりと伝えることもよいでしょう。
また、その部下が自分とは違う職種である場合には、その場で直接その人に注意する代わりに、その部下の直接のマネージャーなどに伝えるという方法もあります。
実際に筆者は、現在働いているクリニックで技師や看護師に何か意見があった際、その職員に直接注意するのではなく、その部門のリーダーに報告するようにし、間接的に意見を伝えるよう気をつけています。
(2)職場環境を改善し風通しをよくする
そもそも、パワハラが生じやすい背景として、過度な肉体的・精神的負担が強いられる場面が多いということがあるかと思います。
そうした職場環境の改善のため、業務の効率化などで過剰な長時間労働を改善していく取り組みを組織全体で行っていくことも有効です。
心にゆとりがなくなると、どうしても口調がキツくなってしまうということはあります。
筆者が今まで経験してきた職場でも、やはり業務内容が過密で、長時間労働が常態化していた病院では、上司もストレスがたまり、その吐口として部下にきつい口調であたってしまっている、ということがみられたように思います。
もちろん、医療の質の担保は行った上での話ではありますが、病院としてある程度の仕事量になるくらいの目標設定・仕事設定にしている職場では、医師も看護師も、その他の医療従事者ものびのびと働くことができていました。
そして、パワハラとして大ごとになってしまう前に、「これはハラスメントなのか?」と感じた際に、気軽に相談できる窓口などを設け、職員に周知しておくことも有効かと思います。
もちろん、社員教育を行い、パワハラ対策をすることも大切ですが、なかなか考え方を変えられない人もいる可能性もあります。
そのため、パワハラを個人レベルの問題で終わらせるのではなく、組織のレベルで取り組み、改善していこうという風通しの良さを持つことが重要だと考えます。
まとめ
筆者の実感としては、自分にとっての充足感の感じられない忙しさがあるような職場、例えば過密なスケジュールで仕事をこなすことが求められたり、人と人が雑談をするような余裕がなかったりといった職場では、パワハラが横行していたように思います。
医療現場のみならず、さまざまな職場でのパワハラが改善されるためには組織としての取り組みが必要です。
パワハラの加害者にならないためにも、ぜひ自分自身も周りにもゆとりが持てるような働き方をしていきたいものです。