がんについてはさまざまな報道がされています。中には正しい記載もありますが、一方で迷信があったり、疑問が残る報道などがあることもまた事実です。
そこで、この記事では、がんにまつわる質問として、がんの表記法はどのように使い分けられているのか、若い人のがんは進行しやすいのか、そして、がんは遺伝するのか、という3点について解説します。
がん?癌?どの書き方が正しいの?
インターネットで「がん」と検索すると、「癌」という漢字表記や、「がん」というひらがな表記で出てくる場合もあります。
この使い分けについて、まず説明します。
正常な細胞が分裂する際に、遺伝子に「キズ」、つまり遺伝子変異ができることがあります。すると、細胞は無秩序に増殖していき、かたまりを作ることがあります。
これを「腫瘍(しゅよう)」と呼びます。
腫瘍の中でも、周りの臓器へも広がったり(浸潤)、他の臓器にも飛び散ったり(転移)、という特徴を持つものを悪性腫瘍と呼びます。
この悪性腫瘍のうち、外界つまり外の世界と接している部位から発生するものを「癌」と呼びます。
外の世界と接しているものとしては、身体の表面を覆う皮膚や、空気や食べ物の通り道である肺などの呼吸器、胃や大腸などの消化器が該当します。
一方、身体を支える部分である、筋肉や骨、脂肪、血管、神経、脳などから発生する悪性腫瘍を「肉腫(にくしゅ)」といいます。
その他、血を作り出す造血組織の悪性腫瘍のことは、白血病や骨髄腫、悪性リンパ腫などと呼びます。
こうした悪性腫瘍すべてを指すときに、「がん」とひらがな表記します。
若い人のがんは進行しやすいのか?
次に、若い人のがんは進行しやすいのか、という疑問に対して説明していきます。
乳がんや大腸がんなどで、若い芸能人が亡くなったという報道があると、「自分も若いから、もし知らないうちにがんになっていたら、あっという間にがんが進んでしまうのではないか」と不安になる方もいるかもしれません。
確かに、一般的には若い人のがんは増殖が早く予後不良であるのに対し、高齢者がんは増殖が遅く予後も比較的良好であると言われています。
そのため、この不安や疑問についてはある意味正解です。
しかしながら、確かにそのような一面はあるものの、必ずしも単純化できるものではないのも事実です。
その理由は、「年代によって発生しやすいがんがある」からです。
つまり、「年齢が若いから、がんの増殖が早い」のではなく、「年齢によって発生しやすいがんがあり、その性質として増殖のスピードに違いがある」といえるでしょう。
それでは、具体的に、2つのがんをご紹介していきましょう。
(1)胃がん
胃がんは、胃の粘膜から発生するがんです。
2019年の調査では、胃がんの罹患率は大腸、肺に続き3位となっています。
胃がんについては、高齢者は高分化(こうぶんか)がんが多い一方、若い人(64歳以下)は未分化(みぶんか)がんが多いとされています。
分化というのは、がん細胞が、本来の正常な細胞の形態をどれくらい保っているか、つまり顕微鏡などで調べた時に、もともとの細胞の形に似ているかどうかを表す度合いのことです。
「未分化」「低分化」「高分化」などと表現します。
分化度の低いがん細胞は、悪性度が高く活発に増殖する傾向があります。
逆に、分化度が高いがん細胞は、悪性度が低く、ゆっくりと増殖する傾向があります。
若い人の胃がんのタイプとして未分化がんが多いということは、すなわち進行が速いものが多いということです。
また、胃がん検診を受けているかどうかについても、若い人で進行がんが見つかりやすくなるという原因の一つになっている可能性があるかと思います。
国は胃がん検診を「50歳以上に推奨(※当分の間、胃部エックス線検査については40歳以上に対し実施可)」としています。
このため、39歳以下の方は、自分でオプションなどで検査を受けない限り、胃の検診を受けないでいるということもあるかもしれません。
この結果、かなり進行した状態で胃がんが見つかる、ということにもつながりかねません。
「なんとなく胃の具合が悪い」「体重が減ってきた」「黒い便がでる」という場合には、20〜30代の方であっても、消化器内科を受診すると良いでしょう。
(2)甲状腺がん
胃がんとは逆に、若い人ではゆっくり進むタイプが多い甲状腺がんについて説明します。
甲状腺は、のどぼとけの下にあり、蝶のような形をしている臓器です。
甲状腺からは、生命の維持に必要な甲状腺ホルモンが分泌されています。
そして、甲状腺にできる悪性腫瘍のことを甲状腺がんといいます。
甲状腺がんは、肺がんや胃がん、大腸がんほどには多くはみられないのですが、年々増えているがんの一つです。
甲状腺がんは、年代別にみると60〜70代の方が多いのですが、30〜40代の方にもみられます。
甲状腺がんには、乳頭(にゅうとう)がん、濾胞(ろほう)がん、髄様(ずいよう)がん、未分化がんなどの種類があります。
この中で一番多く、約90%を占めているのが乳頭がんで、甲状腺がん全体の約90%を占めます。
そして、この乳頭がんは比較的若い女性に多くみられ、ゆっくりと進行し、予後は良好とされています。
一方、約1〜2%と割合としてはかなり少なくはなりますが、未分化がんは高齢者に多く、急速に進行し予後は不良です。
がんは遺伝するのか?
最後に、がんは遺伝するのか、という疑問について解説します。
答えは、「遺伝子変異が親から子に遺伝することがわかっているがんの種類は限られている」ということです。
細胞ががん化するのを防ぐ癌抑制遺伝子に起こった変異が、子孫にも伝わるものが遺伝性のがんの実態です。
家族でそのがんになる人が多いことと、若い時に発症例が多いという傾向があります。
日本では遺伝性乳癌・卵巣癌症候群(HBOC)と、遺伝性非腺腫性大腸癌(HNPCC)を主とする Lynch(りんち) 症候群、そして、甲状腺髄様癌などがあります。
これらのがんの場合には、両親のどちらかが遺伝子変異を持っている場合には、1回の妊娠で子供に50%の確率で遺伝子変異が伝えられます。
そのため、遺伝性のがんの家系の方の場合には、カウンセリングなどを受けた上で、遺伝子検査を受け、適切に対応することが望ましいと考えます。
将来的には、今よりも多くのがんについて遺伝する可能性がある、ということがわかるかもしれません。
しかし、筆者としては、遺伝のことを心配するのと同様に、生活習慣など、自分でコントロールできることからがんの予防をすることも大切だと考えます。
具体的には、国立がん研究センターをはじめとする研究グループから、以下の6つの予防法が取り上げられています。
こちらでは、日本人のがんの予防にとって重要なポイントが挙げられています。
「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」の5つの改善可能な生活習慣に「感染」を加えた6つの要因となっています。
がんになるリスクを下げたいのであれば、タバコは吸わないようにし、太りすぎたりやせすぎたりしないように食生活に気を付け、毎日適度に身体を動かし、そして健康診断やがん検診を受けることが重要だと考えます。
まとめ
今回の記事では、若い人ががんになっても、必ずしも予後が悪いというわけではない、という例をお示しできたかと思います。
現在では、誰でもがんになる可能性がある一方で、どのようながんになるのかはわからないことがほとんどです。
たとえ遺伝性のがんの家系だとしても、実際にがんになるかどうかは半々の確率です。
そのため、がんになることを怖がるのではなく、正しい知識をがん情報サービスのHPなどでチェックし、自分でも取り組めることから行っていくことが大切だと筆者は考えます。
この記事が何かの参考になれば幸いです。