従業員が傷病などにより休職を申し出た場合、休職制度を設けている企業の多くは産業医面談のほか、各種の人事手続きを行います。事前にフローを定めて、手続きを漏れなく進めることが課題です。またこれから休職制度を設けようとする企業やその人事労務担当者においては、休職者への対応の流れをあらかじめ知ることは、休職制度を構築する際に有用でしょう。
そこで本記事では、傷病による休職者対応を円滑に行うために、事前に押さえておきたいポイントを詳しくまとめて解説します。
目次
休職とは
「休職」とは従業員が傷病などを理由に、労働契約を継続したまま一定の期間、就労免除される状態のことをいいます。「休職制度」は休職の対象者、休職期間、休職中の賃金などの扱いや復職の要件など休職にまつわる規則を定めたものです。
休職制度は労働基準法などの法律で定められた制度ではなく、事業者には休職制度を設ける義務はありません。しかし、療養期間を経て職場復帰してもらうことで離職率を低減し、人材の定着や確保につなげるため、休職期間満了後に職場復帰できない従業員に対し、労働契約の終了を円滑に行うためなどの理由から、多くの企業で設けられています。また休職制度は多くの場合、就業規則上で設けられており、その要件や規定は事業者の判断によって決められるのも特徴です。
休職制度は傷病による利用者数が最も多い傾向がありますが、その他、従業員の留学やボランティア、公職就任などの際にも用いることができます。
(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「調査シリーズ No.5 労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」第4章休職制度について)
従業員のキャリア形成を後押しできる点も休職制度を設けるメリットの一つです。
休職の希望者が出た場合、自社の休職制度に則り手順を踏みます。休職制度がない場合は事業主に確認するとともに、必要に応じて設置を提案、検討しましょう。
従業員から休職の相談を受けたときの対応ポイント
従業員から給食の相談を受けた際の対応ポイントは以下の5点になります。
- 上司や人事労務担当者との面談を実施する
- 医療機関の受診や産業医への相談を促す
- 産業医面談の実施
- 主治医に診断書・意見をもらう
- 就業規則や休職制度の説明をする
- 休職措置をとる
従業員から傷病などによる休職の相談を受けた場合、一般的には上司や人事労務担当者などとの面談から対応を開始します。その後、産業医面談や具体的な休職手続きが続きます。一連の対応の中で重要なのは、休職や復職の条件や必要な手続きを事前にしっかり説明することです。次より休職期間に入るまでの主な流れと各場面での対応ポイントについて詳しく解説します。休職者対応の際の参考にしてください。
上司や人事労務担当者との面談を実施する
従業員が休職の申し出を行うのは、上司または人事労務担当者のいずれかであるケースが多いでしょう。従業員から申し出を受けた際は、上司や人事労務担当者との面談を行います。
面談では休職したい理由、心身の状態、通院状況などについて従業員からヒアリングを行います。この段階ではまず状況の把握に努めることが重要です。また併せて、出勤・欠勤状況、有休消化状況なども確認しておきます。
医療機関の受診や産業医への相談を促す
休職を希望する従業員に対し、産業医や産業保健スタッフとの面談を提案します。また早期受診、早期発見は治療や回復の経過に影響を及ぼしやすいといわれるため、医療機関を未受診の場合は受診を促します。
産業医面談の実施
休職を希望する従業員が申し出た場合は産業医との面談を実施します。産業医は従業員から提出された主治医診断書の内容を踏まえて、休職が相当であるかどうか意見を出す他、事業者が休職判断を行うまでの間の勤務時間の調整や休暇取得の必要性などについて意見を述べる場合もあります。事業者は原則として労働安全衛生法第13条第4項、第5項により産業医の意見を尊重し、必要な措置を講じるよう努めなければなりません。産業医の意見書をもとに、休職判断中の期間も含めた当該従業員への対応を検討します。
また医療機関を未受診の場合は、産業医からも受診を促してもらいましょう。この場合、産業医は事業者に、受診のための休暇取得や勤務の調整などの意見を述べることが可能です。
主治医に診断書・意見をもらう
従業員本人の健康状態を専門家の立場から最もよく理解し、判断できるのが医療機関の主治医です。就業規則において休職の際に診断書の提出を義務付けている場合、事業者に主治医の診断書を提出してもらいます。休職することにより改善して再び就労できる見込みがあるか、また回復にはどれくらいの期間が必要かといった事柄について主治医の意見をもらいます。
本人の同意があり主治医も了承している場合、受診時に人事労務担当者などが同席することも可能です。
就業規則や休職制度の説明をする
就業規則や休職制度に基づいて、休職の要件などについて説明を行います。就業規則は主に次のような規定を設けます。
- 休職の該当事由
- 休職制度の適用者
- 休職期間
- 休職期間中の賃金や賞与、勤続年数などについて
- 休職期間中の取り扱いについて
- 休職発令前の調査や診断書の提出について
- 復職の条件 など
休職者に対しては、人事労務担当者が休職に関する規定を説明し、休職者本人にも休職の条件や休職の手続き方法などを一緒に確認してもらいます。また、傷病手当に関する規定についても確認します。
休職・復職に関する就業規則の例は、次のWebサイトなどで調べることができます。休職制度を設ける際に参考にするとよいでしょう。
独立行政法人労働者健康安全機構 神奈川産業保健総合支援センター「職場復帰支援プログラム」構築のためのガイドライン
休職措置をとる
産業医の意見や主治医の診断書をもとに判断を行い、休職措置をとることになった場合、本人へ通知して休職に入ってもらいます。
傷病による休職の場合、回復すれば職務に復帰できることを前提としています。しかし一方で、休職者の多くは順調に回復して復職できるか、不安を抱きやすいでしょう。休養により改善が見込まれるという判断のもとの休職であること、事業者としてできる限りの復職支援を行うことなどを説明して、従業員本人が納得して休職に入り、ゆっくりと休めるように配慮しましょう。
休職の際の手続きや伝達事項
休職の際の手続きや伝達事項として代表的なものは以下の10点あります。
- 休職に必要な休職届や診断書などの書類の提出
- 休職〜復職までの流れと復職の条件
- 休職中の給与の支払いや社会保険料などについて
- 傷病手当金の申請方法など
- 自立支援医療制度の説明
- 休職中の連絡方法や頻度
- 休職時の制限事項と禁止事項
- 復職時に必要な書類
- 休職日数の計算方法
- 復職する前に休職期間が満了した場合の対応
休職には次に挙げるような、就業規則などに定められた条件や手続きがあります。抜け漏れがないように確認し進めていきましょう。
〈休職に必要な休職届や診断書などの書類の提出〉
休職に必要な休職届や診断書を提出してもらいます。休職届の記載事項は一般的に、休職理由や休職中の連絡先、休職期間などです。休職期間は医師の診断書をもとに、就業規則の規定範囲内で定めます。休職期間を明らかにする重要な届出であるため、書き方がわからないという従業員には人事労務担当者が説明を行いながら記載してもらうと間違いを防げます。
〈休職〜復職までの流れと復職の条件〉
休職から復職までの流れと、復職の条件についての説明を行います。事業者は従業員に対し、復職は就業規則に定める程度まで職務を遂行することが可能になっていること、主治医と産業医の意見が必要であること、生活リズム表などの提出が必要であることなど、条件をあらかじめ伝えておきます。
〈休職中の給与の支払いや社会保険料などについて〉
休職中はノーワーク・ノーペイの原則のもと、無給とする会社が一般的ですが、一部のみ支給できるようにしている会社もあります。自社の規則に則り、休職中は給与の支払いが全部または一部ないこと、社会保険料の本人負担分は支払う必要があることなどを説明します。また傷病手当金から社会保険料を控除する場合は、この取り扱いについても事前に説明が必要です。休職期間に賞与の支払いが行われる場合は、賞与についても説明しておきます。
〈傷病手当金の申請方法など〉
要件を満たした場合、通算1年6カ月の間は傷病手当金を受給できます。傷病手当金の受給要件と申請方法についても説明を行いましょう。会社から給与の一部が支払われる場合、受給額が調整されることなども伝えます。申請は休職申請時に併せて行うのが一般的です。
〈自立支援医療制度の説明〉
自立支援医療制度は、心身の障害を除去・軽減するための医療にかかる自己負担額を軽減できる制度です。メンタルヘルス不調など精神疾患の通院治療費をカバーします。申請は市町村の担当窓口で行い、受給者証の交付を受けます。世帯年収が一定の収入未満であれば通院治療費の自己負担限度額が1割になるなど、医療費が軽減されます。
(参考:厚生労働省「自立支援医療の患者負担の基本的な枠組み」)
〈休職中の連絡方法や頻度〉
休職中の連絡方法や頻度についても説明をしておきます。休職中は本人への負担を減らすために、会社からの連絡は最低限に止めましょう。電話やメール、チャットなど、どの方法で連絡をするかあらかじめ決めておきます。
〈休職時の制限事項と禁止事項〉
休職時には連絡が取れるようにしておくこと、定期的に主治医を受診して報告することなど、就業規則などで定められた留意事項を伝えます。メンタルヘルス不調での休職の場合などには、回復に向け適度な気分転換も必要であることから、休職中に旅行をすることや遊びに行くことなどは必ずしも制限されないのが一般的です。また休職制度は本来就労義務を免除するものであるため、休職中の私生活を制限することは、基本的には行わないものと考えるのが妥当でしょう。ただし傷病手当金は、就労できないことが受給要件の一つです。活動的に過ごしている様子であれば、就労できるかどうか改めて確認し、場合によっては復職を促します。
〈復職時に必要な書類〉
主治医の意見書や本人が記載する生活のリズム表、復職願など、復職時に必要となる書類についても休職に入る際に説明をしておきます。
〈休職日数の計算方法〉
休職の起算日がいつからになるか明らかにするとともに、就業規則に定めた休職日数の計算方法について説明します。
〈復職する前に休職期間が満了した場合の対応〉
休職制度を設ける企業では、復職する前に休職期間が満了した場合の対応についても、就業規則上で定めるケースが多く見られます。その多くの場合、雇用契約が終了し、退職または解雇と規定されますが、休職期間の延長を認める規定を設けている会社もあります。就業規則に則り、休職期間の取り扱いについて本人に説明します。
休職者対応の注意点
休職の手続きを進める上で、人事労務担当者が留意すべき事柄は以下の2点です。
- 休職者への連絡は必要最低限に
- 個人情報の取り扱いに留意する
休職中の従業員に対応する際には、主に次の点に注意しましょう。
休職者への連絡は必要最低限に
先述したように、休職者への連絡は休職の趣旨を念頭に置き、休職者の心身へ負担がかからないように必要最低限にするべきです。また適度な距離感を保って連絡するようにします。
休職者の復職の意思が確認できたら、療養に専念してもらうための休職支援から復職をサポートする方向へと徐々に切り替えていきます。例えば主治医の診断書を取得するように促したり、復職へ向けた連絡や調整を行ったりするなど、休職者が安心して復職できるように道筋を整えます。
個人情報の取り扱いに留意する
傷病を理由とする休職の場合、病状に関する情報などは特に取り扱いに配慮を必要とする個人情報です。連絡対応の窓口は一人にするなど、休職者の個人情報を取り扱う担当者を明確にして、必要最小限の人員に限定します。個人情報の管理は徹底し、また第三者に情報を開示する場合は本人の承諾を得てから行います。
まとめ
休職者への対応内容は多岐にわたるため、事前にポイントを押さえて進めることで抜け漏れを防止します。休職制度を設けていない会社は、休職者対応の流れやポイントを参考に、制度の設置を検討するとよいでしょう。
休職は産業医や主治医による意見を踏まえ、就業規則に従い事業者側が判断をします。人事労務担当者は従業員の休職が決定した場合、各種の届け出や傷病手当金の手続きなどの事務手続きを行います。併せて休職者本人への休職条件や復職条件の説明を行うことも重要な職務です。