食中毒は、年間を通して発生しています。
職場で食中毒が起こりうるケースとしては、社員食堂での集団食中毒や、仕出し弁当や持参した弁当などでの食中毒になってしまうという場合などが想定されます。
そこで今回は、職場で食中毒を防ぐための方法や、万が一職場で食中毒が発生してしまったときの対応について解説します。
目次
食中毒とは?原因は何?
最初に、食中毒とはどのようなものかについて解説します。
(1)食中毒とは?年間を通して起こっている?
食中毒は、原因となる細菌やウイルスなどが食べ物に付着し、身体の中へ侵入することによって発生します。
食中毒を防ぐためには、細菌の場合は、
- 細菌を食べ物に「付けない」
- 食べ物に付着した細菌を「増やさない」
- 食べ物や調理器具に付着した細菌を「やっつける」
という3つのことが原則となります。
一方、ウイルスによる食中毒の場合は、細菌によるウイルスとは少々事情が異なります。
ウイルスは食品中では増えないので、「増やさない」は当てはまりません。
また、ウイルスは、ごく少量の汚染でも食中毒を起こしてしまいます。
そこで、ウイルスによる食中毒を予防するためには、
- ウイルスを調理場内に「持ち込まない」
- 食べ物や調理器具にウイルスを「ひろげない」
- 食べ物にウイルスを「つけない」
- 付着してしまったウイルスを加熱して「やっつける」
という4つのことが原則となります。
食中毒は、直近5年間では700〜1400件の幅で推移しており、年間を通して発生しています。
梅雨(5〜6月)と、夏(7〜9月)は湿度や気温が高く、細菌が増えやすくなります。
そのため、この時期には細菌性の食中毒の発生件数が増加する傾向にあります。
一方で、冬(12〜3月)には、ノロウイルスなどのウイルス性の食中毒の発生が多くみられます。
アニサキスなどの寄生虫による食中毒は、年間を通して発生しています。
令和4年の食中毒全体で、原因として多かった病因物質はノロウイルス、ウエルシュ菌、カンピロバクター、サルモネラ菌などとなっています。
(2)職場で起こりうる食中毒にはどのようなものがある?
食中毒が職場で起こるような状況としては、以下のようなものが想定されます。
- 社員食堂での集団食中毒
- 仕出し弁当などでの集団食中毒
- テイクアウト弁当
- 職場主催のバーベキューや焼き肉などでの集団食中毒
こうした場合を想定して、これから職場での食中毒の対応について解説していきます。
もしも職場で食中毒が起こったら?職場で食中毒を発生させないために企業が気をつけるべきポイントは?
ここからは職場で食中毒が起こったらどういった対応を取るべきかについて解説します。
(1)食中毒が起こった場合に職場に求められることは?
はじめに、食中毒が疑われる患者が発生した場合の流れを説明します。
以下のイラストに示すように、食中毒を診察した医師は、保健所に届け出ることになります。
その報告を受け、保健所の職員が患者に聞き取り調査を行います。
そして、職場での食事などが原因と考えられる場合には、施設への立ち入り調査などを行うことがあります。
職場の担当者は、他の患者がいないか、また原因となる施設や食品、物質の特定などの保健所の調査に協力するようにしましょう。
そして、食中毒の原因が推定・決定された場合には、保健所は、その状況に応じて食品衛生法に基づく必要な処分又は指導を行うことが義務付けられています。
その場合は、保健所と協議し、対応していくことが求められる場合があります。
(2)食中毒が疑われる従業員がいた場合の対応は?
黄色ブドウ球菌が原因の食中毒の場合、原因となる食事をとってから平均3時間程度で吐き気や嘔吐、腹痛などの症状がでるものもあります。
つまり、従業員が食中毒になってしまったときには、原因となる食事をお昼に食べた場合に、午後の勤務中に体調不良を訴える可能性もあるのです。
もしも、従業員に吐き気や嘔吐があり、倦怠感が強く横になる場合は、吐いたものが喉につまらないように横向きに寝かせるようにしましょう。
市販の下痢止めは、食中毒の原因となる細菌やウイルスが体外に出るのを邪魔し、症状を悪化させる可能性があるので、使うのは控えておきましょう。
また、吐いてしまったものは適切に処理し、感染を周囲に広げないように気をつけましょう。
従業員に下記のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診させるようにしてください。
- 下痢が1日10回以上続く
- 血便が出る
- 激しい嘔吐
- 呼吸困難、意識障害などの重い症状が見られる
(3)食中毒を職場で発生させないために注意するポイントは?
職員食堂がある場合には、担当者を中心とし、衛生管理を適切に行いましょう。
その他、従業員のレベルで気をつけるべきポイントについて周知徹底することも有効でしょう。
例えば、テイクアウトやデリバリー弁当を利用する際のポイントとして、以下のようなものがあげられます。
- 持ち帰る際には保冷バッグなどを利用し、温度に注意する
…食中毒菌は、20〜50℃の温度帯でよく増えますので、調理した食品は、10℃以下で運ぶか、65℃以上で保管できるようにしましょう。 - 速やかに持ち帰り、早く食べる
- 食べる前によく手を洗う
家庭からの弁当を持参する際にも同様の注意が大切です。
持ち込む弁当は家庭で調理してくることになります。
食中毒対策の基本は、先に述べたような「付けない」「増やさない」「やっつける」ということにあります。
さらに、正しい手洗いは、食中毒だけではなく、感染症対策の基本となります。
下に示す図のような手順で行うように周知しましょう。
(4)食中毒になった従業員は休むべきなのか?法律上の扱いは?
日本では、感染症という法律により、感染症によっては、回復するまで特定の職業につくことが制限されます。
これを就業制限といいます。
食中毒の原因となった病原菌が腸管出血性大腸菌の場合は、三類感染症となるので、感染症法により就業制限の対象となります。
三類感染症の場合は、飲食物の製造、販売、調整又は取り扱いの際に飲食物に直接接触する業務について、就業制限の対象となります。
しかし、感染症法での取り扱いとしては、カンピロバクターやノロウイルスを始め、サルモネラなどの食中毒の原因となる病原体の多くが「感染性胃腸炎」として五類感染症となっているので、法律上は出勤停止にはなりません。
ただし、ノロウイルスの場合は五類感染症ではありますが、その取り扱いについては「大量調理施設衛生管理マニュアル」に記載があります。
このマニュアルでは、ノロウイルスを保有していないことが確認されるまでの間、食品に直接触れる調理作業を控えるなどの処置が望ましいとされています。
(5)従業員の職場復帰の対応や判断に迷った際は医師や保健所にも相談しよう
職場によっては、食中毒となった従業員の対応についての指針等があるかもしれません。
しかし、可能であれば、食中毒となった従業員の下痢や嘔吐の症状が強い場合は、主治医と出社時期を相談し、それまでは自宅で休ませるようにすると良いと考えられます。
ウイルスや細菌の種類によっては、感染後1週間から1ヶ月程度は便の中にウイルスが排出されるものがあります。
従業員の症状が治まり、職場に復帰してからも、トイレに行ったらよく手を洗い、共用のタオルは控えるように励行すると良いですね。
その他、従業員の職場復帰の際の対応や判断に迷った際には、主治医や管轄保健所にも相談してみるとよいでしょう。
まとめ
職場で食中毒を予防し、万が一起こっても落ち着いて対応できるようにしておきたいものです。
まずは、従業員への手洗い勧奨などの基本的なところから取り組むと良いかもしれません。
年中を通して食中毒は起こりえますので、日頃からしっかりと対策しておきましょう。