貧血は、体の中で酸素を運ぶヘモグロビンという物質が少なくなってしまった状態のことを指します。
貧血のなかで最も多いのは、鉄が不足する鉄欠乏性貧血です。鉄欠乏性貧血は女性に多くみられ、身体のだるさや頭痛、息切れ、仕事の効率が下がってしまうなど、企業にとっても影響がでることがあります。
そこで、今回は貧血の中でも主に鉄欠乏性貧血について解説し、企業による対策についても提案していきます。
目次
貧血とは何か?なぜ気を付けるべきなのか?
ではまず、貧血とはどのような状態なのかについて解説します。
(1)貧血とはどのような状態なのか?
貧血とは、赤血球に含まれる血色素(へモグロビン)という物質の濃度が低下した状態のことです。
WHO(世界保健機関)の基準では、ヘモグロビンの血液中の濃度が男性で13g/dl、女性で12g/dl未満が貧血であると定義されています。
ヘモグロビンを作るためには、下記の図のように、鉄が不可欠です。
ヘモグロビンは酸素の多いところでは酸素と結びつき、酸素が少ないところでは酸素をはなす性質を持っています。
この性質によって、ヘモグロビンを含んだ赤血球は、肺からの酸素をからだの組織に運ぶ働きをしているのです。
一方、身体の中の鉄が減少すると、ヘモグロビンも減り、酸素を運搬する能力が低下してしまいます。
その結果、疲れやすさや頭痛、息切れなどの症状や、運動機能の低下などが引き起こされるのです。
「立ちくらみ=貧血」と思っている人もいるかもしれません。
確かに立ちくらみのことを「脳貧血」ということもありますが、立ちくらみがあるからといっても血液検査で貧血を示すとは限りません。
貧血の一番多い症状は、「疲れやすさと階段をのぼるときの息切れ」です。
(2)貧血の原因は?
貧血にはいろいろな原因がありますが、鉄欠乏性貧血がもっとも多くみられます。
鉄欠乏性貧血になる原因として、月経や消化管(胃や大腸など)からの出血によって鉄が失われることがあります。
そして、さらに成長や妊娠によって鉄がたくさん必要になることなどもあります。
出血の原因は、女性の場合は、婦人科系の疾患が多く、男性や閉経後の女性では胃や大腸からの出血がほとんどとされています。
痔も、貧血の原因として見逃されている場合が多いようです。
その他の貧血の原因は、ビタミンV12などの栄養不足など、さまざまなものもあります。
(3)どれくらいの人が貧血なの?
平成21年国民健康・栄養調査報告では、20〜40代の女性では、約20%が貧血(Hb12mg/dl未満)を疑われる結果となっています。
貧血の多くを占める鉄欠乏性貧血の予防のためには鉄を十分にとることが大切です。
日本人成人(20〜49歳)の1日の食事からの鉄の推奨摂取量は、以下のようになっています。
- 成人男性では、7.5mg
- 月経のある女性では、10.5mg(月経のない女性:6.5mg)
一方、令和元年国民健康・栄養調査報告では、1日の鉄の摂取量は、
- 20歳以上の男女合計では平均7.9mg
- 男性では8.3mg
- 女性では7.5mg
- 妊婦・授乳婦ではそれぞれ6.7mg・6.5mg
となっています。
20歳以上の女性では、月経がある方も多いと考えられますので、特に女性では鉄分不足が懸念されます。
(4)貧血はメンタルヘルスにも影響がある?
貧血は身体のだるさや不調の原因となり、作業効率を下げてしまいます。
また、国内の50歳未満の女性のメンタル不調と、血液中の鉄やその関連成分の関係が明らかになったという研究もあります。
これらのことからも、男女問わず、鉄欠乏性貧血の予防は重要だと言えます。
特に女性に多い貧血を予防・改善していくことは、企業の取り組むべき問題といえるでしょう。
(5)貧血を防ぐためには?治療法は?
では、ここからは貧血を防ぐための食事法や貧血の治療法について簡単に解説します。
−1 貧血予防のための食事のポイント
貧血を予防するためには、毎日身体から失われる鉄を食事から取ることが必要です。
主な食品の目安量に含まれる鉄分の量は下図のようになっています。
鉄分の他にも、ヘモグロビンの材料になるタンパク質や、鉄の吸収を高めるビタミンCの摂取も必要です。
肉や魚、野菜・果物などをバランスよく食べていくことがまずは貧血の予防になるでしょう。
−2 貧血の治療法
貧血の原因は鉄欠乏性貧血が多くみられます。
それゆえに、なぜ鉄が失われているかを調べて、その原因となっている病気の治療をする必要があります。
それと同時に、鉄分の補充をすることも治療となります。
鉄剤を内服することが一般的ですが、副作用が強く飲めない場合には鉄剤を点滴する治療法がとられます。
企業が取り組める貧血の予防・対策は?
では、ここから企業が貧血対策として取り組む際のポイントについて解説します。
(1)貧血についての従業員のヘルスリテラシーを高める
先に述べたように、貧血の症状は「なんとなくだるい」というものもあるのですが、頭痛やだるさなどから作業効率が下がってしまうということもあります。
本人が気づいていないだけで、実は貧血だったということもありえます。
企業側は、貧血の症状とはどのようなものか、また予防するためにはどんなことが役立つのかについてのポスター掲示などを行い、ヘルスリテラシーを高めていきましょう。
また、食生活を整えることも重要なので、食生活セミナーなどを行い情報提供をすることも有効でしょう。
(2)健康診断で貧血をチェックする項目も加える
一般的な定期健康診断の項目では、「鉄」は含まれていないことが多いかと思います。
しかし、貧血の診断基準では「鉄」が重要です。
また、血液中には身体の中に蓄えられている鉄の量を反映する「フェリチン」という鉄貯蔵タンパクがあります。
鉄が不足していると、身体はまず貯蔵した鉄分である「フェリチン」が低下し、その後血液中の鉄分が低下、その後ヘモグロビンが減少します。
そのため、ヘモグロビンの濃度が正常でも、「フェリチン」が低い状態は、潜在性鉄欠乏の状態を表していることがあるのです。
検査の項目に、「鉄」や「フェリチン」を、希望者ではオプションとしてつけることなどで、貧血の早期発見につながる可能性もあります。
(3)貧血と診断された従業員への受診勧奨・治療支援を行う
健康診断で貧血と診断されても、なかなか受診しない従業員もいるかもしれません。
貧血の原因は、鉄欠乏性貧血が多いのですが、胃癌や大腸癌などの悪性の病気が隠れていることもあります。
たとえ癌であっても、早期発見・治療すれば治療することが期待できます。
企業としては、健康診断で貧血と判明した従業員の受診勧奨も行えるとよいですね。
そして、鉄欠乏性貧血の治療支援を行うことも重要です。
鉄剤を内服してから、6〜8週間で貧血は消失することが多いです。
しかし、身体の中に蓄えられた鉄を十分に補充しなければ、また貧血になってしまいます。
身体に貯蔵される鉄を十分に満たすためには、更に3〜4ヶ月鉄剤を飲み続ける必要があります。
長い期間の治療になりますので、継続して内服していけるように治療支援を行っていくことも大切です。
まとめ
今回の記事では、主に鉄欠乏性貧血とはなにか、その症状はどのようなものがあるのか、また企業が取りうる対策について述べました。
鉄欠乏性貧血に対するヘルスリテラシーを高め、予防や早期発見、さらに治療へとつなげていきたいものですね。