社員が適応障害に陥ってしまったときの産業医との連携について

適応障害とは環境や出来事に対応できないストレスから、不安感や気分の落ち込み、不眠、頭痛など、さまざまな心身の不調が現れる病気です。従業員が適応障害を発症した場合、仕事におけるパフォーマンスの低下や休職につながりかねません。

適応障害を予防するために、企業はどのような対策を講じれば良いのでしょうか。また、適応障害の従業員に対して、どのような支援を行うべきでしょうか。

本記事では適応障害の原因や症状、従業員が適応障害に陥ってしまったときの対応や産業医との連携、メンタルヘルス不調を未然に防ぐための対策などを解説します。自社において施策を行う際の参考にしてください。

適応障害とは

適応障害という言葉は、芸能人やスポーツ選手の活動休止報道などに関連して、よく耳にするようになりました。しかし、漠然とした意味しか分からないなど、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。まずは適応障害の定義や起こりやすい状況を解説します。

適応障害の主な原因と症状

適応障害とは、周りの環境や出来事にうまく適応できないことが原因でストレスを感じ、心身に不調が現れる精神疾患です。適応障害はストレスの原因を明確に特定しやすいのが特徴です。

例えば就職や転勤、結婚、育児など、生活や環境、状況に大きな変化をもたらす出来事が適応障害の原因になり得ると言われています。いわゆる「5月病」も適応障害とみなされるケースが多く、年度始まりに多い就職や転勤、異動などによる4月からの環境変化が発症の大きな要因になっていると考えられています。一般的には、今までと違う場に置かれたときほど、適応障害になりやすいと言えるでしょう。

適応障害の症状はさまざまです。心の面では不安や抑うつ感などになって現れます。また、体の面では頭痛、手足のしびれ、難聴などの症状が現れます。

適応障害の判定には医師による診断が必要です。適応障害が原因を特定しやすく、心身の不調となって現れるものだとしても、専門的な知識を持った医師でなければ正しく判定できません。

適応障害が起きやすいとされる状況

先述したように、適応障害が起きやすいのは環境が大きく変わるときです。特に自分で環境を選べない場合や、状況をコントロールしにくい場合は、適応障害につながるリスクが高くなります。

こうしたシチュエーションの代表格が仕事です。仕事にまつわる適応障害が起きやすい例を以下に示します。

種類具体例
職場環境・就職・転職・異動 ・テレワーク導入などオフィス環境の変化など
人間関係・上司や部下が変わり、コミュニケーションが取りにくいとき
・何らかの原因で、職場で孤立したときなど
業務内容・異動によって業務内容や地位、責任が変わったとき
・長時間労働 ・性格、資質に合わない業務を任されたときなど

適応障害の可能性がある従業員への対応と産業医との連携

適応障害と産業医

適応障害の可能性がある従業員に対しては、企業は速やかに適切な対応をとらなければなりません。主に次のような流れで対応していくのが望ましいでしょう。

  • 産業医への相談・面談を促す
  • ストレスの原因や背景要因を改善・解消するための措置を講じる
  • 医療機関の受診を勧める
  • 場合によっては休職を促す

それぞれの内容を解説します。

産業医への相談・面談を促す

適応障害の疑いがある従業員には、まず産業医への相談を促しましょう。また、長時間労働者やストレスチェックで高ストレス者とみなされた従業員も、適応障害を含めた心身不調のリスクがあるため、産業医面談を受けるように促します。

産業医への相談・面談を促す際は、従業員の意思を尊重して、本人からの申し出を待ちます。基本的には事業者が相談や面談を強制することは望ましくありません。

ストレスの原因や背景要因を改善・解消するための措置を講じる

適応障害の対応では、ストレスの原因を取り除くことが大切です。産業医への相談、面談によって原因が分かれば、対応可能な措置を講じましょう。ここでは具体的にどのようなケースがあるかを紹介しながら、実施例を解説します。

◇原因が職場環境にある場合

―従業員は新しい環境に移った際に強いストレスを感じやすい傾向があります。例えば、新卒や中途採用の従業員が職場に配属されたときです。また、地方や海外から異動してきた従業員も、新たな環境に対してストレスを感じる場合が多いでしょう。

職場環境に馴染めないストレスを減らすには、メンター制度の導入が有効です。メンター制度とは勤務年数や年齢が近い先輩社員が「メンター」となり、携わる業務に限らず仕事全般についてサポートをする制度です。身近な相談相手がいることで、従業員はストレスを抱えにくくなります。

職場環境自体が原因になる場合もあります。例えばテレワーク導入でコミュニケーションが減り、孤独感を抱える従業員が増えています。このような場合は本人の希望をヒアリングして、解決策を見つけることが必要です。

◇原因が人間関係にある場合

―人間関係が原因で適応障害に至るケースもあります。厚生労働省の調査によると、職場生活におけるストレス原因のトップは人間関係によるもので、適応障害の発症につながるケースも多いと考えられます。*1

代表的な原因の一つが各種のハラスメントです。ハラスメントを防止するには、まず組織としてハラスメントを許さないことを周知徹底する必要があります。また、社内研修や資料配布などによって啓もうします。

上司や部下との折り合いが悪いことも適応障害につながりやすい原因です。この場合の最終的な解決策は配置転換です。ただし、簡単に配置転換できないケースも多いため、まずは個別に話し合いの場を設けたりするなどして関係修復を図ることも必要でしょう。

◇原因が業務内容にある場合

―業務内容が変わったことで適応障害を引き起こすケースがあります。例えば、人員削減によって残業時間が大幅に増えた場合です。このような場合は、勤怠管理を適切に実施したり、人員を補充したりするなど対策をとることになります。

また、仕事のモチベーションが上がらない場合に適応障害につながる場合もあります。例えばコミュニケーションが苦手なのに営業職を任せられた、持っている資格を生かせない部署に配属になった、といったように、自分の特質と合っていないと感じたり、やりがいが感じられなかったりする場合です。こうした際は事業者側が許容できる範囲で、本人の希望に沿った業務内容に変更していくことになるでしょう。

医療機関の受診を勧める

ストレスの原因を取り除けるように対処しても、心の不調が改善されない場合は、外部の医療機関の受診を勧めます。この際も本人の意思を尊重し、受診を強制しないように注意してください。また、必要に応じて産業医や医師に相談して、受診の必要があるか確認しておきましょう。

休職を促す

従業員が働き続けると、さらに症状が悪化すると考えられる場合は、休職を促します。休職措置は事業者の義務ではありませんが、従業員の健康を守る観点から、就業規則等の社内ルールに則り対応します。

◇適応障害の従業員が復職する際の支援

―適応障害の従業員が復帰する際には、事業者からの支援が望まれます。適切な支援によって職場復帰がスムーズになり、再び適応障害になるリスクも低減できます。

支援内容は当該従業員の状況や業務内容によって変わるため、一様に扱えませんが、多くの場合に共通する支援策の例は、次のとおりです。

  • 医師・家族の連携体制を整えておく

客観的に症状を把握できる従業員の主治医、産業医、家族と連絡を取り、アドバイスをもらえる体制を整えます。

  • 業務内容を見直しておく

ストレスの原因になっている業務内容があれば、可能な範囲で見直しを検討します。また、精神的、体力的に負担がかかる業務がないか確認しておきます。

  • 職場の人に協力を求める

主治医や産業医、家族から従業員との接し方の注意点を確認して、職場の上司や同僚に知らせます。プライバシーは十分に保護しなければなりませんが、完全に回復していない場合は周囲の理解と協力が欠かせません。

  • リハビリ勤務期間を設ける

就業規則に時短勤務などの定めがあれば、復帰後しばらくは短時間労働などのリハビリ勤務期間を設ける事も可能です。徐々に慣れることで、従業員の負担と再発リスクを減らせるかもしれません。

もし、就業規則にそういった定めがない、あるいは業務上時短勤務等が難しい場合には、期間を定めて時間外労働を禁止するといった措置が有効です。

適応障害を未然に防ぐために事業者が取り組むべき心の健康対策

職場での適応障害防止

適応障害を未然に防ぐためには、事業者、従業員、産業医、外部機関がかかわる総合的なメンタルヘルスケアを、継続的に、計画的に行うことが重要です。このメンタルヘルスケアを厚生労働省は「4つのケア」と呼んで推奨しています。活動内容と主な担当者をまとめたものが以下の表です。*1

種類活動内容主な担当者
セルフケア従業員が自分のストレスを知り、対処する方法を教える従業員
ラインによるケアメンタルヘルスケア計画の作成 職場環境や労働状況の把握 復職支援などメンタルヘルスケアの管理担当者
事業場内産業保健スタッフなどによるケア企業に対する助言、指導産業医、産業保健スタッフなど
事業場外資源によるケア外部専門家による支援地域産業保健センターなどの支援機関 外部の医療機関

4つのケアを実行していくために、事業者には以下の取り組みが求められています。*1

  1. 心の健康計画の策定
  2. 関係者への事業場の方針の明示
  3. 労働者の相談に応ずる体制の整備
  4. 関係者に対する教育研修の機会の提供など
  5. 事業場外資源とのネットワーク形成

次項より、主な施策について具体的に解説していきます。

「心の健康づくり計画」の策定

「心の健康づくり計画」とは、メンタルケアの基本方針や目標、推進体制、担当者、取り組み内容などをまとめた計画書です。心の健康づくり計画はメンタルヘルスケアを継続的、計画的に実施するために欠かせません。法律上の義務はありませんが、計画作成は厚生労働省から推奨されています。

心の健康づくり計画に含めるべき内容は次の7項目です。*1

  1. 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
  2. 事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
  3. 事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
  4. メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
  5. 労働者の健康情報の保護に関すること
  6. 心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
  7. その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること

心の健康づくり計画は全社的な取り組みが必要で、かつ現場の実態に合った内容にしなければなりません。そのため、心の健康づくり計画は衛生委員会などで事業者と労働者が十分審議を重ねたうえで策定します。

ストレスチェックの実施

ストレスチェックの実施は4つのケアの起点となる重要な施策です。例えばストレスチェックをきっかけに従業員が自身のストレスに気付き、セルフケアを行う機会を与えます。

ストレスチェックの実施は、常時50人以上の従業員がいる事業場で義務となっています。次の順序で実施していきましょう。

1.準備・事業者による基本方針のアナウンス ・実施内容を労働者に説明する
2.ストレスチェック実施・産業医などによる実施 ・結果集計、分析 ・結果通知 ・高ストレス者に面接申し出を推奨する
3.面接指導・高ストレス者への面接指導 ・必要に応じて外部医療機関を紹介
4.全体の評価・産業医からの意見聴取 ・メンタルヘルス不調への早期段階での気付きと対応

過重労働者への面接指導と長時間労働の改善

過重労働者への面接指導は適応障害の予防に重要です。過重労働者は脳・心臓疾患だけでなく、精神障害を起こしやすいことが認められているからです。また、過重労働者への面接指導は労働安全衛生法第66条、労働安全衛生規則第52条で義務となっています。*2

事業者は面接指導を次の流れで実施します。

  1. 労働時間に関する情報を産業医に提供する
  2. 法令、自社基準によって対象者を選定する
  3. 面接指導実施を従業員に通知する
  4. 医師による面接指導実施(選任した産業医による実施が推奨されている)
  5. 医師から意見聴取して事後措置を実施
  6. 措置内容の記録・保存

労働者からの相談対応・職場環境などの把握と改善

労働者の心の健康にはさまざまな要素が影響します。例えば次のような内容です。

  • 労働時間
  • 作業環境・作業方法
  • 業務の質(責任の度合いやモチベーションの有無など)
  • 各種ハラスメントを含む職場の人間関係
  • 組織体制(人事評価、労務管理など)

このため事業者は問題点を把握し、改善を図れる仕組みを整える必要があります。ストレスチェックや面接指導などの法令を守るだけでなく、日頃から職場管理や健康相談、保健指導を行っていくことが重要です。その取り組み例として、次にメンタルヘルスケア研修と相談窓口の設置について解説します。

メンタルヘルスケア研修の実施

メンタルヘルスケアに関する教育研修は、メンタルヘルスケアの大切さを理解してもらうために重要です。研修例は以下のとおりです。

研修内容対象者
セルフケア研修セルフケアの基礎知識 産業医、相談窓口の活用案内 など全社員 新入社員・中途採用者
ラインケア研修メンタルヘルス不調の予防・対策法の研修 労働状況の把握、復職支援、部下からの相談対応などの方法メンタルヘルスケアの管理監督者 管理職
ハラスメント研修各種ハラスメントの基礎知識 ハラスメント防止の啓もう全社員

相談窓口の設置

従業員からの健康相談や保健指導に対応する相談窓口を設けることも重要です。相談内容や状況に応じて産業医を始めとした担当者が適切に対処できれば、適応障害を早期に発見し、深刻化させない効果が期待できます。

パワーハラスメントの相談窓口については設置が義務付けられています。2022年4月1日からパワーハラスメント防止措置が全事業者の義務となり、これに伴い次の対策が求められています。*3

  • 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
  • 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること

まとめ

適応障害は周りの環境や出来事にうまく適応できないストレスから、心身の不調に陥る病気です。従業員のパフォーマンス低下や休職につながりかねないため、企業としては早期に気付き、対処していく必要があります。

メンタルヘルスケアの要となるのが産業医です。高ストレス者や過重労働者への面接指導、従業員からの相談対応など、さまざまな活躍が期待できます。自社に合った産業医を見つけるには、多数の医師が在籍している産業医紹介サービスの利用がおすすめです。

*1 厚生労働省 「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」

*2 厚生労働省 「医師による長時間労働面接指導マニュアル」p.3

*3 厚生労働省 「2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!」

 

株式会社メディカルトラスト 編集部

執筆者株式会社メディカルトラスト 編集部
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2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

最適な産業医をご紹介・サポートいたします

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