メンタルヘルス対策における産業医の役割と面談の内容について紹介

職場で起こるメンタルヘルス問題は、長時間労働や雇用形態の複雑化を始めとする職場環境の問題や従業員がプライベートなどで抱える問題など、さまざまな事柄が要因であると考えられます。一方産業医は、時に複雑な事業場のメンタルヘルス上の問題点を専門家の視点から把握、分析することによって、従業員の不調を未然に防ぐ役割が期待されています。

事業者が実施すべきメンタルヘルスケアにおいて、産業医はどのような役割を担うのでしょうか。具体的な内容や産業医面談が社内に及ぼす影響について詳しく解説します。

職場におけるメンタルヘルスケアと産業医の関わり

2019年4月1日に施行された働き方改革関連法では、産業医や産業保健機能の一部が見直され、機能の強化が図られました。産業医面談の対象が拡大するなど、事業場では産業保健機能の拡充が求められるとともに、メンタルヘルスケアの重要性もよりいっそう高まっています。

産業医は労働安全衛生法13条3項において、「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。」ものと定められています。*1 この規定のもとに、産業医面談や衛生委員会への参加などの業務を通じ、働く人の心身の健康を管理することがその役割です。事業者が行うメンタルヘルス対策においても、中心的な役割を果たすことが望まれます。

事業者と産業医によるメンタルヘルス対策の進め方と留意点

メンタルヘルス対策を実施するにあたって、事業者は衛生委員会または安全衛生委員会を通じて調査・審議 を行い、事業場全体のメンタルヘルスに関する実態や問題点の把握を行います。そして問題を解決するための基本計画として、ストレスチェック制度の実施に関する規定なども組み入れた「心の健康づくり計画」を策定します。*2 一方産業医は、衛生委員会に参加、意見を述べるとともに従業員からの申し出があれば従業員が抱える問題に産業医面談で対応し、リスクの所在を把握・分析して必要な対策を講じます。

事業者と産業医が行う健康管理の大きな目的の一つは、メンタルヘルス問題の予防です。ただし、ここでいう「予防」は問題の発生をゼロに抑えるということではありません。またメンタルヘルス問題は、その程度や生じる期間などの差が大きく、職場への影響も異なります。そこで、問題の発生を最小限にするための対策を段階的に講じます。*3

  • メンタルヘルス問題を未然に防止すること…一次予防
  • メンタルヘルス問題が生じたら、悪化を防止し治療を行わせること…二次予防
  • メンタルヘルス問題が生じた後、スムーズに復職させ、離職を防ぐこと…三次予防

一方メンタルヘルス問題に取り組む上では、問題の特性を理解し、次のような点に十分留意する必要があります。*3

  1. 心の問題には個人差が大きいこと
  2. 個人情報には配慮が必要であること
  3. 職場での人事労務管理との連携が必要であること
  4. 職場以外の問題もメンタルヘルスに大きく影響を及ぼし得ること

メンタルヘルス問題は時に原因が複雑であり、個人差や職場以外の環境も影響するため、多角的な対応を行うことやきめ細かいケアが求められます。

メンタルヘルス対策で実施すべき4つのケア

メンタルヘルス問題には問題の当事者、事業場内の関係者、さらに事業場外からのケアが必要であるとされ、以下の4つのケアが継続的に行われることが重要です。*3

  • セルフケア
  • ラインによるケア
  • 事業場内産業保健スタッフなどによるケア
  • 事業場外資源によるケア

中でも事業場内産業保健スタッフの一人である産業医は、事業場におけるケアを実現するために重要な役割を担います。産業医は業務内容や事業場の環境をよく知った上で、医療の専門家としての意見を述べることができます。また職務上、各方面に協力を求めることも可能です。産業医が事業場の内外を問わず関係者をつなぐことで、連携的で継続的なケアが可能となるでしょう。

メンタルヘルス対策における産業医の主な職務

メンタルヘルスにも貢献する産業医

産業医が実施するメンタルヘルス対策は事業所内で行うものが中心です。面談やストレスチェック、事業者への意見や従業員へのアドバイスなど、多岐にわたる職務内容の代表的な例を以下に紹介します。

従業員との面談

従業員との面談は産業医の職務時間の多くを当てる重要な業務の一つです。面談が行われる場面を具体的に見ていきます。

◇長時間労働者への面接指導

―労働安全衛生法の定める、原則として時間外・休日労働時間が月80時間以上で、かつ疲労が蓄積されていると認められる長時間労働者には産業医・医師による面接指導が行われます。*4  面談では従業員の心身の不調の有無のチェックや働き方への指導を行い、メンタルヘルス問題の発生の予防に活かします。

◇健康診断後の面接指導

―健康診断後、異常所見が認められた従業員に対して面接指導を行います。異常の所見があった従業員については、3カ月以内に医師による意見を受けさせるのが事業場の義務です。*5  産業医は従業員に所見に関する質問を行い、場合によっては医療機関の受診を勧奨します。事業場に対しては「通常勤務可能」「就業制限」「要休業」といった意見書を作成します。

◇ストレスチェック後の面接指導

―ストレスチェックの実施は、事業場に法令で義務付けられています。高ストレス者と判断された従業員への面接指導も法令上の義務です。産業医は従業員のストレスの状態を把握するための質問を行い、場合によっては生活指導や働き方の指導、医療機関の受診勧奨などを行います。

◇復職面談

―法令上の義務ではありませんが、休職中の社員が復職する時には産業医との面談を実施する事業場が多く見られます。面談では従業員に対して生活の様子や通院、服薬の状況について質問をします。産業医は事業者に対し、面談した従業員の復職が可能か、意見を述べることができます。

◇従業員が産業医との面談を希望した場合   

―長時間労働者や高ストレス者ではなく面談義務がない場合も、従業員が希望すれば産業医面談が実施できます。日頃から産業医との面談を活用することでメンタルヘルスの維持向上に役立てられる点などを、従業員に周知しておくと良いでしょう。

◇従業員が面談を拒否した際の対処法

―従業員が産業医との面談を拒否した時は、事業場側は当該従業員に強制することはできません。しかし事業者は高ストレス者や健康診断で異常所見があった場合など、一定の者には法令により面接を受けさせる義務があります。放置すれば安全配慮義務違反となり得るため、対策が必要です。そこで、日頃から以下の3点を社員に周知しましょう。

  1. 産業医の面談には健康増進や生産性向上といったメリットがあること
  2. 産業医には守秘義務があるので安心して話せること
  3. 評価などにマイナスの影響が出るなどの不利益が生じないこと

また面談の日程を複数提示する、上長の協力を求めるなど、面談を受けやすくなるような働きかけを行うことも重要です。併せて、事業者側が安全配慮義務を果たしたことを証明するためにも、こうした働きかけを行った記録を作成しておきましょう。

ストレスチェックの実施

ストレスチェックの実施はメンタルヘルス対策の一つで、事業者に義務付けられているものです。*6  産業医との契約内容によりますが、産業医はストレスチェックの実施者になれるため、実施を依頼できます。実施の対象となるのは常時雇用されている労働者が50人以上いる事業場で、対象者は常時雇用されている労働者です。パートや派遣社員も一定の条件のもと対象となります。

ストレスチェックでは、以下の3つのチェック領域のうちいずれかで高いポイントが記録されれば高ストレス者と選定されます。高ストレス者には産業医など医師による面接指導を受けさせることが事業場の義務です。

  1. 心理的な負担
  2. 心身の自覚症状
  3. 職場における支援の不足

管理職との面談

メンタルヘルスの不調を抱える従業員への面談だけでなく、管理職との面談も行います。事業場をとりまとめる管理職と、ラインケアや職場環境の改善などの相談を行う面談です。

健康管理体制を整備するためのアドバイス

ストレスチェックの実施、復職プログラムの策定、健康管理体制の構築などの際に、事業者にアドバイスをすることも産業医の役割です。

衛生講話・社内報

衛生講話とは産業医が、健康管理や衛生管理を目的に従業員に向けて実施する研修のことを言います。産業医との契約内容次第ですが、事業者は産業医に衛生講和を依頼することができます。定期的に実施することで、従業員の健康意識の向上につながるでしょう。また、社内報などに掲載するメンタルヘルスにまつわるコラムなどを産業医に執筆してもらう場合もあります。こうしたメンタルヘルス教育も産業医の大事な役割の一つです。

メンタルヘルス対策における産業医面談の役割と必要性

産業医が担うメンタルヘルス対策の中でも特に重要なのが、産業医と従業員の面談でしょう。これまで見てきたように、産業医面談はメンタルヘルス不調の予防に向けた施策の一つであり、結果的に従業員の離職率の低下や生産性の上昇などの効果が見込めます。またそれぞれの予防段階において、問題の発生を最小限にするためにも大きな役割を果たすでしょう。

事業者が従業員の就業に関する判断を下す際、従業員との面談後に産業医が寄せる意見は事業者にとって大きなサポートとなります。事業場内にある問題を早期に発見したり、事業場が抱える問題を解決したりする際にも役立つはずです。

※産業医面談の内容の詳細を知りたい方は下記の記事を併せてご覧ください。

産業医面談の実施による従業員のメンタルヘルスに及ぼす影響

産業医によるメンタルケア

産業医面談は、メンタルヘルス対策の中でも従業員に直接的な影響を及ぼしやすいものといえます。最後に、産業医面談のメリットを紹介します。

休職・離職率の低下

面談で産業医と話したり、指導を受けたりすることで、社員の生活習慣が良い変化が生まれる場合があります。心身の健康が維持されれば、従業員のストレス低下や、ひいては全体のストレス指数の低下が期待できます。結果として休職や離職率の低下につながるでしょう。

※従業員の休職とそれに伴う産業医の役割を知りたい方は下記の記事を併せてご覧ください。

生産性の向上

産業医との面談を行い健康的に働けるようサポートを受けることで、ストレスが緩和され、従業員の士気の向上、企業全体の生産性の向上を見込むことができます。産業医は従業員の業務内容や職場環境をよく知るため、産業医と話す機会は、従業員の満足度にもプラスの影響を与えるはずです。

まとめ

メンタルヘルス対策における産業医の役割と、メンタルヘルス対策の柱である産業医面談の内容などについて紹介してきました。メンタルヘルスの問題は、人材確保や離職予防など、経営戦略に大きな影響を与える課題でもあります。ぜひ医学の専門家である産業医の意見やアドバイスを有効活用し、課題を解決していきましょう。

*1 e-Gov 労働安全衛生法13条3項

*2 厚生労働省 労働者の心の健康の保持増進のための指針

*3 厚生労働省 「職場における心の健康づくり」

*4 e-Gov 労働安全衛生法第66条の8の4

*5 e-Gov 労働安全衛生規則第51条の2

*6 e-Gov 労働安全衛生法第66条の10

 

株式会社メディカルトラスト 編集部

執筆者株式会社メディカルトラスト 編集部
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2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

最適な産業医をご紹介・サポートいたします

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