ワクチンで予防できる病気は?従業員の健康のために知っておきたい知識を薬剤師が解説

新型コロナウイルス感染症の影響で、企業の感染症に対する取り組み方は大きく変化しました。
マスクの着用や手指洗浄の徹底はもちろんのこと、従業員にワクチン接種を推奨した企業も多いことでしょう。

もっとも、新型コロナウイルス感染症以外にもワクチンで防げる病気(Vaccine Preventable Diseases:VPD)は多数あります。そして、VPDのなかには職場での感染リスクが高いものも少なくありません。

そこで今回は、働く世代の方が罹患しやすく、重症化リスクの高いVPDを紹介するとともに、従業員をVPDから守り健康経営につなげる取り組みをいくつか提案します。

図:大人の予防接種スケジュール

大人の予防接種スケジュール
オトナのVPD|思春期から高齢者までの予防接種とワクチンで防げる病気情報
「オトナの予防接種スケジュール」

働き盛りの世代が罹患しやすく重症化リスクの高いVPD

VPDには、ヒトからヒトへ感染するもの(飛沫感染・接触感染など)・免疫力の低下で発症しやすくなるもの・蚊などを介して感染するものなどさまざまなタイプがあります。
ここでは、飛沫感染や接触感染で罹患するおそれのあるVPD、免疫力の低下で発症リスクが高くなるVPDを中心に、感染経路や特徴などをまとめます。

すべての職場で注意すべきVPD

季節性インフルエンザは、年代に関係なく罹患するリスクがあるVPDです。
特に、シニア層や基礎疾患のある人はインフルエンザに罹患すると重症化しやすいため、職場全体で予防することが大切になります。

インフルエンザ  インフルエンザワクチンで予防可能
【感染経路】飛沫感染、接触感染

【特徴】高齢者や基礎疾患のある人は重症化リスクが高い。妊婦が感染すると、重症化しやすく早産のリスクも高い。

妊婦および妊娠を希望している女性のいる職場で注意すべきVPD

妊娠中の女性は、生ワクチン(病原性を弱めた病原体を原材料とするワクチン)を接種できません。
そのため、妊娠中の方や妊娠を希望している女性のいる職場では、生ワクチンを接種しないと予防できない病気(麻しん・風しん・水ぼうそう(水痘)・おたふくかぜなど)が流行しないように注意する必要があります。

麻しん(はしか)  MRワクチン(麻しん風しん混合ワクチン)で予防可能
【感染経路】空気感染、飛沫感染、接触感染

【特徴】非常に感染力が強い。妊娠中の感染は早産流産のリスクが高まる。妊婦の重症化リスクも高い。
風しん  MRワクチン(麻しん風しん混合ワクチン)で予防可能
【感染経路】飛沫感染

【特徴】感染力が強く、職場での集団発生例もある。妊婦が感染すると、胎児に先天性の障害が生じることがある。ワクチンの定期接種の機会がなかった人(女性:1962年度より前に生まれた人、男性:1979年度より前に生まれた人)は、特に注意が必要。
水ぼうそう(水痘) 水痘ワクチンで予防可能
【感染経路】空気感染、飛沫感染、接触感染

【特徴】非常に感染力が強い。妊娠中の感染は流産のリスクが高まる。妊婦の重症化リスクも高い。妊婦が感染すると、胎児の四肢の低形成などが生じることがある。
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎) おたふくかぜワクチンで予防可能
【感染経路】飛沫感染、接触感染

【特徴】難聴や無菌性髄膜炎、脳炎、精巣炎、卵巣炎、膵炎などの合併症を起こすことがある。任意接種のため、どの世代もワクチン接種率が低い。罹患歴のない人やワクチン未接種の人は特に注意が必要。

中高年の従業員が多い職場で注意すべきVPD

中高年になり免疫力が低下すると、ワクチン接種歴や罹患歴がある病気でも罹患することがあります。
症状が長引くこともあるため、可能であればワクチンで予防することをおすすめします。

百日咳  四種混合ワクチン、三種混合ワクチンで予防可能
【感染経路】飛沫感染、接触感染

【特徴】感染力が強い。年齢とともに百日咳に対する免疫力が低下するため、ワクチン接種歴があっても罹患することがある。
ワクチン未接種の新生児や乳児が感染すると重症化して死亡することもあるため、まわりがうつさないようにすることが重要。
帯状疱疹 帯状疱疹ワクチン、水痘ワクチンで予防可能
【感染経路】帯状疱疹が人から人へうつることはない。水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化することで発症する。

【特徴】疲労や加齢にともなう免疫力低下で発症。帯状疱疹後神経痛は長期間続くこともある。
帯状疱疹が原因で、身近な人が水痘に罹患することもある。50歳以上を対象としたワクチンがある。
肺炎球菌感染症 肺炎球菌ワクチンで予防可能
【感染経路】飛沫感染

【特徴】気管支炎や肺炎、敗血症などの合併症をまねくことがある。インフルエンザ罹患後に併発する場合がある。
65歳以上の人や、60歳以上65歳未満で肺炎球菌による病気の罹患リスクの高い人は、肺炎球菌ワクチンが定期接種とされている。

ワクチン接種サポートのために企業ができること

それでは、従業員のワクチン接種をサポートするために、企業はどのようなことに取り組めばよいのでしょうか。
ここからは具体的な施策をいくつか提案します。

事業所内接種を導入する

ある程度まとまった人数でワクチン接種を受ける予定がある場合は、事業所内接種を導入してみてはどうでしょうか。
事業所内接種ならば、職場でワクチン接種が受けられるため接種率の向上が期待できます。また、有給や特別休暇などを付与する必要もありません。
ただし、実施にあたっては医療機関との手続きが必要です。手続きに時間がかかる場合もあるため、対応の可否も含めて早めに依頼予定の医療機関に相談するようにしましょう。

自治体などの助成が受けられるワクチン接種を周知する

ワクチンによっては、自治体の助成が受けられる場合があります。また、企業が加入している健康保険組合の助成が受けられる場合もあります。

そこで、助成の対象となるワクチンがある場合は、助成の範囲(本人のみなのか、被扶養者も助成を受けられるのか、など)・助成額なども含めて従業員に周知することをおすすめします。

ワクチン接種が助成の対象となっていることを知れば、ワクチン接種を希望する従業員も増えると考えられます。また、VPDに対する関心も高まるでしょう。

ワクチン接種のための外出を認める・特別休暇を付与する

従業員のワクチン接種をサポートするためには、ワクチン接種を受けやすい環境を作ることも大切です。
例えば、勤務時間中にワクチン接種を受けるための外出を認めるのも方法の一つでしょう。

その他、50歳になったら帯状疱疹ワクチン接種のための特別休暇を付与する・婚姻時に希望に応じてワクチン休暇を取得できる、などの方法でもよいかもしれません。
このように、従業員がワクチンを接種する「きっかけ」を作ることも、企業の重要な責務といえます。

社内報などでVPDの情報を提供する

社内報などで感染症やワクチン接種に関する情報を提供することも、企業全体のVPDに対する意識を高めるためにとても有用です。
産業医や外部機関に依頼して、ワクチン接種や感染症に関する勉強会を開くのもおすすめです。健康診断の結果を踏まえて、基礎疾患のある従業員に抗体検査やワクチン接種を推奨するのもよいでしょう。

海外赴任者のワクチン接種をサポートする

従業員の海外出張・海外赴任がある場合は、渡航先の感染症流行状況に応じて従業員にワクチン接種をすすめてください。
最終的にワクチン接種を受けるかどうかは従業員本人が決めなければなりません。

しかし、海外渡航者向けのワクチン接種に対応している医療機関の紹介・渡航先の感染症流行状況・感染症やワクチンに関する情報などを提供することは、従業員を感染症から守ることにつながります。

健康経営への取り組みは従業員と二人三脚で

企業内での感染症の流行を防ぐこと・ワクチンで病気を予防することは、健康経営のためにも、そして生産性の向上を目指すうえでもとても重要です。

だからといって、ワクチン接種を従業員に強制することはできません。従業員のなかには、副反応に対する不安からワクチン接種を希望しない人もいるでしょう。
また、アレルギーなどが原因でワクチン接種ができない人もいます。
一方で、全従業員がワクチンを接種しなくても、「集団免疫」を獲得すれば感染症の流行を阻止することは可能です。

健康経営は、企業側の都合だけで成り立つものではありません。ワクチン接種を健康経営の一環として取り入れるのならば、接種を希望しない従業員の気持ちや意見にも配慮し、すべての従業員が不安なく業務に従事できる環境づくりを目指してください。

中西真理

執筆者中西真理
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公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

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