風疹は、風疹ウイルスによる感染症です。妊婦が感染すると生まれてくる子どもに影響が出ることもあり、職場でも感染対策が重要ですが、男性の中には定期予防接種の対象となっていなかった年齢層がいます。
企業にとって、風疹についての知識を深め、必要な人が予防接種などの対応をすることは、従業員の健康を守るという観点からも大切だと考えられます。
そこで今回は、風疹という病気がどのようなものか解説し、また厚生労働省による風疹の対策についてもご紹介します。
目次
風疹とは?
では、まず初めに風疹とはどのような病気なのかを解説していきます。
(1)風疹とは?どのような症状がでる?
風疹は、風疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。
風疹への免疫がない場合には、1人の風疹患者から5〜7人に感染をひろめるといった強い感染力をもっています。
インフルエンザでは、1人の患者からの感染者が1〜2人であることと比較すると、いかに風疹の感染力が強いかがわかるかと思います。
風疹の症状の特徴は、発熱、発疹、リンパ節の腫れの3つです。
感染してから2〜3週間の潜伏期を経て、発熱、発疹、リンパ節の腫れの症状が出るというのが典型的です。
不顕性感染、つまり症状が出ないことが15〜30%ある一方、重い合併症を併発(へいはつ)することもあります。
風疹は、風疹ウイルスを含んだ飛沫(咳やくしゃみ、会話などで飛び散るしぶき)を吸い込んで感染します。
風しんの発症予防には、風疹の予防接種である風疹ワクチンが有効とされています。
手洗いやうがい、マスクの装着では、風疹の予防手段としては十分とはいえません。
もし風疹に感染した場合、特効薬はありません。
発熱や関節炎などの症状に対して、その症状を和らげる解熱鎮痛薬の内服が治療方法となります。
(2)風疹の予防接種を受けていない世代がある?風疹ワクチン接種事情について
先ほど述べたように、風疹の予防のためには、弱毒化生ワクチンが実用化され、広く用いられています。
日本では1977(昭和52)年8月〜1995(平成7)年3月までは中学生の女子のみが風疹ワクチン定期接種の対象でした。
法律の改正によって1995(平成7)年4月からその対象は生後12カ月以上〜90カ月未満の男女(標準は生後12カ月〜36カ月以下)に変更になりました。
また経過措置として、12歳以上〜16歳未満の中学生男女についても接種の対象とされました。
その後、さらなる制度改正により、1979(昭和54)年4月2日以降に生まれた人は男女とも予防接種を受けるようになり、現在にいたります。
1979(昭和54)年4月1日以前に生まれた男性は、こうした公的な風疹の予防接種の機会がなかったため、風疹の免疫(抗体)を持っていない人が多いと言われています。
以下の図は、男女の予防接種を受けた回数と、抗体保有率、つまり感染をしても発症を防ぐことができる可能性が高いかどうか、を表したものです。
2021年5月時点でのデータということに注意は必要ですが、2023年2月時点でも大きな差はないと思われます。
一回も予防接種を接種していない世代は、抗体保有率が他の世代に比べて低く、特に同年代の女性よりも約20%弱低い、ということが読み取れます。
妊婦が風疹にかかると「先天性風疹症候群」の児が生まれる恐れも
風疹の怖さは、妊婦が感染すると、胎児にも影響があるということにもあります。
(1)先天性風疹症候群とは
風疹に対する免疫が十分でない、妊娠20週頃までの女性が風疹ウイルスに感染すると、下の図に示すように、眼や心臓、耳等に障害をもつ児が出生することがあります。
このように、胎児が母体の風疹感染によって生じる様々な症状のことを、「先天性風疹症候群」と呼びます。
そのため、男女ともに風疹ワクチンを受けて、まず風疹の流行を抑制することが大切です。
そして、女性は感染予防に必要な免疫を妊娠前に獲得しておくことが重要となります。
(2)風疹の大流行は周期的にみられている
風疹は、1990年代前半までは、日本でも5〜6年ごとに大規模に流行していました。
その後、男女の幼児が定期接種の対象になり、周期的な流行はみられなくなりましたが、2011(平成23)年のアジアでの大規模な風疹の流行の影響で、海外で感染を受けて帰国した後に風疹を発症する成人男性が多く発生します。
また、その職場での集団発生も散発的に報告されるようになり、国内での風疹の患者数も2012(平成24)年〜2013(平成25)年にかけ急増しました。
この流行期間での報告患者のうち9割は成人で、男性が女性の約3.5倍でした。
年齢は、男性では20〜40代に多く、女性は20代に多いという分布でした。
(参考:国立感染症研究所 風疹とは)
妊娠出産する世代の周辺でも風疹が流行したため、多くの先天性風疹症候群も発生してしまいました。
この、2012〜2013年にかけての風疹の大流行の特徴は、下記のようにまとめられます。
では、現在の風疹の流行状況についてはどのようになっているのでしょうか。
以下に、2022年11月時点までの風疹や先天性風疹症候群の報告数のグラフを示します。
2013年ほどではありませんが、2018年から2019年にかけて流行が報告されました。
また、散発的にではありますが、先天性風疹症候群の報告もみられています。
このように、今後も風疹の感染状況には注意していく必要があると考えられます。
なぜ職場での風疹対策が必要なのか?追加的な風疹対策についても解説
ここまで、風疹の予防接種を受けていない世代があることや、妊婦が風疹に感染した場合には、胎児にも影響が出る可能性があるということを説明してきました。
そこで、いろいろな人が集まる職場でも、風疹への対策が必要となります。
(1)職場での風疹予防対策が必要な理由は?
先ほど、1962年から1976年生まれの男性については、一度も風疹ワクチンを定期接種として受ける機会がなかったと述べました。
つまり、2023年現在で、47歳から61歳までの男性については、風疹に対する免疫がついていない可能性が高いということがいえます。
この世代の男性は、ちょうど職場でも中間層から役職のある立場にあり、仕事の面でも重要な役割を果たしていることが多いと思います。
また、職場には妊娠や出産を希望する女性もいるので、妊婦の風疹予防や、先天性風疹症候群の予防という観点からも、職場として風疹の予防対策が必要になるといえるでしょう。
(2)職場での風疹対策は?
職場での取り組みとしては、以下のようなことが呼びかけられています。
こうしたことに、事業主や産業保健スタッフの職員などは気をつけると良いでしょう。
なお、上記の3の、休暇について補足します。
2023年現在、風疹は感染症法上は5類感染症です。
そのため、感染症法上は就業制限、つまり仕事をすることに対する制限はありません。
しかし、風疹については、感染が職場で広まることのリスクも想定し、主治医や産業医などの判断も踏まえて欠勤の基準をあらかじめ決めておくことが望ましいと考えます。
また、風疹についての知識を広めることや、風疹やその抗体検査、ワクチンなどについての相談窓口を用意しておくことも有効です。
なお、風疹の感染リスクが高いと考えられている職場の特徴として、以下のようなものが「職場における風しん対策ガイドライン」にあげられています。
自身の職場が上記に該当する場合は、特に注意を払う必要があるでしょう。
(3)厚生労働省による風疹の追加的対策について
現在、昭和37年度から昭和53年度生まれの男性の方に対して、住んでいる自治体から原則無料で風疹の抗体検査と予防接種が受けられるクーポン券が送付されています。
今まで、定期接種として風疹の予防接種を受ける機会がなかった世代の接種率をあげることで、2024年度末までに、対象世代の男性の抗体保有率を90%に引き上げることを目標としています。
また、先天性風疹症候群の予防には、妊婦が風疹に感染しないことが必須です。
しかし、妊娠中は、風疹の予防接種を受けることができません。
そこで、妊娠を希望する人は事前に抗体がついているかを調べておくことも有効であり、現在、多くの自治体では無料で抗体検査を実施しています。
職場としては、国によりこうした追加的な対策が取られていることを職員に周知し、そのための休暇なども取りやすい環境を整えていくことも重要と考えます。
まとめ
今回は、風疹とはどのような感染症なのか、職場としての対策がなぜ必要なのか、そしてその対策について解説しました。
風疹は今後も流行する可能性がありますので、日頃からしっかりと備えをし、感染予防に努めていきましょう。