子育てしない人は「ずるい」?育児休暇取得で募る不安と焦り

働きやすさが重視される昨今、産休や育児休暇の取得率を上げ、その後の職場復帰をいかにスムーズにするかは、多くの企業に共通する悩みだろう。
最近は男性の育児休暇にも注目が集まっており、「子育てがキャリアに不利にならないようにすべき」という圧は強くなっている。

とはいえ人の気持ちとはむずかしいもので、たとえ産休・育休を取得できても、仕事に注力できない状況をもどかしく思う人もいるわけで……。

さて、産休や育休など、子育てのために一度仕事を離れる人には、どんなケアが必要なのだろうか。

ゲームでうまい人は「ずるい」のか?

突然だが、ゲーム友だちのAさんの話をしたい。
Aさんはアラフォーの女性で、仕事と家事のあいまにログインするくらいのライトプレイヤー。そのAさんがふと、こんなことを言っていた。

「最新のレアアイテムがほしいけど、そのためには強いボスを倒さなきゃいけない。倒せるのは、何回もトライする時間がある人か、もともとうまい人だけ。わたしみたいなプレイヤーには無理。ずるい」

わたしはなにがずるいのかさっぱりわからず、聞き返した。

「そりゃ、時間をかけられる人、うまい人がクリアするのは当然じゃないですか?」
「でもわたしはそんなにゲームに時間を割けないから、ずっと手に入らないんだよ」

「まぁ……時間つくって練習するしかないですね」
「空いた時間にちょっとインするだけだから、それは無理」

「じゃあ、諦めるしかないんじゃないですか」
「ひどくない? 同じお金出して同じゲームしてるのに、レアアイテムを手に入れられない人がいるなんて」

「それはしょうがないですよ、みんなが持ってたらレアアイテムじゃなくなるし」
「そういうことじゃなくて、手に入れる機会があるかないかで、不公平じゃないかなって。同じだけの時間があったら、わたしだって手に入れられるのに」

彼女の言いたいことは理解したが、その気持ちにはまったく共感できない。

どんなゲームでも、不公平が当たり前だ。
課金すればするほど強くなるゲームがその典型で、「課金している人としていない人で差があるのはおかしい」なんて言う人はいない。

プレイヤーのあいだに差があるからこそ、さらにうまくなりたい、レベル上げしたい、そういう気持ちになるのだ。

わたしはそこそこのやりこみ勢で、Aさんとの話題に上がったボスも倒している。
でもそれは何時間もひたすら失敗を繰り返し、何度も何度も努力した結果。そういった努力なしにレアアイテムをほしがるAさんに、正直ちょっとイラっとした。

こっちがどんだけ大変な思いをして手に入れたのか、わかっているのか?と。

……そう思っていたのだが。
そういえばこれ、育児休暇を取った友だちも同じようなこと言っていたなぁと思い出した。

仕事から離れ、努力する土俵に立てないもどかしさ

まだ首が座らない娘の育児に奮闘している、育児休暇中のBちゃん。
息抜きにちょっと電話でもと、この前久しぶりにLINE通話をした。

そのときBちゃんが、ゲーム友だちのAさんと、似たようなことを言っていたのだ。

「わたしがおむつを替えているあいだ、同期が大きな仕事任されてるんだと思うと、落ち込んでくる」
「あ~育休取った人はそういう気持ちになるってよく聞くなぁ」

「たとえ職場に戻っても、わたしの代わりにわたしの仕事をしている人がいるからさ」
「うんうん」

「やっぱり元通りってわけにはいかないよね」
「まぁ、そうかもしれない」
「なんかちょっと悲しいよね、育児してない人は仕事でいろいろチャンスをもらえてさ。わたしだって仕事、ずっとがんばってたのに……」

その後Bちゃんは自分を納得させるように、「でも娘がなによりも大事だし、ずっと子どもがほしかったから、別にいいんだけどね」と笑った。

Bちゃんの気持ちは、わかる。

仕事に対するやる気もあるし、能力も十分。
でも子育てで仕事を離れなきゃいけないから、そもそもその土俵に立てない。
同じチャンスをもらえれば結果を出せるはずなのに、そのチャンスがない。

自分で選んだ道でしょ、といえば、それはそうだ。
とはいえ、すぐに割り切れるものでもないだろう。

「子育てで仕事から離れていなければ、いまごろ……」と思ってしまうパパ・ママを、わたしは責める気にはなれない。

でもこのBちゃんの気持ちは、改めて考えてみると、ゲーム友だちAさんの主張と同じじゃないだろうか。

「時間がある人や努力した人が報われる。でもその土俵に立てない自分はどうしようもない。そんなのひどい」と。

子育て社員をさいなむ不安と焦り

正直、ゲーム友だちのAさんの話を聞いたとき、「努力もしてないのにレアアイテムがほしいなんてがめつい人だな」と思った。

でもBちゃんの話と合わせて考えてみると、Aさんは別に、ラクしてアイテムをほしかったわけではなかったのかもしれない。

要は、不安と焦りだ。

みんな倒しているボスを倒せていない劣等感。
ほかの人の話に入れないさみしさ。
そういうのが合わさって、「わたしはそんなにゲームする時間がない、みんなずるい」という発言になったんじゃないだろうか。

Bちゃんもきっと、仕事をがんばっている人が評価され、キャリアアップしていくことを、心から「ずるい」と思っているわけではない。

育児休暇のあと、ちゃんとやっていけるだろうか。育児と両立できるのだろうか。
みんなに迷惑をかけてしまった。受け入れてもらえるだろうか。
ほかの人はいまどんな仕事をしているんだろう。

そんな不安や焦りが入り混じって、仕事だけに集中できることを「ずるい」と表現したんだと思う。

ワークライフバランスという言葉が浸透してきたとはいえ、マタハラやパタハラなんて言葉があるように、「仕事と育児を両立したい」人と「仕事に集中できる」人のあいだには、溝が生まれやすい。

「子育て社員のフォローを押し付けられるシングル社員の不満」なんて特集をちらほら見かけるが、仕事をしたいなか育児フェーズに突入してもどかしい思いをしている人もまた、たくさんいるのだ。

仕事10と、仕事・育児5:5の社員はちがう

とはいえ、だからといって、育児休暇中の人や、育児との両立のために仕事量を調整している人と、仕事に全力を注いでいる人を、まったく同じ扱いにするのも無理な話だ。

そうしたら次は、「ワーママ・ワーパパは優遇されていてずるい」となってしまうから。

そもそも環境がちがうのだから、仕事5:育児5の人と、仕事10の人とで差が生まれるのは当然で、むしろ公平な評価ともいえる。
「ログイン時間が短い人でもアイテムゲットできるように難易度を下げました」なんて仕様変更するゲームがないように、その差はあって当然なのだ。

でも、だからといって「子育てしたらキャリアアップはもう無理だぞ」と突き放してしまえば、その企業で働き続けようという人は減ってしまう。

じゃあどうすればいいのかといえば、結局のところ大切なのは、「リカバリーが可能かどうか」じゃないだろうか。

Aさんがほしかったのはレアアイテムではなく安心感

ゲーム友だちのAさんが「ずるい」発言をしたあと、わたしは彼女と、こんな話をした。

「いまはまだこのボスは難しいですけど、今後のアプデで強い武器が増えたら、難易度下がりますよ。まだ先の話ですが、難易度下がってから挑戦すればいいんじゃないですか?」
「まぁ、そうなんだけど……。でもまわり、みんな持ってるし……」

「別に、まわりが持ってるからAさんも持つべきってわけじゃないですよ。Aさんが持ってるあのアイテム、わたし持ってませんし」
「あー、うん、そうだね。そう、そうなんだけど……」
「すぐにアイテムがほしい気持ちももちろんわかりますよ。でもAさんにはAさんの楽しみ方があるじゃないですか」

実はこのAさん、ゲームの風景を撮影して加工しツイッターにアップしていて、そこそこフォロワー数がいるのだ。
その技術とセンスはAさんならではのもので、わたしなんかじゃ到底足元にも及ばない。

「そんな急いでゲットしなきゃいけないものでもないですし、Aさんがのんびり風景撮影して楽しんでるの、わたしはすごく素敵だと思いますよ」
「そうかなぁ? ふふ、ありがとう」
「いやいや、マジです。スクショ、毎回すごいなって思ってますもん」

このやり取りを思い返してみても、Aさんは努力せずにレアアイテムがほしかったわけじゃないんだとわかる。ただ、みんなに置いていかれるんじゃないかと不安だっただけ。
少し時間が経てば入手しやすくなるから焦る必要はないこと、AさんにはAさんのいいところがあるからだれかと張り合う必要はないことを伝えれば、「そうだね」と納得してくれた。

きっと、ちゃんとリカバリーできると安心し、強いボスを倒せなくとも肩身が狭くないとわかれば、それでよかったのだ。

必要なのは、不安や焦りを解消するリカバリー環境

育児休暇においても同じで、大事なのはきっと、リカバリーできるかどうかだ。

育休のあいだ仕事を離れていた人と、そうではない人。両者をまったく同じ扱いはできない。
でも少しのキャリアの差なんて、すぐに埋められる。
結果を出すためにちゃんとチャンスが与えてもらえるし、結果を出せば評価される。

そういう安心感があればきっと、「仕事に集中できる人はいいよね……」という気持ちは小さくなっていくと思う。

もちろんこれは、育休だけの話ではない。
病気で離職せざるをえなかったとか、親の介護で時短ワークをはじめただとか、仕事に注力できない環境になることは、だれにでもありうる。

現実として、それが転職や昇進の際、ハンデになることもあるだろう。
でも人生長いのだから、数年のキャリアのちがいなんて、もはや誤差。十分埋め合わせ可能なはず。

たとえば、大学には浪人した同い年の後輩や、留学のため休学して5年で卒業した友だちが何人もいたけど、その1年がその後の人生を大きく左右したようには思えない。

順調にキャリアをスタートさせたのに上司と折り合いが悪く心を病んで現在休職中の人もいるし、同期が出世するなか結果を出せなかったけど30すぎて活躍しだした人もいる。

人生、そんなものだ。

今「失った」と思ったものも、少し時間が経てば、取り戻すことができる。

そういう安心感があれば、仕事を一旦離れる人は「いまは育児をがんばろう!」と割り切りやすくなるし、男性社員の育休取得ハードルも下がるんじゃないだろうか。

育児休暇を取得する人へのケアとして、その後リカバリーできることを伝えること、そして実際にそれを可能にする環境をつくることが大切なのだ。

雨宮 紫苑

執筆者雨宮 紫苑
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ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

20以上の業歴による経験を活かし現場に寄り添い、

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