「アンガーマネジメント」とは、「怒りの感情と上手に付き合うための心理的なトレーニング」のことです。
怒りはとても自然な感情ですが、行きすぎると健康面でも、職場でも悪影響を生じることもあるでしょう。
そこで本記事では、怒りがもたらすデメリットや、アンガーマネジメントの実際の方法、そしてアンガーマネジメントが企業に与えるメリットをご紹介します。
アンガーマネジメントとは?
(1)そもそも怒りとは何か、健康上にはどのような影響があるのか
アンガーマネジメントを解説する前に、まずは「怒り」という感情について説明します。
怒りは、「〜してほしい。~せねばならない。」といった期待や欲求が成就されなかった場合に発生する感情です。
期待が成就されない場合、まず湧き上がってくるのが不満感情なのですが、それがさらに大きくなると怒りに変わります。
そして、怒りの感情が外に向かうと攻撃や八つ当たりといった行動に出やすくなり、内に向かうと自分を責めたり、うつ症状、頭痛といった身体症状に現れるようになってしまいます。
怒りは、とても自然な感情です。
しかし、必要以上に怒ったり、怒りの感情を無理に抑えると、人間関係や仕事でトラブルになったり、心身の健康にダメージを与えることもあります。
(2)アンガーマネジメントとは
アンガーマネジメントは、「怒りや攻撃的行動の自己制御能力の促進をするための構造化介入」と定義されています。
言い換えると、アンガーマネジメントは、怒りの感情への適切な対処を学び、上手に付き合うための心理的なトレーニングともいえます。
アンガーマネジメントプログラムの対象は多岐に渡ります。
犯罪者、ドメスティック・バイオレンスの加害者、虐待の加害者、攻撃的な青少年や小中高生といった司法領域に加えて、教育分野についても対象となります。その他、高血圧患者、精神障害の入院患者、対人関係における葛藤を抱えやすい対人援助職等(警察官、教師、運転手、軍人等)にも活用されています。
アンガーマネジメントプログラムは、下の表のとおり、怒りの背後にある認知や不適切行動へのアプローチを行う内容となっています。
(3)怒りのコントロールのステップをご紹介
では、実際にアンガーマネジメントにおいて、怒りのコントロールはどのようにしていくのでしょうか。
以下に、実際の方法をご紹介します。
-1 6秒間待つ
感情のピークは最初の6秒です。
大きく深呼吸したり、頭の中で6まで数えたり、まず6秒間待ったりすることで、怒りのピークをやり過ごすことができます。瞬間的な怒りをまずはしずめましょう。
-2 自分を怒らせた正体を知る
ある人が又はある出来事が、自分を怒らせたと考えがちですが、その正体は“べき”という言葉です。
仕事はこうやるべき、部下はこうあるべきなど、自分が信じている“べき”が裏切られたときに人は怒りを感じます。
自分の“べき”を知ることで、怒る前に自分の怒りを察知できるようになります。自分が何に対して怒りを感じやすいのかを、明確にしましょう。
-3 “べき”の境界線を広げる
どういう“べき”を信じるかは人それぞれですが、その境界線により怒る回数は増減します。
自分と同じ“べき”(OKゾーン)と自分と違う“べき”(NGゾーン)の他に、少し違うが許してもいい中間(許容ゾーン)を作り、“べき”の境界線を広げることで、怒らなければいけないことが減るとされています。
“べき”の境界線は、以下の図でイメージがしやすいかと思います。
こうした方法で、怒りを上手にコントロールしていくものがアンガーコントロールです。
怒りがもたらすデメリットとは?アンガーマネジメントのメリットは?
(1)怒りがもたらすデメリットは?
では、怒りがもたらすデメリットについて、職場での場合を想定して解説していきます。
怒りの表現の仕方には、以下の3種類があるとされています。
- 怒りを感じたときに、攻撃的な言葉または行動をその対象や環境物にぶつける
- 怒りを感じたときに、それを心の中で感じ続ける
- 怒りを感じたときに、その怒り感情を制御しようとする
このうち、攻撃的な言葉や行動を外に向かってぶつけるタイプは、職場では「よく怒る人」「よく怒る上司」として認知され、周囲とのコミュニケーションが取りづらくなる可能性があります。
管理職など、部下を擁する立場の方が攻撃的な怒りを常に周りにぶつけていると、パワーハラスメントとなってしまう恐れもあります。
職場でのパワーハラスメントは、職場において行われる、
(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、
(1)から(3)までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
部下に対して上司が怒りに任せて叱咤や指導をしてしまうと、この上記3つの要素を満たす可能性があるのです。
管理職でなくとも、周囲との円滑なコミュニケーションが取りづらくなった場合には、仕事の生産性が下がり、作業効率も悪くなるというデメリットもあります。
(2)アンガーマネジメントのメリットは?
職場で怒りがもたらすデメリットを解説しました。
アンガーマネジメントのメリットは、これらのデメリットを解消することにあります。以下、具体的に紹介していきます。
-1 パワーハラスメントの防止効果が期待できる
周囲に攻撃を加えるタイプの怒りは、特にパワハラに結びつきやすい怒りです。
例えば、部下のミスに対して怒り、つい机をバンと大きな音で叩いてしまったり、椅子を蹴ってしまったりする行為がなどが該当します。先ほど述べたように、相手を萎縮させる精神的な攻撃とみなされ、パワーハラスメントと認定されてしまうこともあります。
アンガーマネジメントを学び、実施することで、このような行為が抑制され、パワハラの防止に繋がるでしょう。
-2 怒りの感情のために割いていた時間が減り、生産性が上がる
怒っている時に質のよい仕事をすることは、業種によらず難しいと思われます。
また、できる作業の量も低下してしまうことでしょう。職員一人一人が、アンガーマネジメントを学ぶことで、怒る頻度が低下し、作業効率が上がるというメリットもあります。
-3 意思伝達がスムーズになる
適切ではない怒りに支配されてしまうと、本当に相手に伝えたかったことや実現したかったことが伝わらず誤解を招いてしまうということがあります。
アンガーマネジメントによって、怒りではなく、適切な言葉で意思を伝えることができるようになります。正しく意図が伝わるようになり、職場の人間関係も良好なものになる効果が期待できます。
-4 人材獲得に好影響
アンガーマネジメントを社員が学ぶことで、働きやすい職場環境になることが期待できます。
その結果、人材流出の防止や、「働きやすい職場環境」という評価につながり、人材獲得に好影響が現れる効果もあるでしょう。
アンガーマネジメントを学ぶべき社員はどのような人か?
アンガーマネジメントは、誰もが学んだ方が良いスキルです。
その中でも、特にこのような人にアンガーマネジメントはおすすめです。
(1)普段から、怒りの「度合い」が強い社員
よく怒り、特に周りに攻撃を加えるタイプの怒りをよく発出している社員はアンガーマネジメントを身につけることで本人、周囲の両者にとっても良い影響があります。
(2)主張が少なく、ストレスを溜めがちな社員
一方で、なかなか怒りを表出をしない人もいます。このような人は、逆に怒りにつながる感情を自分の中に溜め込み、いつか爆発してしまうことにもなりかねません。
セルフコントロールの一環として、アンガーマネジメントを身につけることがおすすめです。
(3)パワハラなどへの理解、メンバーのマネジメントが必要になるリーダーや管理職層
管理職層自身が攻撃的な怒りをコントロールできることで、パワーハラスメントの防止につながることが期待できると先ほど述べました。
その他にも、相手の価値観・感情を理解して受け入れるということ、自分だけでなく周囲の部下にもアンガーマネジメントを伝えていけるようになると、職場全体にとって良い効果があるでしょう。
まとめ
今回は、怒りをコントロールするための手法としてアンガーマネジメントがあることや、具体的な手順をご紹介しました。
怒りは人間として当然の感情ですが、上手にコントロールすることで、自分も周りもより快適に過ごすことができます。職場でも良い効果が期待できますので、アンガーマネジメントを学ぶことを検討してみてはいかがでしょうか。